戦線布告
遠藤司。
コイツはかなり厄介な奴だ。
俺がどんなにシカトしても、冷たく突き放しても、まるで金魚の糞みたいにまとわり付いてくる。
いい加減、俺も我慢の限界だ。
だって今はもう放課後で、コイツは1日中俺にまとわり付いて離れないんだから。
「高橋〜!なぁ、無視すんなって〜!質問に答えろよ〜!」
靴箱で靴を履き替えてる俺の後ろで、耳障りな声を出して話掛けてくる遠藤司。
俺は大きくため息をつくと、ゆっくりと後ろを振り返った。
「はぁ…君ね、いい加減にしないとマジでぶん殴るよ?」
俺より背の低い遠藤司を見下ろしながらジロリと睨むと、一瞬身体をビクッと震わせてははは、と乾いた声を出す。
「冗談でしょ?笑」
「いや、まじで。」
「……」
俺の気迫に怖気ついたのか、言葉に詰まり俯く遠藤。
悲しそうな目をして今にも泣き出しそうにしているコイツの顔に俺は更にイライラした。
何なんだよコイツ、マジで。
そんな顔して俺に同情でもさせようってのか?
するかよ!ってかお前は女子かっ!
たとえお前が女子だとしても、俺は同情なんかしねぇし。
ってか、そもそも俺はこんな女子、めっちゃ苦手だ。
「….あのさ、俺マジで中学の頃の話はしたくないし思い出すのも嫌だからさ、もうほっといてよ。頼むからさ。」
そう言い残してその場を去ろうとした。
ーすると何を思ったのか俺の制服をグッと掴み離そうとはしない遠藤。
「…っ!何すん….」
「アンタは俺の憧れだったんだっ!」
「は?」
「中学の頃のアンタは誰もが憧れるアイドル的存在で、いつもキラキラ輝いてた。なのに…なのに何でそんなダサダサな根暗みたいになってんだよ?どうしてそんな風になっちまったんだ?」
「….君には関係ないでしょ。」
頼むから、ほっといてくれ。
「…っ、関係ないかもしれないけど気になるんだよっ!なぁ、教えてくれよっ!」
「しつこいなぁ!ほっといてくれって言ってるだろ?」
思い出したくないんだよ!
何で分からないんだコイツ。
マジでウザいんですけど。
「…アンタが話してくれるまで、俺はアンタに付きまとってやる。」
「は?」
「俺は諦めないからなっ!何でそんな風になっちまったのか訳を話してくれるまで絶対に諦めないからなっ!覚悟しとけよ高橋涼真っ!!」
ビシッと腕を伸ばして俺を指差す遠藤。
どうやら俺は遠藤に戦線布告されたらしい。
上等じゃねぇか!受けて立つ!
俺は絶対に話さないぞ!
どうしてこうなったのか、その訳を。