夢人島にやってきた普通っぽい人たちが早速争う。
ライトノベルです。
好きなので。
「精神鑑定の結果、彼は悪人になりました。よって彼は悪人島に移ってもらいます」
千登里の母は言う。「待ってください! 息子は悪人なんかじゃありません。高校に行った分のお金は返すって言ってるんですよ。こんな良い子他にいますか?」
千登里の父は言う。「誰が何と言おうと息子は善人だ。お前らだってそんなことくらい分かるだろッ。この精神鑑定には恣意的な思惑を想起させる。私は断固としてこの判定に抗議する」
西暦2000年。
世界的評判の良悪がハッキリとした他に類を見ない独裁国家ジパング。
国では悪人と善人で住む場所を分ける性人隔離が実行されていた。
昼。
大型船から港に降りる人々。大きな荷物を抱えている。リュックサックやキャリーバッグが主だがショルダーバックやボンサックの人も居る。
その中に千登里は居た。リュックサックを担いでいる。
千登里の自己紹介――千登里真水。男性。身長170㎝。体重62キロ。髪は黒。天パ。性人隔離の反対派で過激派の『良和会』の幹部を担う父を持つ。良和会幹部の息子、その肩書きから出会う人皆に畏れられて育った。ちゃんと学校には通った。高校を卒業するまでに問題を起こしたことは一度も無く、普通なら目立たない生徒として学生生活を送った。現在、20歳で大学には進学してない。仕事をしたことも無く、親の仕送りで一人暮らしをしていた。親の七光りという言葉が似合う普通の人。
船から全員が降りた後、拡声器を持った人が両側に軍用銃を持った人たちを連れて降りてきてダルそうな声で言った。
「みなさんには今日からここで生活してもらいます」拡声器を持った人が色々説明した後、おそらく自身の感想を言った。「ここに警察はいません。裁判官もいません。そういう役割を持った人が居るかも分かりませんが。えー、なのでここは大変危険な島だということはみなさんも事前に調べて承知していると思います。殺人、レイプ、略奪。バンバン起きます。ただ、ここに来た人たちって言うのはここに来るだけのことをしてきた人たちです。もし、誰かに殺されてもそれは自分の罪が自分に返ってきたんだと受け止めて誰も憎まずに死んでください」
そう言って拡声器を持った人と護衛は船に戻り、本土へと帰っていった。
島の正式名称は夢人島。
通称悪人島。
インターネットなどで大々的に紹介されている。
様々な情報を真偽はともかく要すれば『悪人だらけ、かつ本当の意味で無法地帯』。
島の面積は約0・5㎢。
島の中心から大部分に山が立っている。
夢人島にやってきた新島人は計104人。
どうして良いか分からず、バラけるようでバラけない104名。
「ああああああ、めんどくせー」頭を掻きながら金髪の青年が声を荒げる。
「いぇーーーい。俺は自由だーーーーーーーー!」坊主の男が叫ぶ。
「悪人島ってなんだよ。楽園の間違いだろ」髭が伸びっぱなしで長髪のおっさんが笑いながら言う。
ポツポツと人が集団から離れていく中、千登里は皆を見てオロオロしている1人の女の子に声を掛けた。
「大丈夫?」
「へっ」
女の子の後ろから話しかけたら怖がられた。
引いている女の子。「なんですか……?」
「足、血が出てるから大丈夫かなって」
「え?」女の子が足を見る。「あ、ああ本当だ。すりむいたのかな。有り難うございます」
「大丈夫? 消毒液と絆創膏なら持ってるけど」言ってバッグから2つを取り出し、女の子の足を手当てした。「この島は危ないっていうのは皆分かってる。貴女から見た俺も危険人物に映ってると思う。けど集団にならないと尚更危ないのは言うまでもない。ココは協力し合いませんか? 名前はなんていうんですか?」
「私は、姫路って言います」
「姫路なんていうんですか?」
「姫路優羽です」
「そう。姫路さん、僕らは仲間ってことで良い?」
「…………」
「まあ、仲間になっちゃうよ。俺、善人だから。とりあえずこれから仲間作りをするから協力してもらって良い?」
姫路優羽。女性。18歳。有名進学校に在籍していた。コンビニで万引きしてこの島に連れてこられた。
二人は皆を眺めている坊主頭の若者に声を掛けた。坊主頭は背が高くて筋肉質で色黒でデカいリュックサックとショルダーバックとボストンバッグを担いでいる。
