九話 『大会前日』
俺達は王城を出て街を見回っていた。一応王城の人に一声かけてから出てきたので問題にはならない筈だ。
「へぇ。三千年前とは全然違うな」
「なかなか発展したでしょ?」
三千年前では見かけなかったものばかりで常に新鮮な感じがする。
――あ、フリズに衰退した理由を聞くのを忘れてたな。まぁ、王城に戻った時に聞くか。
「エントリー募集中でーす。観客の方もぜひどうぞー」
大きい門の前に呼びかけをしている少女がいた。フリズの話によるところ、大きい円の二重構造になっているらしい。入るには最初の円にある二つの門からでしか入る事は出来ない。壁の高さは100m近くあって門以外からは入る事は出来ないそうだ。腕のたつ魔法使いなどは入れるらしい。それに門の近くには門番の兵士が最低でも10人はいるらしい。
ここまで聞くとかなり厳重に聞こえるが入るのはそこまで難しくない。きちんと手続きを済ませたら誰でも入れるのだ。二つ目の門では殆ど兵士はいない。更にスムーズに移動してもらうため四つの門がある。更に出場者の出入り用の門が2つ配置されている。
「俺もエントリーを受ける」
「それではあちらで受付をしておりますので」
「わかった」
俺は受付をしている男2人のところまで移動した。
「エントリーを受けたい」
「1500ゼファー必要になりますが大丈夫でしょうか」
「問題ない」
自分の正体を判明させるのにお金がかかる。これだけで気の短い者は怒りを露わにしただろうが流石に何百年も生きた事もありその程度は何も思わなかった。それにリーヴァが生きていた時代と通貨が同じだったので自分で払う事が出来た。
「それではこの紙に名前、年齢、持参する武器を書いて下さい」
名前はそのままリーヴァ・フィルフォード。歳はごまかす必要も無いが実は100歳を超えてから数えていないので分からない。なので適当にミユと同じく17歳と書いた。武器は無くてもいいが一応何が起こるか分からないのでダガーを持参することにした。
「ありがとうございます。大会は翌日行います、このプレートを忘れずに持ってきてください。そう出ないと出場出来なくなりますので」
俺は渡されたプレートを受け取った。プレートには1111と書かれていた。俺はプレートをポケットに入れた。
「あぁ。それと一つ聞きたいんだが」
「はい、なんでしょう」
「この大会で英雄リーヴァだと認められれば何でも願いを一つ叶えてくれるって本当か?」
受付の男は俺が書いた紙を他の紙に纏めたりほかの人から紙を受け取ったりしていて、この上無く忙しいのが良くわかる。
「えぇ。本当ですよ、王族にかかれば地位もお金も女でも何でも叶いますよ」
「……あー。そうか、とても有益な情報をありがとう。」
――どうやら願いを叶えてくれる道具でもあるのかと思ったが、王族が叶えてくれるのか……まぁ、別に俺達で記憶を取り戻させればいいんだが。
「エントリーを済ませてきた。大会は明日だし時間もまだある。少し街を見て回らないか?」
「そうね。貴方達はこの街は初めてなんじゃない?」
「そうだな。ミユはともかく俺もサラステも何も知らないからな」
フリズはエルフなので寿命も長く今までこの街で生きてきた。対してリーヴァ達は転生したりと三千年間を開けているのでその間で何が起こったなど全く知らないのだ。
「だったら私が案内してあげるわ」
「おー、それは助かるな。ぜひとも頼む」
フリズは任せなさい。と胸を張って言う。そんな光景に俺はそっと微笑む。
――そういえばフリズは頼られるのが好きだったな。
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――――
――
「ここのお店のサンドイッチ美味しいのよ!」
フリズは並ぶ屋台の前でおすすめの屋台を教えている。
「じゃあここのサンドイッチ食べてみるか。サンドイッチを4つ頼む」
「はいよ」
「ありがとう。ほら、お前らも食べてみろよ」
俺は皆に配る。それぞれありがとうと言って受け取った。サンドイッチの具は瑞々しい赤色の野菜と魔物の肉が、挟まっている。
食べている様子を見ているとサンドイッチは好評のようだった。ほかの屋台に寄ってみたり、雑貨店でブローチやらネックレスを見て回ったりした。三千年後の街をとても堪能することが出来た。
「もうこんな時間か、そろそろ帰るか?」
空は茜色に染まってきた頃だ。何やら鳥の魔物までもが鳴きながら巣に戻ろうとしている。それだけではない、昼はあんなに賑わっていたのに今では殆ど人がいない。
「そうね。明日の準備もあるだろうし」
「そういえばお前達は大会の間何処にいるんだ?」
「私は賓客として呼ばれているから皆とは別になるわ」
「私は観客席かな」
「私もミユ様と同じく観客席ですね」
「ミユとサラステは兎も角フリズ、お前そんなに高い地位にいたのか?」
三千年前でもかなり高い地位にいたがやはり三千年という時間があれば相当な地位にまで上り詰めていたようだ。
「まぁそうね。リーヴァ達が居なかったからこれぐらいしか無かったのよ」
「そうか。でもこれからは一緒だな」
「えぇ。そうね」
お互い表情を緩める。俺はなんだか四つの視線を感じる。
「……なんか良い雰囲気だね。まるで恋人みたい……」
「まぁ三千年前は結構仲が良かったですから」
「…………帰るか」
決して視線のせいで居心地悪くなったので帰る訳では無い。もう夕暮れなので帰るだけである。