十話 『風呂での不吉な予感』
街を満喫した俺達は城に戻った。皆夜の食事も済ませてある。後はそれぞれ何かやりたい事をやっている。今から朝までずっとベッドで寝ているのもあれなので風呂に入る事にした。
「はぁ〜。やっぱり風呂はいいな」
この風呂は俺が貸切している状態である。やはり王城というだけあって大人が30人位入っても大丈夫な程の広さの風呂である。しかもこのお風呂のお湯はただのお湯ではない。俺も浸かってみてわかった事だが肌がつるつるになる。男の俺がつるつるになってもなんの需要にもならないのだが……。どうせ、肌がつるつるになるのならミユ達が良いだろう。
――ミユと風呂に浸かりたい……。
そんな願望を持ったところで男湯にいる俺には叶えようのない。
そんな時、浴室の扉が開いた。男の裸など見ても楽しくない上に気不味い雰囲気になるので俺は入浴を止め、出ようとした。俺が風呂から出てたところで入ってきた人物と目が合う。むさい男だろうと思っていたのだが、なんという事だろう。そこにいるのは黒髪黒目で体丸みを帯びている少女――ミユであった。
「にゃあっ!リ、リーヴァ!?」
ミユは持っていたタオルで体を隠そうとするが微妙に見えている。対して俺の方はタオルも何も持っていない。おかげで俺の下半身に視線を感じる。
「ミユは女湯に入ろうとしたのか?」
「う、うん。きちんと確認したから絶対そうだよ」
「あ、そういえば夜に1度入れ替えがあった様な……」
「そ、それはそうと前隠して……」
ミユは顔を逸らしているが毎秒チラ見してくる。チラ見し過ぎじゃない?
「まぁまぁ。折角なんだ、一緒に風呂に入ろうぜ」
俺はミユを抱えた。俗に言うお姫様抱っこでな!
「ひゃぁ!は、離して!」
「そんなに暴れるなって」
俺は抱えたミユを椅子に座らせ、俺はミユの後ろに座った。そして俺は石鹸を泡立て、ミユの背中に泡を付けた。
「背中は俺が洗ってやるよ」
「んっ」
ミユの背中は相変わらず綺麗で見とれるほどだった。肌は白く、少しでも力を入れてしまえば折れてしまいそうなほど華奢だった。今思うともう1度ミユとこうやって話して、風呂に入れるとは思わなかった。考えれば考えるほど嬉しすぎて涙が出そうだった。
「よし、背中は洗い終わったぞ」
「じゃあ。リーヴァ後ろ向いて」
「ん?」
「私も背中洗ってあげる。後ろ向いて」
ミユが体は動かさず首だけを動かし、後ろを向いた。どうやら、俺の背中も洗ってくれるらしい。俺は言われた通り後ろを向いた。
「じゃあやるね」
「おう。強くやっても良いぞ」
ゴシゴシと俺の背中を洗ってくれるミユ。
「リーヴァの背中筋肉すごいね。カチカチだよ」
「まぁな。こうでもないと生きていけないからな」
「なかなか背中洗うの上手いな。もしかして誰かにやった事あるのか?」
「生まれてから1度もやってないよ!」
後ろでミユが首を振って否定しているのがわかった。
「じゃあ背中を洗うのは俺が初めてか」
「うん、そうだね。…っとはいこれで終わり」
どうやら終わったようだ。少し名残惜しい気もするがまぁ良いだろう。またの機会にやってもらおう。俺は立ち上がり、またミユを抱えた。
「よし。湯船に浸かりに行くぞ」
いきなりだった事もありミユはタオルで隠すことは出来なかった。それが故にミユは一糸まとわぬ姿を俺に晒してしまった。
おかげでミユは恥ずかしさで俺の腕の中でうずくまってしまった。俺はそんなのを気にせずミユを膝の上に座らせながら湯船に浸かった。
「あ〜やっぱり風呂は良いよな」
俺の胸元で顔を隠しているがコクコクと頷いているのがわかった。
何だか俺の瞼が重くなった気がする。今日の街で疲れが溜まっているのかこの温泉の効果でリラックスして眠くなったのかわからないがどうしても眠たい。早くベッドで横になって寝たい。もうここで寝ようかな……。
はっ!いかんいかん。早くこの風呂から出ないと寝てしまいそうだ。
――視線を感じる。
「ミユ。そろそろ風呂から出ないか?」
「んー?もう…ちょっ…と……」
ミユが顔をあげてくれたがミユの瞼も半分ほど閉じている。頑張って目を開けていたがだんだんと瞼が閉じてしまい結局寝てしまった。こころなしかミユの顔が赤くなっていた。のぼせてしまったのだろうか。
――同じ時に眠くなるのは可笑しいな。流石に怪しいぞ?それにさっきの視線といい。取り敢えず部屋に戻ろう。
「ミユ。部屋に帰るぞ、って寝てるから無理か。仕方ない、俺が連れていくか」
……さっきから感じる視線が何だか気持ち悪い。俺自体に視線が行っている訳では無く、ミユに視線が行っている気がする。俺がミユを抱えて湯船を出ようとした時は更にその視線が気持ち悪くなった。いや、本当に。何を言っているか分からないと思うが本当に気持ち悪い視線を感じる。
このままミユを湯船から出すと大変危険な気がするので俺とミユに『透明化』を発動する。俺は素早く湯船から出た。着替える時間も勿体ないので着替え用の服を持ってまた『透明化』を発動する。これで服も透明になったはずだ。
俺は部屋に戻るとまずミユをベッドに寝かせた。そして誰も入ってこれないように結界をはった。何時も誰か入ってくる時はノックをしていたのでその時だけ結界を解除すればいいだろう。
流石に濡れたままだと風邪をひくので弱い火の魔法を使って俺とミユの体を乾かした。そのままミユに毛布を羽織らせて寝かせておいた。
「さて、俺は服を着るとするか」
実際、俺は今タオルを腰に巻いているだけなので少し肌寒い。それにいつ何が起こるかわからないのできちんと準備をしよう。また風呂の時みたいな事が起こるかもしれないからな。
「ん?」
丁度ズボンを履き終えた時だった。背中に柔らかい感触が2つ。そしてその柔らかい感触の中に少し固い何かがある。服を着ていれば殆ど感じないこの感触だが、服を着ていない事により直に感じる事になる。
「リーヴァ〜。んふふ〜」
なんだかいつもより艶かしい笑い方をするミユ。顔もさっきより頬を赤く染め、息も荒い。ミユが息を吐く度に俺の左耳にかかる。吐かれた息はサウナで感じる様な異常な熱さだった。
「ミユ?大丈夫か?」
俺はミユの肩を持って座らせた。体温が高かったので部屋にあるカップを取り出し、水の魔法で冷えた水を注ぐ。
「ほら、飲め」
「ありがとぉ」
ミユはカップを両手で受け取ると入っていた水を一気飲みした。
「ぷはぁ。ねぇねぇリーヴァ」
バランス感覚が可笑しくなっているのかわざとなのか分からないが上半身を左右前後にゆらゆらと揺れている。
「なんだ?言っとくがキスはしないぞ」
「うん。わかってるよぉ。だからチューしよ」
「……話聞いてた?」
――だめだ。ミユはこうなると手が付けられない。さっさと寝かせよう。
俺は『催眠術』をかけてミユを寝かせた。やっぱりキスしとけば良かったかと思ったが明日になってミユが暴れるのでやっぱりやめておいて良かったと思った。