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嫌いな主  作者: 小田桐
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2年目の夏祭り


「去年はここではぐれたんだったね」

 俺はそう言って夕月の手を握った。夕月は小動物が驚いたように一瞬ビクッと体が硬直したような様子を見せたが去年と違って握った手を握り替えしてきた。

「せっかくだから今年は花火を見ていきませんか?」

 夕月が提案する。それを拒否する理由は俺にはなかった。

「去年はゆっくり見れなかったからね」

「うん、綺麗だったって聞いたわ。まるで恋する花火のように」

 恋する花火とは夕月がこの前読んだ小説に出てくる花火。俺も読んだけどロマンチックなお話だったのを覚えている、夕月の年頃ではそういう話に憧れるのだろう。

「さて、いこうか」

 浴衣姿の夕月をエスコートして花火がよく見える河原へと移動した。


「あぅ。。。忘れてる思ってたのに・・・・」

 忘れるはずないだろ?だって、そんな君を見たのは初めてだったんだから。そう、これは俺たちが出会って一年半の物語。



「今日は縁日がある日だね」

 京司さんが言った。俺と夕月はテレビを見ていた、お笑い芸人がくだらないことをしている番組だが、見ているとなぜか笑える。

「兄さんは行くの?」

「いや、今日は行かないかな。明日、友達たちと見に行くことになってる」

「そうなんだ」

「ユヅは?」

 訪ねられると相談するように夕月が俺を見る。夕月が行くとなると俺も一緒について行くことになるのだから。

「夕月さん、これから行きませんか?」

 夕月は行きたいんだろうなと思い、俺から提案する。その言葉を待っていたように夕月は行きたいと即答してきた。

「私、着替えてきますね」

 そう言うとダッシュで部屋の中に消えていく。京司さんは上着を羽織って車の鍵を手に持った。

「行きは送ってやるけど、帰りは自分たちで帰って来いよ。それと明日は休みだけどあまり夜遊びさせるなよ」

 そう言うと玄関の方に消えていった。リビングで一人残される形となった俺、京司さんは妹にとことん甘いらしい。

「おまたせ」

 ハイビスカス模様の浴衣に着替えた夕月が居た。年頃の女の子の浴衣姿は色っぽいと思うし、そそられるけど背が小さく胸もない夕月が着ると可愛らしい女の子って言う感じだった。

「似合ってるね」

 少し嬉しそうに照れてる顔の夕月。こうやってお互いが目を見て話すようになるのにどれだけ苦労したことかと懐かしい感情を思い出した。


 夏祭りの出店の定番といえば金魚すくいだと思う。夕月は薄いモナカを構えて悪戦苦闘している。もし、金魚をすくったところで家で飼うことは出来ないだろうけど。

「そろそろ他の所に行きましょう」

 5戦目を敗退した夕月に声をかける。ほっとくと取れるまでやっていそうな勢いだったから。

「まだ、やる」

「なら、あと一回ですからね」

 悔しそうに頬を膨らませている夕月を急かして次の出店を回った。俺は美味しそうなタコ焼きを見つけると1パック購入。半分を夕月に取られたがそこそこ満足。

「リオくんってこうやって女の子と縁日でデートとかしたことあるの?」

 こうやって女の子とデートか。夕月は自分が口にした意味をわかってるのかな、今の俺たちはデートしてるって自分で言ったことに。

「そうだね、女の子も含めた何人かで遊びに来たことならあるけどね」

「なら、縁日でデートは初めてなんだね?」

 どうやら、夕月にからかわれていたらしい。ちょっとだけ悔しくなる。

「夕月さんはいつか俺の代わりに彼氏に連れてきてもらうだね」

「そうね、素敵な彼氏が出来るまでの練習だと思うことにするね」

 俺は練習相手かよ。まぁ、それでも良いんだけどね、でも俺の場合は中学生じゃ練習相手にもならないかな。

「っあ、あのぬいぐるみ可愛い」

 そう言うと100円くじの出店に近づいていった。やっぱりまだガキだなぁ。

「1回だけだからね」

 大きな景品っていうのは客寄せのためだけに飾ってあるモノ。だから、夕月は案の定はずれを引いて小さな景品を手にしていた。

「リオくんは何かしないの?」

「ん〜、さっき食べたタコ焼きだけで十分かな。それにこういうのって見て楽しむモノだしね」

「楽しい?」

「うん、楽しいですよ」

 去年に比べると格段にねって言おうと思ったがその言葉を飲み込んだ。せっかく夕月がはしゃいでいるんだから、つまらないことを言う必要はないし。

 金曜日の夜って言うこともあって人通りが激しかった。普通に歩くだけでも人混みで歩きにくい。

「ねぇ、はぐれそうだから手をつないで行こうか?」

 笑うように夕月が提案する。練習の続きでもするつもりなのかな?

