十一話 『フォランズ王代理』
「…朝か…」
俺は目を覚まし隣を見る。
スースーと静かで可愛らしい寝息をたてているミユ。俺はミユの肩を掴んで揺らす。薄らと目を開ける。綺麗な琥珀色の眼が覗き込んでいる。
「…んん。朝?」
ミユは右手で目を擦る。その後目を何度かパチパチさせる。そっと毛布を退かして自分の体を見る。刹那、ミユは息を大量に吸い込んで――
「――きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
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――――
――
俺はミユをなんとか落ち着かせる事に成功した。今ミユは俺の後ろで急いで服を着ているだろう。
――あれだけ裸の付き合いをしていたんだから今更な気がするんだが……。
ミユが女の子だからという理由でその思考を終わらせた。ミユも着替え終わった様だ。
「よし。朝食でも食いに行くか」
「そ、そうだね」
「んー」
俺はミユの顔をよく見るため顔をミユに近づけた。
「なっ、なに?」
「いいや、まだ顔が赤いなーと思って」
「それは昨日の事とか色々……」
ミユは下を向きながら両手の人差し指をくっ付けたり離したりしている。恐らく顔は真っ赤になっているだろう。俺はみゆを見て初々しく感じた。熟年夫婦では絶対味わえない感覚に俺は満足した。
――この感じは懐かしいな。昔を思い出すな。
「よし。この話はまた夜にしよう。とりあえず今は腹が減った」
「うん。私もお腹がすいた」
俺達は朝食を食べるため部屋を出た。
「ゆうべはお楽しみだったわね」
「はい?」
俺とミユは揃って首をかしげた。それに対してフリズは俺達が入ってきてからもずっとニヤニヤしている。
「だってゆうべずっと結界張っていたでしょ?」
「あー。それはな――」
「――今日は皆さんに紹介したい御方がございます」
突然扉が開き、2人の男が入ってきた。先に入ってきた男はまだ若いが立派な髭を持っている。優しそうな顔つきをしていて、子どもなどに優しそうな印象を受ける。そして後から入ってきたのは中年男性で頭部の天辺には本来あるはずの髪が無かった。
「この御方は隣国フォランズ王国の王の代理としてきて頂いたダラス・ベーム殿です。ダラス殿、こちらがリーヴァ殿です」
ダラスは1度俺を目を細めながら見た、そしてその後は俺の隣に座っているミユに視線を向けた。
「ほほう。やはり……」
ダラスはねっとりとした気持ちの悪い視線でミユを見た。
――そうか。こいつが昨日の……。
「なかなか良い品質の女ではないか、どうだ?ワシのモノにならんか?きちんと可愛がってやるぞ?ベッドの上でもな」
ダラスは欲が丸見えの醜い笑みを浮かべる。俺は殴りたい衝動を何とか抑えた。何百年経ってもダラスのような男には腹が立つ。
「リーヴァ…」
遂に、ミユが堪えられなくなって俺の裾を引っ張る。俺はミユの前に腕を置き、守るような姿勢を見せる。
「はぁ、見てられん。そこの醜い男ダラスとか言ったな。」
「みにっ!?……貴様…!ワシが誰だかわかって言っておるのか!?フォランズの王代理だぞ!!」
ダラスは顔を真っ赤に染め上げ、怒りを露わにする。俺は腰に手を当てた。
「ほう?それで?」
「ワシの言っているこの言葉は王の言葉だという事だ!」
「つまり、フォランズの王がこの娘を欲しいと言っているのと同じだと?」
「そうだ!今すぐその女をワシに寄越せ!そうすれば罪には問わない」
「ほう。盗人よ、ひとつ問おう。それはお前自身の言葉か?それともフォランズの言葉か?」
「盗人だとぉ!?この小童め。今の言葉はフォランズの言葉だぞ!貴様フォランズに逆らうつもりか!」
「くっ、はっははははははは!。俺にはどうしてお前が王代理なのか理解出来ん。お前を王代理にするなどフォランズの王も大概にイカレてるな。」
俺にはダラスが言った言葉が全て道化師になりきって発した言葉かと思ってしまった。様子を見る限り、本人は本気で言ったようだ。
「貴様!我が王を愚弄するとは何事だ!不敬罪に値するぞ!死刑だ!誰かコイツを連れて行け!」
しかし誰ひとりとして動く者はいない。
「なぜ誰も捕えない!このワシの命令だぞ!」
「その命令は俺に対する宣戦布告として捉えていいのか?」
「宣戦布告もなにもフォランズによる一方的な蹂躙だ!」
「ほう。ならばその蹂躙とやらを見せてもらおうか」
俺はにやりとダラスを小馬鹿にするように笑った。ダラスに挑発する様な発言をしてミユへの意識を逸らそうとした。だがまたダラスの意識はミユに向いてしまった。
「ふん。貴様を蹂躙した後はそこの女だけでは無く貴様らも頂く。英雄を騙る偽物、楽しみにしておけ。本物がお前を殺す」
ダラスは1度フリズとサラステに指を指すと今度は俺の方を見た。にやりと笑みを浮かべこの場を去った。
「……俺に偽物と言ったがフォランズにも俺を語るかたる輩がいるのか?」
「今世の英雄と言われている男なら知っているわ。確か名前はスウェン。雷属性を得意としているわ。1対100の模擬戦をして無傷で勝利したと言われているわ」
言わなくても1がスウェンだ。100人を相手にしても無傷で勝てる何かがスウェンにあるはずだと俺は読んだ。
「へー。結構強いな」
「えぇ。召喚で呼び出したらしいわ」
「召喚?召喚なんてそんなホイホイやっていいのか?」
「えぇ。まぁ事情があるのよ」
「1つ。フリズ殿に聞きたいことがあります」
今まで静かに黙っていたサラステが手を挙げてフリズをじっと見つめた。俺は話がわからず頭にはてなマークを何個も浮かべているミユを膝の上に乗せて頭を撫でた。ミユはさっきの事もあり撫でられて安心した様に顔を綻ばせる。そんな中でもサラステの表情は未だに固く、真剣だった。そしてサラステが口を開く
「フリズ殿の精霊回路はどうなっているのですか?」