「名前、なんていうの?」千登里が尋ねる。
「俺ですか?」若者が言う。
「うん、俺たち今仲間集めしてるの。君、見るからに強そうだから声かけた」
「見かけだけですよ」
「身長何センチ?」
話し合ったら仲良くなった。
色黒青年の名前は桐木会心。高校では野球部に所属。スポーツ特待生で入学した。公式戦で起こしたミスによりメンバーから責められ、キレて暴行。精神鑑定で悪人と見做され、島に連行された。
3人というか千登里は小さい男性に話しかけた。
「こんにちは」
いぶかしむ男性。「……こんちは」
「君、何歳?」
「……15歳」
「どうしてココに来たの?」
「…………」
「仲間にならない?」
「…………」
「一人じゃ危ないよ?」
怒りを抑える元中学生。「……分かりました」
元中学生の名前は小河原道真。男性。身長は160㎝。体重49キロ。目が隠れる長い前髪が特徴的。チビと言われて虐められていた。虐めていた男子をボコボコにしたら島に送還された。
4人になり、メガネをかけて無精ひげを生やした男に千登里は声を掛けた。
「名前はなんていうんですか?」
「花見って言います」
「僕は千登里って言います。良ければ一緒に行動をしませんか?」
「はい」
花見和善。男性。25歳。会社をクビになり、ニートをしていたが親から強制的に悪人島へ行かされた。
千登里は4人に話す。「この5人で一緒に生活しよう」
桐木が尋ねる。「他の人は誘わなくて良いんですか?」
「5人で良いよ。後でどうとでもなると思うし。今はそんなに誘わなくて良い。それに危ないから。粗雑な精神鑑定だったとは思うけど実際これだけ人が居たら何人かは本物の悪人であってもおかしくない。たとえこの中にいなくてもスピーカーで話してた人も言ってたけど元々住んでる人の中に悪人が居るのは間違いない。その人たちからいつ狙われるか分からない恐怖で自暴自棄になって犯罪を犯す人もいるだろうし、法律の無いこの島じゃ自分を解放して犯罪を犯す人も出てくるだろうし。一緒に生活する人が多ければ前者になる人は減るだろうけど、あんまり多くなると後者の人間が出てくるだろう。今必要なのは強い結束力と悪人の攻撃に耐えられる立地条件の良い土地を探すこと。5人で十分」
千登里は港から島の見える所だけを見る。
分かったのは森の中に少なくとも高層アパートが2つ建ってること。
手入れがされてないのでそこかしこに草が生えまくってること。
自然と自然的人工物の調和。遠くから眺めるならワクワクする。そこに住めと言われたら恐怖しかない。
5人は無法地帯を歩く。桐木が高層アパートを見て言う。
「アレ廃墟ですね。2棟ともボロボロ。窓割れまくってますよ。元々居る島人たちが暴れてあんなことになったんですかね?」
「今は無人島だけど、昔は借金とかで首が回らなくなった人たちに労働を強制させる奴隷島だったらしいよ」千登里が答える。「この島に住んでた人たちの怒りの象徴なんだろうね」
「おっかねー」
「必要になるだろうから訊いときたいんだけど桐木君は喧嘩出来る?」
「しなきゃらないんですよね? ならしますよ」
「花見さんは出来ますか」
「桐木君と同じ意見です」
「小河原君は?」
「……したくないです」
「姫路さんは出来る?」
「闘わなきゃやられるんだから闘います」
「オッケー。みんな上出来だ。俺は喧嘩になったらみんなの後ろでみんなの戦いぶりを眺めてるよ」
千登里真水は主人公。
港を歩く5人。千登里は言う。
「危険だけど、島の現在の状況を知らないとな。どれくらいの規模のコミュニティが幾つ形成されてるのかで俺達の身の振り方が変わってるくるし」
千登里は地面に落ちてた木の棒を拾った。
地面にカツカツ打ち付け、強度を確かめて所持した。「仮に小さいコミュニティしかないんだったら俺たちもそれに習って自給自足の生活をすれば良いしな。大規模なのがあったらソコに取り込まれるしかない。先ずは島のパワーバランスを知らないとダメだな。みんな、この島で生きていく知識って持ってる?」
姫路と桐木と花見が「少し調べた」と答えた。
実際、姫路は結構調べてる。桐木は少し調べてる。花見はほんの少しだけ調べてる。
「千登里さんは?」桐木が尋ねた。
