第42話 第三勢力
朝の光が宿屋の1室に差し込む。
そのまぶしさにシャックスが目を覚ました。
シャックスが体を起こすと、ハルファスは既に起きて、瞑目していた。
「おはよう、ハルファス」
「うむ。おはよう、シャックス」
「朝から随分とお悩みのご様子ね」
「サイレンス《静寂》」
シャックスがおどけて言うと、ハルファスが静寂の呪文を唱える。
「昨夜の話の続きなのだが、よいかね?」
「もちろん。お願いするわ」
「君の話によると、盗賊ギルドは2つの意見に分かれているという。
しかし、はっきりと立場を明確にしていない者たちもいる。
ここまでは、合っているな?」
「ええ、そうよ」
「4カ国のギルドごとで、意見が分かれているのかな?
それとも、その中でも更に意見が分かれているのかな?」
「国ごとにギルドは、ある程度、独立しているの。
だから、国内のギルドの意思は統一されているわ」
「では、国ごとのギルドメンバーの立場を聞きたい」
「帝国に在留しているギルドメンバーは、帝国派という立場をはっきりさせているわ。
帝国とのつながりもあるようだし、いままでの権益を守りたいという部分もあるのでしょうね。
帝国のギルドを仕切っているのが、ギリスよ」
「いままでの既得権益を守りたいか。分かりやすい話ではあるな」
「王国に在留しているギルドメンバーは、王国派という立場をはっきりさせているわ。
こちらも理由としては、同じだと思うわ。
加えて言うなら、王国の方に分があると判断している部分もあるのかもしれない。
王国のギルドを仕切っているのが、ジェイド。
私も王国のギルドに所属しているわ」
「帝国と王国に所属している者たちの立場は明確であると。
では、風の国と鉄の国では、どうなのだ?」
「風の国は、少し特殊ね。
風の国の片隅に、ダークエルフの集落があるのだけれど、この集落全体が盗賊ギルドなの。
ダークエルフといっても、やはりエルフだから、他の種族…特に人間を下に見ているわ。
その傾向からか、人間だけしか認めていない帝国には付かないことは確かよ。
ただ、亜人がいるからといって、王国に対しても良い感情をもっているわけでもない。
"どちらかといえば"王国派といったところね」
「なるほど。ダークエルフたちは、暗殺者向きのスキルを多く持っていると聞く。
盗賊ギルドに入っていても、おかしくはないな。
ただ、集落全体がギルドメンバーというのは驚きだがな」
「鉄の国は、私のような草原妖精がメンバーになっているわね。
鉄の国自体は王国と良い関係を保ちたいようだけれども、盗賊ギルドは少し違うみたい。
王国に力が集中することで、これまでと違う環境になることを恐れているようね。
だから、"どちらかといえば"帝国派といったところよ」
「なるほど。
風の国と鉄の国のギルドメンバーは明確な立場を打ち出していないということだな」
そういうと、ハルファスは腕を組み、しばし瞑目する。
シャックスは、静かにハルファスの回答を待っていた。
ハルファスの回答が、突破口になるとシャックスは信じて疑わない。
じっと、ハルファスの沈黙に付き合う。
「シャックス、君とジェイドの関係性は、どのようなものなのかね?」
突然の問いに、とまどいながらも、シャックスは応える。
「側近の連中には、まだ信頼されてはいない。
けど、ジェイド自身は私のことを買ってくれているみたい」
「そうか。では、シャックス、君が第三勢力となりたまえ」
「…第三勢力?
それは、一体どういうこと?」
「うむ。風の国と鉄の国のメンバーは、まだ立場を決めていない。
ここをまとめあげて、ジェイドとギリス、両方と渡り合うのだ」
「風の国も鉄の国も、まとめるのは至難の技だと思うけど…
そもそも、私が表に出て、どうなるというの?」
「まずは、君の勢力ができることで、盗賊ギルドは3分割される。
盗賊ギルドにとって、今後の方針を定める最終的な場が絶対に必要となるはずだ。
その場に、対等な力を持ったものが、3人いることが肝要なのだよ。
最終的な場面で、君の勢力が王国派につく。
そうすると、3分の2という多数決で、『盗賊ギルドは王国につく』という結論になる。
こうすることで、少なくとも表面上は、盗賊ギルドを王国につかせることができる。
ただ、ギリス派との暗闘が残されるとは思うがな」
シャックスは、かみ締めるようにハルファスの案を再考する。
「…確かに、あなたの言葉通りになれば、盗賊ギルドは王国につくことになるわね。
ただ、風の国と鉄の国をまとめるのは、どうするの?」
「君は、まずジェイドとギリスと異なる方針を掲げねばなるまい。
この場合、『現状維持』というのが、一番話しを理解されやすいのではないかな。
ただ、盗賊ギルドの最終的な判断には従うということも触れておく必要があるがな。
鉄の国のメンバーは、幸い君と同じ種族の者が多い。
利害を納得させれば、君の勢力に取り込むことは可能であろう」
「確かに…
あなたの言った方針を掲げて、水竜からもらった金貨をフル活用すれば…
鉄の国をまとめるのはなんとかなりそうな気がするわ」
「うむ。そして風の国だが、メンバーが全てダークエルフという特殊性がある。
彼らは金では転ばないだろう。
それよりも、君の側に強大な力があることを誇示するのだ。
それができれば、彼らはついてくるのではないだろうか」
「確かに、そうかもしれないけど、そんな力なんて私にはないわよ」
「そこに関しては、私に一計がある。
風の国での交渉には、私も付いていこう」
ハルファスの意外な言葉に、シャックスは慌てる。
「王国の魔術師なんか連れて行ったら、それこそ疑いを持たれるわ。
それに、そんなことしたら、あなただってただではすまないわ。
今度は左遷じゃ済まないわよ!」
「王国の魔術師も君の部下にいる。
そういうことにすれば、より効果的だと思うがね。
私が風の国へ向かう口実も、すでに考えてある。
その寄り道として、こっそりダークエルフの集落に向かうつもりである」
「あなたが、そこまでいうなら間違いはないとは思うけど…
…本当に、大丈夫なのよね?」
「うむ。問題ない」
シャックスは、大きくため息をつく。
「相談した私が言うのもなんだけど、本当にとんでもないことを考えるものね。
いいわ!もし、王国から解雇されても、私が責任をもって食べさせていってあげるから!」
そう言って、シャックスは悪戯っぽく笑うのであった。




