第8話 宝物庫
先日、ハルファスたちの冒険の舞台となった学院の裏山にある洞窟。
そこへ4人の宮廷魔術団員が訪れていた。
ハルファスとベルル団長、その後ろに魔術団員と諜報士が1名づつ控えていた。
前回、ハルファスが魔力の抵抗を感じた箇所に、4名の視線が注がれている。
「ふむ。確かに強力な魔法による目晦ましが施されているようじゃな」
「やはり、そうでしたか。
であるならば、古文書にあった古代魔法文明の宝物庫の可能性が高いと思われます」
ベルルは、長くたくわえた白髭をなでながら、ふむふむとつぶやく。
やがて何かに納得したのか、おもむろに魔法を詠唱する。
「ディスペル《解呪》」
『大陸の三賢者』と称されるベルルの魔力は、さすがに強力であった。
ただの岩肌だった場所が、装飾を見事に施された扉に変わる。
すぐさま、諜報士が扉に近寄る。
罠が仕掛けられていないか調査するのだ。
魔力による鍵がかかっていること、罠がしかけられていないこと。
この2点が諜報士から報告される。
その報告を聞いて頷いたベルルが、再度魔法を詠唱する。
「アンロック《開錠》」
再度、諜報士が扉を調査する。
諜報士は、問題ないと判断したのか、そのまま扉を開け放つ。
そこは、ほぼ正方形近い形をした部屋、というよりも倉庫に近いものだった。
なんの装飾も施されていない真っ白な床。
そして魔力によって淡い光を放つ天井があり、壁一面に棚がしつらえてあった。
「ふむ。宝物庫に間違いないようじゃな」
ベルルがそうつぶやくと、ハルファスと同僚は作業を開始する。
棚に収められている品物を種類別に纏めるのだ。
集計が終わると、同僚の魔法士がベルルに報告する。
「団長。この部屋にあった宝物について報告致します。
魔道書が20冊、アーティファクトが5個、宝石が20個、古代貨幣の金貨が50枚となります」
「この規模の宝物庫にしては、魔道書とアーティファクトが多かったのお。
さっそく陛下に報告せねばの」
大量の宝物を眺めながら、ハルファスは別のことを考えていた。
「あの2人も相当怒られているだろうか…」
盗賊を討伐した3人は、王城に戻ると、まず保護した女性を近衛兵に引渡した。
その後、ことの顛末をそれぞれの上司に報告することとなった。
予想はしていたものの、ハルファスはベルル団長からお叱りの言葉をしっかりといただいた。
「珍しく書物庫から出たと思ったら、何をしとるんじゃ、お主は!」
ベルルの言葉は、純粋に自らの身を案じての苦言ということが伝わってきた。
それが伝わった分、ハルファスは申し訳ない気持ちになるのであった。
宮廷魔術団総出で、王城に持ち帰った古文書を書物庫へ収納し、アーティファクトの鑑定を行う。
その作業が終えた頃、ベルルが国王への報告から戻ってきた。
ベルルは、部屋に入るなりハルファスへ声をかける。
「ハルファス、わしと一緒についてまいれ」
状況は分からないが、上司の命である。
ハルファスは、素直にベルルの後をついて部屋を出た。