「全く調べてない。メンドくさくて☆」千登里は小河原に訊く。「少年はどう?」
「僕も調べてないです。……いつ死んでも良かったから」
「泣けるぜ。小河原君が死んだら君の人生を伝記にして良い?」
「どうぞ。売れますよきっと」
「君、結構ポジティブだな」
しばらく歩いて海岸に着いた。
「誰も居ない。海には魚がいるからココらで誰か生活してても良いはずなのに」千登里が言う。「他で食料を確保出来るサイクルが確立してるからわざわざ海側で暮らす必要がないわけか。腹減ったな」
5人は遅めの昼食を摂る事にした。
担いできたバッグからおにぎりと菓子パンを大量に取り出す千登里。
バッグの中には缶詰やカップラーメン等も入っている。
「あ、その菓子パンめっちゃ美味しそうですね!」
「うん。これ、美味いよ。食べてみる?」
「良いんですか? ありがとうございます!」
普段何気なく買っている菓子パンの希少性を理解し、大喜びする桐木。
それに応じる花見。
5人は輪になってモグモグ食べた。
「これからどうしましょう?」花見が皆に尋ねる。
「初めは一番危険な探索作業から始ましょう」千登里が返す。「僕らの食料なんてスグになくなりますから」
「探索は一番危険ですか。島の住人を警戒しますね。僕個人の意見を言うならそんなに悪い人が集まってるとは思わないんですよ。普通、みんな生きていくために協力し合いませんか?」
「最初にスピーカー持ってた人は犯罪がバンバン起きるって言ってたじゃないですか」
「そうですけどそんなのどうやって分かるんですか? あの人たち帰っていきましたよ? 精神鑑定の結果から偏見で大袈裟に言ってるだけのような気がします」
信仰を深める為、5人は夜まで会話した。
寝るときは花見や桐木が持ってきたキャンプ用のテントを組み立て、そこで寝た。
「俺、一応見張りするよ」千登里は言い、懐中電灯を照らしながらテントの傍に座った。
30分が経ち、1時間が経ち、2時間が経つ。
昼は猛暑だったし、夜も空気が生暖かい。
眠気を抑えながら辺りを眺める千登里。眠気を抑えて起きているのはそれだけでメンタルを消耗する。辛い。
傍に姫路が座った。「大丈夫ですか?」
「うん?」
「千登里さんは眠たくないんですか?」
「大丈夫……じゃない」
「私も見張ります」
「姫路さんは眠たくないの?」
「大丈夫です」
千登里はニコニコしている姫路を見て感謝した。
愛しくなって2秒で恋に落ちた。
早朝。空はまだ薄暗い。
「4時くらい?」外で座りながら仮眠をとっていた千登里が起きて尋ねる。
「4時半近くです」腕時計を見ながら姫路が答えた。
テントから出てくる桐木。少し経って花見、大分経って小河原が出てきた。
5人はテントを閉まう。
「じゃあ今から山に入るから、一応、みんな何か武器を持っとこう」
皆はバッグから工具や包丁を取り出し、ポケットなどに収めて山の中に入っていった。
夜中の3時。男A・B・Cは焚き火をしながら話す。
「今年の新人に女、何人いるかな?」
「可愛い子が沢山居れば良いな」
「なあ、俺が最初で良い?」
「ったく、おまえってやつは(笑)。良いよ、好きにしろよ。どうせ仲間に入れたらメンバーからレイプされまくるんだから」
3人は火を消した。
千登里たち、5人が山の中に足を踏み入れて一歩目。腕に赤色の布を巻いた3人の男達が見えた。
5人と3人の距離は10メートル程。
木の棒を持った男達が5人に向かって走ってきた。
ポケットにあるスパナを握る桐木。皆も武器を握る。
「うぉーい、新人かおまえらー?」男Aが桐木の元に走って彼を木の棒でぶん殴る。
男Bは小河原を襲い、男Cは花見に攻撃する。
仲間がやられているのを見て涙が出る姫路。だが近づくのは危険で止められない。
頭を両腕で抱え込み、防御姿勢を取る桐木を見て千登里が木の棒で男Aの頭をぶっ飛ばす。男Aの頭が真横に倒れる。
千登里はそのあと男Aがどうなったか確認せずに男Cにフルスイング。木の棒で受け止める男C、一歩下がる。
頭部から血を流すキレた桐木が男Cに飛び込むように近づき、素手でぶん殴った。そのまま殴りまくる。千登里も男Cを攻撃しまくる。倒した。
「あああああああっ」
大声に驚いて振り向く千登里。
「うあああああああっ」小河原が鉄の棒で既に息絶えている男Bを殴りまくっていた。
