五話 『記憶』
先程俺が発した言葉のせいで訓練場は静寂に包まれていた。
「はぁ」
俺は一つため息を吐いた。
「フィルメス今日の訓練はこれで終わる。部屋に案内してくれ」
「かしこまりました」
俺達はフィルメスについていく。ミユ達は俯いてゆっくり歩いていた。そのせいで俺達から離されたりしたがちゃんとついてきたようだ。
「それぞれ部屋で頭を冷やせ。それとミユはちょっとこい」
「え?あ、うん」
本来ならば大介あたりが止めにかかるが今回は流石に止めに来なかった。
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――
今俺の部屋にいるのは俺、ミユ、フリズである。何故この3人で俺の部屋にいるのかというと――
「――どうやってミユの記憶を取り戻すか……」
を考える為である。だが、ミユは恐らくほぼ思い出しかけていた。
「…………」
あと少しというところまで来ているのだがその1歩をどうしても超えられない。
「うーん。もう見せる聞かせるくらいじゃあ思い出さないんじゃない?」
「というと?」
「いつもリーヴァがミユにしていた様な仕草をやるとか。もしくは逆で」
「そうだな。ミユ、こっち来い」
ミユは俺の元へとやってくる。そして俺がミユを抱えて俺の膝の上に乗せる。更に俺がミユの後ろから抱きしめる。
「どうだ?」
「ふわぁ……。な、何だかクセになりそう……」
ミユは俺の腕の中で蕩けた表情になっていた。
――前世の頃も結構やっていたからな。
「あんまり効果は無さそうね」
「そうだな。もっと刺激の強い事じゃないとダメかもな」
「そうね。じゃあ接吻からいきましょうか?」
「せっ…!?」
フリズが提案したあんにミユは顔を真っ赤にして悶えていた。
「きっ、キスはダメです!」
両手を前に出し、否定の意思を露わにする。
「…そうか。じゃあほかの方法か…」
その後も色々と試行錯誤してみたがミユが記憶を取り戻す事は無かった。そして、時間だけが過ぎていった。
「そろそろ。部屋に戻るか…」
「そうね。もう夜遅いものね」
ミユもフリズも自分の部屋に戻っていった。俺もヘッドに横になった。
そして、ゆっくりと瞼を閉じていった。
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俺は窓から差してくる太陽の光で目が覚めた。俺は体をムクリと起こし、部屋を出た。
朝の王城は騒がしいものかと思ったが意外と静かだった。コツコツ、と靴の音が王城に響いた。ふとフィルメスに出会った。
「フィルメスか、おはよう」
「おはようございます。リーヴァ様」
「朝食が食べたいんだが」
「すぐに準備いたしますので少々お部屋でお待ちを」
「わかった」
「それと、リーヴァ様のお耳に入れておきたい事があります」
「なんだ?」
「実は最近、リーヴァ様やミユ様の名前を語る者がいるんですよ」
「まさかそれで権力を振りかざしたりしている輩がいるのか?」
「その通りでございます。更にその人数が莫大なせいもあって本物を決める大会までもがあるそうです」
「そうか……。わかった、有益な情報をありがとう」
フィルメスは一礼して厨房の方へと向かった。俺は部屋に向かいながらフィルメスから手に入れた情報について考えていた。
「つまり、俺達の名前を語りやりたい放題。と」
――はぁ。俺達からしたら迷惑極まりないな。
俺はそのまま自室に戻った。少しの間ベッドに横になっていた。するとコンコン、とノックの音が響く。
「入っていいぞ」
俺がそう言うとドアは開き朝食を持っているフィルメスが入ってきた。
「失礼します。朝食をお持ちいたしました」
フィルメスは朝食をテーブルに置き出て行く。俺は黙って朝食を口にする。
「ミユの記憶、どうやって取り戻そうか…」