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第41話 祝杯

シズン村に戻ると、とりあえず宿屋に泊まり、3人は死んだように眠るのであった。


宿賃は先に払っているため、丸々1日寝ていても、宿屋の者が起こしに来たりはしなかった。



宿屋へ戻ってから1日半が過ぎ、早くも夜の帳が下りる頃に、ようやく3人は起きだした。


シズン村には、もう一泊する予定だ。


今夜は、酒場に向かい、祝杯をあげようということになっていた。



「まあ、なんだかんだ言って、今回は1番あなたにお世話になったわね。


ありがとう、ハルファス」


「いえ。結果的に、2人だけで探索を任せてしまって、申し訳なかったです」



アルケニーが礼を言うと、ハルファスは逆に謝る。



「いえ、そんなことないわ。


世間じゃ、三賢者なんて呼ばれてるけど、私もまだまだだと痛感させられたわ。


古竜エルダードラゴンが突然目の前に現れたとき、私なんて頭が真っ白よ」


「私も、運命を呪う余裕すらなかったわ」



シャックスが茶化すように言う。



「今、冷静に考えても、あなたが取った選択肢は最善だった。


そして、その選択肢は他の者では取れない選択肢よ」


「私、ハルファスが食べられてしまってたら、どうしようって、凄い心配だったんだから」



今度は、真剣な表情でシャックスも言う。



「大陸の三賢者の1人に、そこまでおっしゃっていただいて、大変光栄なことです」



真剣な表情でアルケニーは、ハルファスの目を見つめる。



「将来、あなたも『大陸の賢者』と呼ばれるようになるわ。


これは間違いない。現役の私が太鼓判を押す」


「いえいえ、とんでもない。


あの洞窟の幻影さえ破れぬ程度の魔力しか、私にはありませんよ」


「賢者と大魔道師は違う。私は、そう思っているわ。


人々を導いていけるだけの力と覚悟がある者のみが、本来『賢者』と呼ばれるべき。


私は、そう思っているの。


そういった意味で、バレットは『大魔道師』ではあるけど、『賢者』ではないと私は思っている」



『ベルルのことは認めているわよ』と、笑いながらアルケニーは付け加える。



「仮に魔道師の力を得られなくても、あなただけの道で人々を導く力と覚悟を持ちなさい。


そうすれば、いつか、皆があなたを『賢者』と呼んでいるわ。


まあ、魔力の方もまだまだ伸びるとは思うけどね」



ハルファスは、アルケニーの言葉を神妙に聞いていた。


自分の進むべき道を定めることの大切さを学んだ気がしたのであった。



「まあ、あなたたちとは、またいつか会えるでしょう。


私が魔道具の研究で皆の生活を向上させようという夢を持つ限り。


そして、あなたたちが、あなたたちの夢に向かう限り。


そこには必ず接点があると思うから」



アルケニーは、2人を見つめると笑顔でうなづく。



「ああ、柄にもないことをたくさんしゃべっちゃった。


アーティファクトが大量だったから口が軽くなっちゃったのかしら」



突然、照れたようにおどけるアルケニー。



「とにかく、今日はお祝いなんだから、楽しく飲みましょう!乾杯!」



ハルファスとシャックスも杯を合わせる。


ハルファスの杯に酒は入っていないが。




+++




翌朝、アルケニーと分かれると、ハルファスとシャックスは、ルクセンに向けて旅を続ける。


相変わらず長閑な旅路となり、無事、ルクセンまであと1日というところまで戻ってきた。


最後の宿を取ることにした2人。


シズン村以降、『もったいないから』と1つの部屋で泊まるようになっていた。



夜もふけて、ベッドに入る2人。


シャックスが明かりを消そうとすると、ハルファスが話しかける。



「今回も助けてくれて、ありがとう。


シャックス、君には世話になりっぱなしだな」


「なによ、いまさら。


私は私で、成果はたんまりいただいたから。


私こそ感謝しなきゃ」



笑いながら応えるシャックス。



「サイレンス《静寂》」



突然、ハルファスが静寂の魔法を唱えた。



「なに?どうしたの、ハルファス?」



静寂の魔法を使用しているにもかかわらず、シャックスは自分の声が聞こえることに再度驚く。



「どういうこと?」


「いま、我々の周りのみを静寂の壁で覆っているのだ。


これもブライトからの教えの賜物だ」



ハルファスは、静寂の呪文の範囲を変数ではなく、立方体の形と厚みを数値化して詠唱していた。



「実験って、こと?」


「いや、君は私に何か話があって会いにきてくれたんだろう?


しかもそれは余人に聞かれてはならない。


そう思ったから、静寂の壁を作ったのだ」



続けて、ハルファスは『マップ』と、キーワードを唱える。


地図上に宿屋の従業員らしき人数しか描かれていないことを確認する。



「周りには怪しい人影もない。いたとしても、この会話は聞こえない」


「いつから、気づいていたの?」


「『銀の鵜飼亭』に現れてくれたときである」


「そんな前から…。あなたって、鈍感なくせに、鋭いわよね」


「なんのことを言っておるのだ?」


「いいの。こっちの話!」


「で、どうなのだ?私で力になれることなのか?」


「ええ。その通りよ。


あなたに相談したくて、ルクセンまで来たの。


まさか呼び出されるとは思っていなかったけどね。


あなたは、もう気づいているみたいだけど、いま、私は盗賊ギルドに世話になっているわ。


ちょうどサイオン戦線の真っ最中だった頃、先代のギルドマスターが亡くなってね。


私は、暗殺されたと思っているわ。


その後、跡目を争ってギルドは2つの派閥に分裂したままなの。


片方は、先代の息子のジェイド。


もう片方が、先代の右腕だったギリス。


2人の今後の方針も真逆でね。


これまで盗賊ギルドはどこの国にも属さずやってきた。


けど、近況を見ていると王国か帝国、どちらかが大陸の覇権を握る趨勢になってきている。


だから、どちらかの国に付こう。


ここまでは、共通しているのだけど…


ジェイドは王国派、ギリスは帝国派ということで対立しているわけ。


ギルドのメンバー全員が、くっきりと派閥に分かれているというわけではないわ。


けど、ギリスがギルド長になると王国としては結構厄介なことになる。


だから、ジェイドを勝たせるために、私はギルドへ潜入を命じられたというわけよ」


「なるほど、そんな動きがあったのか」


「ギリス派の切り崩しに、今回発見した金貨は有用になると思うから助かったわ」


「どちらの派閥も強固な絆で結ばれているわけではないということか。


しかし、話を聞く限り、君のとっている行動は的確な手だと思うが?」


「方針は間違ってないつもり。


それに、時間をかけただけあって、私のポジションもそれなりに高いところまでは来ているわ。


だけどね、ギリス派の切り崩しは、正直いって上手くいってない。


その上、新参者だから、ジェイド派にも完全に信頼されているわけでもなくてね。


これ以上、下手に動くと素性がバレる可能性もあるし…


どうしたらいいか、あなたに相談したくて…」


「このことを知っているのは?」


「国王陛下とベルル閣下だけよ」


「確かに重大な悩みであるな。しかし、いま、一刻を争う問題でもない。


今夜はゆっくり寝るといい。私も何か手がないか考えてみるのだ」


「ありがとう、ハルファス」


「当然のことだ。おやすみ、シャックス」

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