鉄の棒はダンベルのシャフト。プレートを固定する器具は付けてない。
「小河原君、もう大丈夫だよ。ていうかもう死んでるよ」後ろから小河原の身体を羽交い絞めにして男Bから遠ざける千登里。
「フーッ、フーッ」半泣きになりながらキレまくる小河原。「うおらうらああごらうらぁあああ」
「なに言ってるか分かんないよ小河原君」
5人は落ち着く。落ち着いたら千登里も怖くなってきた。5人は男3人を引きずって海岸に戻った。無法地帯と言われる島でも罪に問われる心配をする5人。
死体を調べる。
千登里は冷静に言う。「彼らは3人とも赤い布を腕に巻いてる。これはきっとチームカラーみたいなものなんだろう。きっとこの島には派閥がいくつかあるんだ。この布で敵か味方かを区別するんだろう」
「ってことは俺たちは赤色の派閥の人間をヤっちゃったわけですか」ヤっちゃった感満載の桐木が努めて冷静に言う。
「そうだね。報復が怖いからこの3人は絶対に俺達がヤったとバレちゃダメだね」
「正当防衛ですよ。襲われたんですから。襲われたら闘いますよ。俺達は悪くない」キレている小河原が言った。
「正当防衛は本土の話。ここにそんなものはないよ」
「フーッ、フーッ」
「小河原君、怖すぎ。この3人、どう処分する?」
「ここに警察は居ないんだから誰がやったかなんて分からないっすよ」襲ってきた男たちが悪いと断じることで怒りを湧かせる桐木が答えた。
「それもそうか」
5人は3人を海岸に置いて山に入った。
「ひっ、ひぃ、ひぅ」先ほどの喧嘩で恐怖がマックスになった花見が辺りを見渡し、小さな音にもビクビクしている。「この島は普通じゃない。出会った他人を突然襲うなんて。こんな所に居たらいずれ死ぬ」
島の面積は0・5㎢。
島民と対立した場合、これから先、逃げ続けられるだけの広さではない。
なら共存はどうか。
無法地帯と呼ばれる島、実際に突然襲われた。そういう人がこの島にまだまだ居ると考えて良いだろう。大きなコミュニティに吸収されればそこのルールにしたがわなければならない。悪人が作ったルールで暮らすことはもしかしたら耐え難い苦痛を伴う事かも分からない。どういうルールなのか、そこに取り入れられた後でなければ分からない。
「島の住人と共存するか、対立するか。相当重要な話だな」千登里は呟いた。
山を登る。
そこで分かったのは建物の多さ。
アパート。
工場。
大きな建物が込み合う場所が樹海の中に点在する。
まるで田舎を縮小したような島。
違うのは建物密集地でも好き放題に雑草が生えていること。
ラストオブ〇ス的な。
途中から雨が降ってきた。最初は強く降ってすぐに弱い雨に変わった。
雨に降られて少し冷静になる5人。千登里が尋ねる。
「なんで山ってこんなに天気が変わり易いんだ? 考えてみればおかしな話だ。空と地面。違っているのは地面の方だ。街の上にある空と山の上にある空に変わりはない。なのになんで山の天気は変わり易いのか。不思議じゃないか、桐木君?」
「山にだけ雨は降ってるんですよね? 俺、今までここから雨が降っていてここからは晴れって いう境界部分を見たことが無いんで見てみたいですね」
「なんでなの、姫路さん?」千登里はなんとなく訊いてみた。
「山の天気が変わり易いのは、山は斜面になってますよね。平地の街から吹いた風が山の斜面に当たると上に昇っていきます。その風が山の上の天気を変えるんです」
「あー、例えば屋上の柵に女子高生は手を掛けてる状態で学校に風がぶつかって上に昇る1部の風が女子高生のスカートを捲り上げる感じか」
「どんな風ですか。無理ですよ」
「核ミサイルが落ちたときの爆発力があればそれくらいの風は吹くんじゃない?」
「女子高生も衝撃波で一緒に吹っ飛びますよ」
しばらく歩いたら集落のようなものが見えた。集落は鉄柵で囲われ、周りと区別されている。
「ちょっと待って」千登里は皆を制す。「危ない。遠くから眺めていよう」
集落の入り口にはドラム缶を切って作った盾と長い木の棒の先端に包丁を付けた槍を持った2人の男が立っている。2人とも赤いバンダナを腕に巻いている。
門兵に気付かれないくらい遠回りしながら集落の周りを歩いて一時間以上。
集落の出入口は2つ。対称の位置に在る。
出入口の部分を前後として横から5人は鉄柵に近づいた。
