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嫌いな主  作者: 小田桐
12/14

海の思い出

「ほら、私はここよ」

 海岸沿いの砂浜に俺たちは2人きりだった。

「まってよ」

 俺は夕月を追いかける。まるで恋人を追いかけるみたいにはしゃぎながら。

「お願い、私を捕まえて」

 追いついた俺は夕月を抱きしめた。そして二人して海に倒れ込んだ、水は冷たかったが夕月は暖かかった。

「もう、離さないよ」


「えーと・・・ホントに離さないでくれますか?」

 そうだね、君がもう少し大人になって俺が君に惚れることがあればね。



「どこに行きたい?」

 夕月にたずねる。今日は暇だったので夕月とデートじゃなくてお出かけをすることにした。夕月にとっては夏休みだけど、俺にとっては仕事の時間が増えることなんだよね。

「リオくんの行きたいところで良いよ」

 任せられても困るんだよね。俺と夕月では年が離れてる、だから趣味とかも全然違うから俺が行きたいところは夕月にとって面白いとは限らない。

「ちょっと遠いけど海でも見に行くか?」

 中学生最後の夏休みだ、楽しい思い出でも作ってやりたい。今から電車に乗って行けば午前中にうちに付くことが出来るし、夕方には帰ることが出来るだろう。田中さんがいれば連れて行ってもらうことが出来るかもしれないが、田中さんは社長と一緒に会社に行っているはずだった。

「いいですけど、水着とか用意できてないです」

「泳ぎたいなら来週でもプールに連れて行ってあげるよ。今日は海だけ見て帰ってこよう」

「わかった、支度してくるね」

 冷蔵庫から冷たいジュースをコップに入れて夕月が来るのを待っていた。夕月の希望により夏祭りの日から俺は夕月にかしこまったしゃべり方はしていなかった。もちろん、2人きりの時だけだ。


「どうして、車で行かなかったの?」

「ゆづきがうるさいからだよ」

 俺たちは電車の中にいた。こういう暑い日に車の中に閉じこもるのも居心地が悪い、もっとも電車の中も快適というわけではないが。それに俺が運転すると助手席の夕月が対向車や信号を見るたびに騒ぐので夕月とドライブをしたくなかった。

「こうやって電車でどこか遠くに行くのって初めてかも」

 普段は普通に接しているけど、こういう時って俺と夕月に大きな壁があると感じてしまう。俺もたしかに電車でどこかに遠くに行くことは少なかったけど、電車に乗ること自体は少なくなかった。だけど、夕月は電車に乗ること自体が珍しいらしい。

「今日は泊まりがけって訳でもないし、そんなに長く向こうにいれるわけじゃないからあっちについてかき氷を食べて帰るつもりで行こうな」

「うん、でもせっかく海にいくならゆっくりしたかったなぁ」

「それなら、今度京司さんに連れてきてもらなさい」

「そのときはリオくんも一緒に行くの?」

「いいよ。でも、俺は泳ぐには苦手だからね」

 電車の中って不思議な空間だと思う。部屋で一緒に居るときよりも話が弾む、それに景色を見ていても飽きないし。

「でも、水着も持ってきてないのに砂浜に行ってもきっと私たちだけ浮いてるわよ」

「うん、そう思う」

 だから、俺は海に行くとは言ってるけどビーチに行こうとは言ってはいなかった。俺たちが行くのは海水浴場のある一個前の駅なのだ。



「風が気持ちいい」

 岩に腰をかけて夕月が言った。俺たちは岩場にいる、少し離れた海岸にいけば砂があるけどテトラポットに腰をかけて海を見るのも悪くはないだろう。少なくても俺はこういうのも嫌いじゃない。

「うん、暑いと思っていたけど海辺は意外と涼しいね」

「リオくんってこういうところにも来るの?」

「たまにね。ゆづきはこういう場所は嫌いだった?」

「いや、嫌いじゃないよ。リオくんが一緒ならね」

 夏に家族でここに来ていた。別にうちの家族がひねくれて人が少ない場所を好んでいるわけじゃない、親父が釣りが趣味でここでよく釣りをしていただけだった。

「ここはね、よく家族で来ていたんだ。親父に連れられて俺や真央もここで釣りをしてたかな」

「へぇ、釣りをするの?」

「親父以外とは滅多にしないかな。真央は友達とたまに行くらしいけどね」

 俺は親父や真央と違ってインドアな人間だった、お袋もどっちかと言えば家にいる方が好きだったらしいが、家族が出来てその考えが変わったらしい。俺が中学生の時は毎年のように夏にキャンプに行ったりもしていた。

「ゆづきは釣りとかしたことはあるの?」

「ないかな、お父さんも兄さんもしないから」

「そか、機会があったら今度連れて行ってあげるね」

「そうね、リオくんが釣ったら私がそれを料理してあげるね」

 約束がホントになれば楽しいだろうなと思う、だけどそれと同じぐらいに無理かもしれないと思っていた。でも、実際にその約束が果たさすことが出来た。ただし2年後になったけど。


「水が気持ちいい」

 海岸に出て夕月が靴を脱ぎ海に足をつけた。1駅離れた場所では海水浴に着た人たちでごったがえしになってるだろうけど、ここは俺と夕月しかいない。

「リオくんもおいでよ」

 重い腰を上げて俺も靴を脱ぎ海に足を入れた。夕月の言うとおり水が冷たく気持ちよかった。さて、どうしようか?ドラマの1シーンみたく追いかけっこでもしたほうがいいのかな。

「ほら!」

 夕月が水を俺にかける。ホントにドラマのシーンみたいだ。

「やめろよ」

 そう言って俺も水をかけ返す。確かにこういうのも悪くなかった、結構楽しくなってきた。

「っきゃ」

 夕月が小動物みたいな声をあげて躓いた。自分1人で転ぶなら別にかまわないが転ぶときに俺の足を掴んでいたので俺まで下半身がびしょびしょだ。

「ぬれちゃったね」

「ああ、どうしようか?」

 1駅ほど歩いて海水浴場にいけば着替えぐらい用意できるだろう。だけど、夕方までには帰れなくなってしまう。まぁ、こういうトラブルのために携帯電話ってあるんだけどね。



「真っ暗になったね」

「ああ、景色が見えないね。疲れたなら寝てていいよ、ついたらおこしてあげるから」

 結局は1駅分歩いた。京司さんに電話をしたが自分たちで帰ってこいと言われただけだった。結局、家に着いたのは10時を回った頃。社長に軽く説教を受けその日は終わった。

 だけど、夕月にとっては楽しい思い出になったので俺は満足している。

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