十三話 『ヴェリタスヒーロー』
「だいたい。嫌がってる女性を無理やり連れていこうとするなんてダメだろ!せめて合意を得てからだな――」
――うぜぇ。
俺は今熱血男に説教を受けていた。ガチで襲っていた方の男達は一目散に逃げやがった。結局俺が説教を受けるハメに……。まぁ、話なんて全て聞き流しているんだけどな。
俺は窓から会場を見下ろしていた。やはり相当な大きさがあり、はっきりと奥まで見えないくらいだ。周りには階段状の観客席があり、ほぼ人で埋め尽くされている。そこには何千人、何万人もの人が居るため騒ぎが尋常ではない。壁の中にいる俺までにもはっきりと聞こえるくらいだ。
未だに隣で説教している熱血男を放置しながら会場の中心辺りに目をやると司会者と思われるタキシードをきた男性がいる。これから戦いが始まるこの会場では相当な場違いな服装である。
「皆様! ヴェリタスヒーローにようこそおいでくださいました!」
ざわざわと騒いでいる会場にほかの声とは違う声が響いた。さっきまで騒いでいた声は突如止まった。司会者の男性は声が鳴り止むとひとつ頷き、司会を始めた。
「まず。ヴェリタスヒーローの細かい説明をさせて頂きます」
司会者の声が響く。何故声が響くのかと言うと『拡声』という魔法を使いこの会場全域に声が届くようになっている。『拡声』とは風属性の魔法であり、使用者の声を風に乗せて響かせる魔法である。
「ヴェリタスヒーローは英雄リーヴァ・フィルフォードの生まれ変わりを見つけ出す大会です。まず最初に30人の乱戦を行い、その中から代表を決めます。それが6組あり、全部で6人の代表がいます。この代表者に魔剣ルジルへの挑戦権が与えられます。それではまず最初の1組目の方々お願いします!」
司会者の合図とともに30人の男が会場に足を踏み入れる。地面は石材などではなく土で出来ている。もし地面を破壊してしまっても土なのでまた埋めて固めればそれで修復完了なのだ。石材では修復もそうだし、怪我の割合が高くなると問題もあり土になったのだ。尤も前世では修復も全て魔法で行っていたため修復の点に関しては何の問題もなかったが。
会場は30人の入っても全然余裕なスペースを余らせている。本来は1体1の戦いを何度も繰り返し、優勝者を決めるものだ。しかしエントリーした者が多く、無理やりだがこんな形になってしまった。
「では! 1回戦目、開始ッ!!」
その合図と共に、30人の乱闘が始まる――
――筈だった。
ドガァァァァン!!!
会場で何か衝撃が起こったかと思って見るが、さっきまで選手がいた場所には何をきっかけで起こったかわからない煙で一杯になっていた。更にバチバチと放電が煙のあちこちで起こる。会場がザワザワと騒ぎ始める。
「皆さん! 落ち着いてくださいそろそろ煙が晴れます! 恐らく選手の誰かの魔法の可能性があります!」
俺はじっ、と会場の中心を見ていた。すると煙は次第に晴れ、薄らと人影が見える。現れたその人物はニヤニヤと笑いながら歩いている。時々倒れている選手の顔を見て煽るような笑を浮かべる。
「はははは!! 弱い! 弱すぎるよ! そんなんで僕に勝とうとしたの!?馬鹿なの? アホなの?」
高笑いが会場全体に響き渡る。当然、控え室にいる人の中でも当然嫌な顔をする人が出る。あんなのが英雄だとは信じられない。信じたくない、などと思いが渦巻く。
「え、えぇと一組目の代表者はフォランズ王国の勇者として召喚された、グーリズ選手です!」
――しかもフォランズかよ……。
俺はその場で嫌な顔をするしかなかった。
「2回戦目の準備を行うため、しばらくお待ちください!」
スタッフと思われる人が何十人と出てきて倒れている人をせっせと運んでいる。ご苦労様です。
スタッフが準備を終わらせたようで会場から去っていく。観客席の方では未だに何が起こったのか分からず、惚けている最中だった。
「そっ、それでは! 二回戦始めますので選手の皆さんは準備してください!」
取り敢えず声を出して行こうと決めたのか最初よりも声を張って司会をしている。
「2組目の方移動しますので着いてきてください!」
ニーフルが汗だくで控え室に入ってきた。恐らくニーフルはこの大会でスタッフの役割を担っているのだろう。と俺は考えた。故に二回戦の準備を準備をニーフルも一緒にしていたのだろう。という結論に至った。
ニーフルの後ろをぞろぞろと着いていき、控え室から人が減っていく。
気が付いたら熱血男もどこかに行ってしまった。
――やっと静かになった。俺は6組目だから少し寝るか……。
俺は瞼を閉じて闇に身を委ねる。段々と体の感覚が無くなっていくのを感じた。
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――
『ふふふ。リーヴァは可愛い顔をしているからきっと似合うわ!』
『そうそう。リーヴァなら……ぐへへへ』
「おい……。やめろよ? お、俺は絶対に着ないぞ? ままま、また何かする気か?」
『もう! じれったい! 私が着させてあげるよ!』
「おい! 服を脱がそうとするな! や、やめ。やめろおぉぉぉぉ!!」
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――
「――はっ! ……はぁ、はぁ……」
たった数十秒の夢だった。だが、俺のトラウマを蘇らせるのには十分だった。腕の震えが止まらない。あの時の恐怖がまた蘇ったようだ。ここ500年くらいは全く思い出していなかった。元々俺は女性に苦手意識を持っていた。その時はまだ苦手だっただけなのだ。そのうち自分が大きくなれば克服できるものだと思っていた。だが、ある日を境に変わってしまった。
「それでは6組目の方移動します」
俺が恐怖に打ちひしがれているとニーフルが扉を開けて入ってくる。その瞬間、俺の恐怖メーターはカンストした。顔は青白くなっている事だろう。普通の女性ならばここまで恐怖することはないのだが、もしかしたらニーフルはほかの女性よりも女性らしいからかもしれない。
「あの……顔が真っ青ですけど大丈夫ですか?」
ニーフルが俺の顔が真っ青になっているのに気づいて声を掛けてきた。
「ふん。余計なお世話だ。貴様の心配には及ばない」
俺はいつも女性の前だと見下ろすようにしか話せない。それが逆効果になる事もあるとわかっているがどうしてもこの口調になってしまう。治そうと努力したがこの口調は絶対に治ることは無かった。
「そう。ならいいのだけれど」
最後の俺達はニーフルに着いていき、会場に向かった。ちなみに俺は一番後ろでニーフルと離れて歩いた。