「手を握ることは仕事には入ってないから。お父さんから許可をもらったら握ってあげますね」

 ポケットに手を入れたまま答える俺、予想外の答えにちょっと膨れた夕月の顔。時計を見るとそろそろ花火大会が始まる時間だった。




 夕月の手は柔らかかった。まるで丁寧に扱わないと壊れてしまうかと思えるほどに、いや言い過ぎたかな。

「手を握るのは仕事に入っていなかったんじゃないの?」

 握った手を離そうともせずに夕月は言う。

「仕事じゃなくて、デートでしょ?」

 そう言って俺はにっこりと微笑んでみせた。夕月の頬に赤みが差して目をそらされてしまう。悪戯なことを言ってるよりも照れてる方がよほど可愛らしい。

「花火が綺麗に見える所に行こうか?」

 この縁日にも花火大会にも何度も来たことがあった。友人と来たこともあれば家族と来たこともある。幼い頃に家族で来たときに迷子になった弟と一緒に花火を見た場所に向かうことにした。

「そんなところあるの?」

「うん、あまり人が来ない所だよ。ただ、少し道が悪いけど良いかな?」

 夕月は頷いた。それを肯定と受け取ってその場所に向かう。藪の中を通るために足場が少し悪かったので夕月が転ばないようにと気を遣いながら歩いた。

「真っ暗なところね。周りに誰もいなくなっちゃったわ」

「うん、穴場だからね。恋人が出来たらそこで花火を見ようと思っていたんだ、だから夕月さんに彼氏が出来てもこの場所に来ちゃダメですよ」

「わかったわ。リオくんが女の子を連れ込んで暗がりでエッチなことをしてる場面なんて見たくないから来ないであげるね」

 まったくどこでそんな言葉を覚えたのだろうか。思わず苦笑してしまう。

「あなたにはそんなことしないから安心してくださいね」

 小さな声で残念って聞こえたのは空耳だろうか、いや空耳だろう、きっと。

「着いたよ」

 月明かりで足下にある川の水が少し輝いているように見える。俺はその水をすくってみる、ひんやりして気持ちの良い温度だった。

「冷たいわ」

 夕月も俺と同じように屈んで水の温度を確かめたようだ。その仕草や表情はあと5年もしたら思わず抱きしめたくなるような感じだった。

「そろそろ花火があがるよ」

 俺の言葉に合わせるようにタイミング良く花火が上がって天で散った。花火の種類は解らないが綺麗な模様だった。

「綺麗ね」

 夕月がうっとりするようにつぶやいた。


「デートなんだからさん付けとかかしこまった呼び方はやめてもらってもいいですか?」

 夕月が言った。確かにデートだとしたらムードのない話し方だったかもしれない。

「そうだね、悪かった」

 暗くて表情がよく見えないが花火の光で夕月がにっこりと笑ったのがわかった。

「花火が綺麗だね、ゆづき」

「そうだね、リオ」

 オイ、だからと言っておまえまで俺を呼び捨てかよ。それって何か間違っていないか?

「君の方が綺麗だけどね」

 10年後はね。と心の中で付け加えておく。

「ありがとう、嬉しい」

 ちょっとサービスしすぎたかな?でも喜んでる夕月を見るのも悪くはない。ホントにね。

「ねぇ、リオ。こういう時ってキスとかするものなのかな?」

 上目遣いで俺を見ている、キスをねだっているのがわかった。

「そうだね、恋人同士ならキスをするところだね」

 夕月は早く大人になりたいと考えているに違いない。初めて出会ったときは陰気な少女だった、無口で人見知りが激しい彼女は学校でも孤立した存在だったのだろう。今は明るくなったと言っても代わり映えしないクラスメイトの中で友達を作るのは難しい、それに夕月が通ってる学校の高等部に在籍している弟から夕月の話は少しだけ聞いている。

「私、今は恋人が居ないしリオも居ないみたいだから今だけなら恋人になってあげても良いよ」

 今だけか、それは夕月自信のための言葉だろうか?それとも俺に気を遣って言っているのだろうかが判断できない。

「嬉しいこと言ってくれるね」

「だから、キスしても良いよ。でも、キスまでだからね」

 ちょっとだけ心が揺れた。だけど、それは夕月のためにならないことを俺は知っている。

「そうだね、ゆづきがあと2年したらキスさせてもらうね」

「今は?」

「今はダメ。ゆづきがあと少しだけ大人になったら大人のデートしようね」

 残念なようなほっとしたような表情を夕月は見せる。これで良かったのだと自分に言い聞かせた。

 涼しい夏の夜だった。

このお話の時間軸は適当ですwって少しはかんがえているんですけどね。楽しい思い出と辛い思い出をシャッフルしてしていきたいと思います

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