第64話 親書
コンコード王国の王城、謁見の間。
居並ぶ近衛兵の尊敬のまなざしを受けながら、3人の人物が玉座の前に跪いている。
近衛兵たちの視線は、皆、サブノックに向けられていた。
が、ハルファスもアルケニーも特に気にした様子はない。
「此度の魔道師討伐、誠に大義であった。
なにやら喚起の魔道師は、不死の王に転生していたとか。
最高位のアンデットが国内で跋扈するなどあってはならぬこと。
また、喚起の魔道師は禁断の実験も繰り返していたとも聞いている。
実際に、実験によって我が国民にも被害が出ていたとか。
痛ましいことだが、最小限の被害で済んだのは不幸中の幸いである。
これらの憂いを取り除かれたのは、すべて汝らの活躍によるもの。
汝らの功績に対して、相応の報償をとらせる。
本当に良くやってくれた」
国王直々のお褒めの言葉に、3人は恭しく礼をとる。
ハルファスは、アルケニーが宮廷の儀礼をとっていることが意外で、少し驚いていた。
どこの国にも属さない流浪の民だが、その所作はさながら上級貴族のようであった。
「魔道師アルケニー殿。
此度は、我が国の国難に際して、多大なご助力をいただいたと聞いておる。
国民を代表して礼を申さねばならない。
本当にありがとう」
「いえ、不本意ながら同じ『三賢者』として並べられていた者が行っていた非道。
私はやつを『賢者』などと認めてはおりません。
ですが世間から、アンデットと同じ括りで呼ばれることが嫌だっただけです」
「それでも力を貸していただけたことには感謝せねばなるまい」
「お心遣い、ありがとうございます。
しかし、賞賛は我が友であり、若き賢者であるこの者にこそ与えられるべきと存じます。
私はただ、少し手伝っただけですので」
この言葉に列席していたベルルが目を丸くする。
アルケニーが友と呼び、『賢者』と認める---
他人への評価が厳しい彼女にとって、最大級の賛辞だと彼は知っていたからである。
「謙虚なる振る舞い。さすがは大陸に名を馳せる賢者。
此度の戦いでは、傷を負われたと聞いている。
傷が癒えるまで、ゆっくりとこの城に逗留してもらいたいと考えておる」
「ご配慮ありがとうございます。
お言葉に甘えて、そうさせていただきます」
アルケニーの性格からして、王城で逗留など堅苦しくてたまらないだろう。
だが、彼女はハルファスに興味がまだあるようだ。
「サブノック隊長に、ハルファス副団長。
汝らも誠に大義である。
我が国の若き英雄の活躍が大変喜ばしい限りである」
「「もったいなきお言葉でございます」」
2人が声を揃えて応える。
「汝らは職務があるだろうが、なるべく療養の時間をとるようにするのだぞ」
「陛下のご配慮、ありがたく承りました」
「うむ。今後も我が王国のために良き働きを期待しておるぞ」
こうして謁見は終了した。
ところが、扉を出たところでハルファスが文官に呼び止められる。
「ハルファス様。陛下がお呼びでございます」
「何用でしょうか?」
「内容までは分かりかねます。
応接の間でお待ちですので、そちらへお向かいください」
謁見の間では話せぬ内容とあって、何事かと思案するハルファス。
しかし、彼には思い当たる節はなかった。
「悪いが、アルケニー。
私の執務室で寛いでいてくれたまえ。
では、サブノック、また近いうちに会おう」
そう言い残して、ハルファスは王城の中を歩き出す。
応接の間の扉をノックすると、中から入室を許可する声がする。
部屋に入ると、ソファーに国王とベルルが座っていた。
「良く来てくれた、ハルファス」
先ほどまで一緒だったので変な感じがするが、ハルファスは恭しくお辞儀する。
「お呼びとのことで、参りました」
「うむ。まあ、そこへ座れ、ハルファス」
ハルファスは、国王の対面にいたベルルの隣に腰を下ろす。
「此度の働き、誠に大義であった。
だが、どうしても賞賛はサブノックに集まってしまう。
汝の活躍は、決してサブノックに劣るものでないことは承知しておる。
それ故、汝には申し訳ないと思っておるのだ」
「もったいないお言葉でございます。
陛下のお気持ちだけでも最大の賞賛であります。
古来より、人は英雄を騎士の姿に求めるもの。
サブノックはそれにふさわしい男です。
何の不満も私にはございません」
「そういってもらえると、わしも心の荷が下ろせる」
トゥエル国王は、満面の笑顔を見せる。
「わしもお前の働きを誇りに思うぞ、ハルファス。
しかし、アルケニーがあそこまで賞賛するとは流石に驚いたがな」
ベルルも暖かい笑顔をハルファスに向ける。
「変わり者同士。単に気が合うだけの話のように思えます」
そういって、ハルファスも笑う。
「ところで、ハルファス。折り入って相談があるのじゃ。
陛下のところに鉄の国からの親書が届いておっての。
その内容をお前も交えて詮議したいと思っておるのじゃ」
「どのような内容だったのでしょうか?」
「後で原本をお前にも見せることにしよう。
取り急ぎ要約すると、サイオン戦線での王国の支援に対して報いたいというのじゃ。
具体的には、今回の大戦で得た帝国領を一部を除いて王国に譲ると言っておる」
「悪い話ではないとは思うのだが、汝はどう考える?」
ハルファスは、しばし思案する。
しばらくして顔を上げると、ハルファスは、はっきりと言い切るのであった。
「お断りするべきだと思います」




