六話 『悩み』
俺が丁度朝食を食べ終えた後にドアが勢いよく開いた。バンッ!という音をたてて入ってきたのはフリズである。その表情は憤怒であった。
「どうした?朝からそんなに怒って」
俺はフリズを宥めるような言い方で話しかけ、コーヒーの入っているカップを持って一口飲んだ。
「これが落ち着いていられるわけないじゃない!」
フリズは両手をテーブルに強く叩きつけた。
「リーヴァ。あなたとミユをなりすます人が続出しているのよ」
「あぁ。さっきフィルメスから聞いた」
「じゃあ何か思うところはないの!?なりすましている人は何もリーヴァとミユの事を知らないわ!貴方達が一体どんな人生を送ってきたのかも!そんな奴らに勝手に語られてもいいの!?」
俺はフリズの言葉をすべて聞き終わったあとにまた、コーヒーを一口飲んだ。コーヒーに含まれているカフェインのおかげか意識はスッキリとした。そしてふう、と一つ息を吐いた。
「何も思わない訳じゃあない。だがな、人間っていうのはそういう生き物だろ?欲のためなら平気で裏切る。遥か昔からそれは変わらないだろ?むしろその欲は強くなっている」
そして俺はまたコーヒーを一口飲んだ。そしてカップを置いた。俺はフリズの方へと目をやると嫌な思い出を思い出したようで、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「えぇ。そうねごめんなさい」
俺はフリズの頭を胸元あたりで抱きしめ、撫でた。
「あぁ。俺達のことを一番の想ってくれたのはお前だけだったよ。本当にありがとう」
「……ううん。良いのよ、それよりもなりすましは放っておくの?」
「いや。放っておくほど俺はお人好しではない。何かあるといいんだがな」
「そういえば、あまりにもなりすましが多いから本物を見つけるため大会が行われるらしいわよ。それと優勝者にはなんでも一つ願いが叶えてもらえるらしいわよ」
「ほう…。取り敢えず望み薄だがかけてみるか」
本当に叶えてくれる保証なんてないがその時はその時だ。
コンコン、というノックが響く。俺は扉を開ける。
「ちょっと。お話いいですか?」
扉の前にいたのはミユだった。
「あぁ。いいぞフリズがいるんだがはいない方がいいか?」
「いえ。フリズさんにもお話があるので」
「そうか」
俺はミユを部屋に入れてベッドに座らせた。
「私……今まで何かが違和感を感じながら生きてきました。けれどもその違和感が何なのかわからないし私が何かしても変わる気配は全くしませんでした。だから自分自身に嘘をついて生きてきました。けど、この世界に来てリーヴァさんとフリズさんと出会って話してみて私はここの世界の住人だって言うのがわかったんです」
俺とフリズは黙ってミユの話を聞いた。
「私は前世の記憶を思い出したいのに何故か思い出せなくて……!」
後半辺りからミユの目には涙が浮かぶ。
「こうやって……時間が過ぎていく度に…辛くなって……約束…した筈なのに……!」
ミユの目からはポロポロと涙が溢れてミユの膝を濡らしていく。
「ミユ…」
俺はミユの横に座り横から抱きしめた。
「いいんだ。お前がこんなに苦しむ必要は無い」
「でも、でも……」
「そうよ。あなたは正直に話してくれたじゃない」
「今は思い出せなくてもきっとミユの記憶は取り戻すから安心しろ」
「うん…うん……ありがとう…」
ミユは2人に抱きしめられ、ほっと安堵したような表情になっていた。それから数分後ミユはすっかり泣き止んだ様子だ。
「そういえば言っておかなきゃいけない事があるんだ」
俺はミユから離れ、また椅子に座った。
「――大介達を元の世界に帰還させる」
「…それってミユも帰還させるの?」
「こればっかりはミユの意思だ。ミユがここに残るなら大介達からミユの記憶を抹消する。もし大介達と一緒に帰還するならそのまま帰還させる。ミユ、どうする?」
俺はミユの方を見る。
――てっきり迷うもんだと思ったがもう心は決まってるようだな。
「大介達には悪いけど、もうあの世界で得られるものは無い。だからこの世界で生きていくことにする」
俺はほくそ笑んだ。
「よし。帰還は昼頃に行う。それまでに準備をしておけ」