雑草が長々と生えているので5人は伏せて隠れた。移動して色々と中を見た。
「おらぁーーー。さっさとやれやぁ新人んんんんん」叫ぶ男がいる。
いち早く赤色の派閥に入ったのだろう新島民であろう人たちが働いている。
死んでいる鹿を解体している人。
畑で野菜を採っている人。
家を建築している人。
さっきから指揮を執っている男がキレまくっている。
「おいッ、お前ちょっとこっち来いッ」指揮を執る男は働いている女性を呼び、働いている男たちに叫ぶ。「お前らそのまま働いてろよ。手ぇ抜くなよ。いいな」女性を連れて小屋に入る。
千登里達の耳に入ったのは女性の叫び声。
レイプされてるのは容易に想像出来た。
「マジか……」桐木が呟く。「マジでやばいっすよ」
「ああ、ふざけてるな」千登里が立ち上がった。助けようと思った。
全力で千登里を地面に伏せさせる桐木と花見。
千登里はキレている。「包丁貸してくれ。後は俺がどうにかするから」
小さな声で強く言う桐木。「マジで止めてください。死んじゃいますよ、5人全員!」
「皆逃げて良いよ」
「人権なんて無い所ですよ。捕まったら拷問されて仲間がいるか吐かされますよ!」
「死ぬまで暴れるから大丈夫だよ」
花見も言った。「千登里さん、僕からも頼みます。止めてください。千登里さんは僕らのチームに欠かせない人なんです。千登里さんがいなくなるだけで僕らの損失なんです。千登里さんは僕らことはどうでも良いんですか?」
千登里は怒りを堪えた。
5人は集落を離れた。来た道を降りて川辺で立ち止まる。
「なんだよココは。無法地帯なんて言葉で終わらせる話じゃないぞ」叫ぶ桐木。
「戦争地帯だよ」千登里が言う。「戦利品感覚だな。間違いなく敵対チームが存在する。そんなノリだな」
「なんすかそれ」
「なにが正義なのか分からない。戦わないと女も皆やられる。戦える性格のメリットデメリットを見せられてた気がする」
「レイプしなくても戦えますよ。レイプを正当化するなんて間違ってる」
「次、同じ状況と遭遇するか分からないけど、もし会ったらその時こそ俺は突っ込むよ」
「それはダメ。レイプされた女性と千登里さんじゃ、千登里さんの方が大切だ。千登里さんは皆を助ける側の人間だ。死んじゃダメだ」
「赤色集団には入らない。他に待遇の良い所があるかもしれないから探そう」
言いながら喧嘩するのは同レベルの人しかいないという可能性を危惧した。
「でも、今回は偶然赤色集団と出会ったけど、この山の中、別の集団を見つけるのは……」
「夜になったら分かるかもしれないですよ」姫路が言う。「明りが必要だから」
5人は川辺で夜まで過ごすことにした。
周りは樹林が覆い、蛇行する小川。角ばった大きな石が大量にある。
花見は持ってきた釣り竿で釣りをする。
後ろでボーっとそれを眺める千登里と桐木。
姫路と小河原は日陰で休んでいる。
「こういう川じゃどういう魚が釣れるんですか?」桐木が花見に尋ねる。
「ヤマメだね。ヤマメは体長20㎝くらいで背中に黒い点が在り、陸封型と降海型の2種類があるけど、ここで釣れるのは前者。前者の方が小さい。カメムシ、トビケラ、カゲロウなどの水生昆虫やバッタなどの陸に生息する虫も水中に落ちたら食べる。とても警戒心が強いから慎重にアプローチする必要が有る。食べ方は塩焼きが美味い。酒のつまみとして最高だよ。仕事帰りに焼酎を飲みながら一人で食べるヤマメには涙が出てくるね」
「へー……(矢継ぎ早に喋る人だな。怒ってる?)」
話し声で魚が逃げていくからこれ以上喋らせないために色々喋ったのだろうか?
釣りをするときは話しかけないで欲しいから怒ってるのをアピールしたのか?
あまり人と会話するのが得意でないのか?
「(あるいは俺のことが嫌いなのか?)」桐木は色々考えた。「ま、いっか! ははははははははは」爆笑した。
突然、爆笑し出した坊主頭にビビる2人。
しばらくして。
「いぇぇぇぇええい」ヤマメが釣れて叫ぶ花見。
釣りのテンションじゃない、千登里は思った。花見の変貌ぶりに唖然とする。
少し離れた所にいる桐木を見る。岩場で上半身裸になって腕立て伏せを全速力で行っている。
二人の謎の行動に千登里の身体は臨戦態勢に入った。
テンポ良く投稿していこうと思います。