十二話 『ちげぇよ！！』
エルフは普段自然と触れ合うことが多い。そのせいもあって森に住んでいる精霊と言う種族の恩恵を受けている。精霊とは個々に特別な力が宿っており、人間達には姿を見せることは殆ど無い。精霊は警戒心が強く心から信頼している種族などで無いと姿を見せることは無い。だがエルフだけは特別で精霊が最も信頼している種族とされている。そのエルフだけが使える魔法がある。
『精霊魔法』と言って精霊に宿っている特別な力をエルフの体を通して発動できる。これはエルフだからできる魔法であり、ほかの種族が精霊魔法を使おうとすると身体の中で拒否反応が起こり、下手をすると一生魔法が使えない身体になってしまう。エルフがこんな事にならない理由は身体の中に『精霊回路』を持っているからである。精霊回路は精霊の力を通す特別な回路である。
フリズの中にある精霊回路が何か異常なことが起きているらしい。俺は精霊回路を持っていないし、エルフの精霊回路を感知することも出来ない。出来るのは感知に優れた者しか分からない。
「はぁ。やっぱり隠し通せなかったか……」
フリズは一つため息を吐いた。
「何がどうなっている？」
「実はね……」
フリズがポツリと話し始めた。
「確か…2500年くらい前だったかしら、魔王が全種族に呪いをかけたのよ」
「呪い？」
「えぇ。時間が経つにつれ衰退する呪いよ。少しずつ、でも確実に衰退しているわ。リーヴァも何かは感じたでしょ？」
「…あぁ。そういえば騎士団長なのに剣覇すら出来ていなかった」
「この呪いは受けた人だけでなく子孫にも影響を与えるわ。実際今この呪いを知っている人は限りなく少ない。それこそエルフとか長寿でないと……。それに呪いを信じる人なんて居ないわ。迷信くらいにか感じないわ」
「そうか。ま、信じないなら信じなくてもいいさ」
「そうね。余計な反発を受けるだけだものね」
「呪いを解呪する方法はないのですか？」
サラステが問う。
「ないわ。昔ならともかく今では絶対にこの呪いを解くことは出来ないわ」
「直接魔王に解かせるのはどうだ？」
「わからないわ。魔王も生きているのかもね。私の力だけでは魔王城に辿り着くことすらできないわ」
フリズは悔しそうに拳を握り込んだ。
「今は辛気臭い話はやめようぜ。これから大会が始まるんだ、そろそろ移動しよう。その話はまた後でだ」
「そうね。今は大会に集中しましょう」
にっ、と笑ってフリズは席を立ち、手を叩いて早く行くように催促した。
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「おぉー。流石に人が多いな」
「そうね。他の国の王達が来ているんだもの盛り上がるに決まってるわ」
「そういえばリーヴァは何の武器で戦うの？」
ミユが首を傾げながら問いかける。
「このダガーだよ」
俺は腰にぶら下げている鞘に入ったダガーをトントン、と叩く。
「へぇ。リーヴァってダガーを使うのが得意なの？」
「いいや？」
「えぇ！？」
俺の返答にミユが驚く。恐らくそれで大会に勝てるのか、など考えているのだろう。
「ミユ様ご安心を、リーヴァ様はダガー1本でも強いです。本当に強いです。……強かったです……」
サラステがミユを安心させる様に言うが後半から何故か過去形になる。聞かない方が良かったかも。と少しだけ後悔する。
「そうよ。リーヴァはダガー1本でも頭がおかしい程強いわ。だからそこの点については気にしなくても大丈夫よ」
「おい。頭おかしいとか言うな。ミユが変な想像をしたらどうするんだ」
俺はフリズからミユを庇うようにして抱き締める。
「はいはい。ここでイチャイチャしない。リーヴァはそろそろ行かないと遅れるわよ」
「お、そうだな。じゃあ行ってくるからサラステ、ミユのことを頼んだぞ」
「かしこまりました」
俺はエントリーした人が集まる会場へと移動する。俺の他にもエントリーした男達がいる。どうやらリーヴァ・フィルフォードは男だと認識されているようだ。ガヤガヤとしている中鋭く声が響いた。
「これより大会の説明をします！ 私に注目してください！」
説明しようとしているのはピンク色の髪が腰辺りまで伸びている女性だ。若干たれ目で優しそうな雰囲気を持つ。そして何より女性の象徴たるアレが大きい。今まで何百年と生きてきたがあんなに大きいのは見たことが無い。あんなに大きいと毎日肩が凝りそうだ。あの人間離れした胸に焦点が行く者は決して少なくない。
「人数も多いので1体1をやっている時間はありません！ なのでプレートの番号で区切っていきます！」
女性の指示により1～30、31～40、とこんな感じで30ずつに区切り、全部で6つの組が出来上がった。俺の予想ではもうちょっと時間が掛かると思っていたが流石に意識は高く女性の指示に素直に従った。
「それではまず最初に1組目の方々入場してください！ それ以外の方々は控え室へ移動しますので私に着いてきてください！」
ここの会場の壁はただ高いだけでは無い。暑さも相当なものなのだ。故に壁の中に部屋を作ったりして門番兵の宿や控え室に利用している。控え室に関しては高い位置にあり、戦いを一望することが出来る。
「こちらの控え室はご自由に使って頂いて構いません。順番が来るまでお待ちください。それと申し遅れました私の名前はニーフル・デモンドでございます。以後お見知りおきを」
二ーフルが静かに頭を下げ、上げる。上げた時に縦に大きく揺れる。この場にいる殆どの者が彼女の胸に注目しただろう。そこで、後ろの方から明らかにガラの悪い2人の男がにやりと笑みを浮かべてニーフルの元まで歩く。
「ねぇ。ちょっと俺と遊ばない？今からでさ」
男はニーフルの腕を掴み連れて行こうとする。
「い、いえ。仕事が残っていますから……」
「いいだろ？ 英雄様からのお願いだよ」
おいおいおい、どんだけ巨乳好きなんだよ。と思いつつ俺は止めるため男2人に声をかける。
「おい」
「あん？ なん――」
「おい！ そこの３人！ ニーフルさんから離れろ！」
赤髪で筋肉質の男。友情、努力、仲間、等を口癖に言っていそうな正義感の強そうな男だった。簡単に言えば熱血男だ。
――おぉ。俺が出るまでもなかったな。出てきて損し――ん？ 今あいつ3人とか言わなかったか？ 周りには誰もいないぞ？
熱血男はニーフルと男2人の間に入り、ニーフルを守るような姿勢を見せる。
「ニーフルさんには指1本触れさせねぇぞ！ おいお前！」
熱血男は俺の方を指さす。
「は？」
「惚けるな！ お前も一緒にニーフルさんを襲おうとしてただろ！」
――ちげぇよ！！
俺の心の叫びが響いた瞬間であった。
