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第39話 授業

巨大な幻獣と対峙する。


水竜は、ハルファスを見つめたまま、全く動きを見せない。


逃げ出さないように見張っているのか、何か他の思いがあるのか。


しかし、水竜の表情からは何も読み取れなかった。


ただ、サファイアのような美しくも危険な青い瞳がハルファスを見つめている。



命のかかった極限状態であることには変わりない。


探索に向かった2人への信頼が揺らぐことはない。


が、強大な力を目の前にして、ハルファスの精神は圧迫されていた。


物を言わぬ彫像のようになった水竜。


その水竜に対して、ハルファスの中で恐怖とともに、もう1つの感情がわきあがってくる。



ハルファスから見れば、古代魔法王国から生き続けている古竜エルダードラゴン


それは、生きる古文書の塊に見えた。


ハルファスは恐怖よりも知的好奇心が抑えきれず、とうとう話しかける。



「水竜ブライトよ。ただ待っているだけでは、あなたも退屈でしょう。


もし良ければ、いくつか質問してもよろしいでしょうか?」


「かまわぬ」



ハルファスの申し出に対しても、水竜からは表情は読み取れない。



「あなたは古竜エルダードラゴンとお見受けします。


普通のドラゴンと老竜エイシェントドラゴンとの違いとは、どこから来るのでしょうか?」


「ほう。この状況で汝は、我の知識を得ようというのか」


「おかしいでしょうか?」


「いや、面白い。ハルファスと言ったか。


汝は実に面白い人間だ。よかろう、その質問にも答えよう。


竜は長寿の生物だ。人間からみれば不死に近い時間を生きていく。


そして長い時間をかけて、竜もまた成長していく。


生まれたばかりの竜は、本能のままに生きる。


やがて、いつの頃か知性に目覚め、自我を持つ。


知性に目覚め、自我を持つようになった竜を魔道師どもは、古竜エルダードラゴンと呼ぶようになった。


しかし、老竜エイシェントドラゴンは別だ。


老竜エイシェントドラゴンと呼ばれるものは、この世界に3体しかおらん。


その3体は、古代魔法王国ができあがったとき、すでに存在していた。


しかも、知性に目覚め、自我を持つだけでなく、今の我以上の力をもっていた。


他の古竜エルダードラゴンとは別格の神に近い存在であったのだ。


そこで、魔道師どもは、その3体を老竜エイシェントドラゴンと名付けたのだ。


それ故、これからどれほどの時間が過ぎていこうとも、我が老竜エイシェントドラゴンと呼ばれることはない」


老竜エイシェントドラゴンだけは、その3体の竜にのみ与えられた称号のようなものなのですね。


では古竜エルダードラゴンは、幅広い種類が存在しているということでしょうか?


通常の竜に近い個体から、老竜エイシェントドラゴンに近い個体まで幅広く」


「そのとおりだ」


古竜エルダードラゴンになれば、このように言葉を介さず、直接会話ができるようになるのでしょうか?」


「いや、古竜エルダードラゴンになったからといって、知識を得なければ、この『念話』はできない。


汝らが、魔法の資質があっても、知識を得なければ魔法を使えないのと同じだ」


「あなたは、どこで知識を得たのですか?」


「我は、古竜エルダードラゴンになって、すぐ古代魔法王国の魔道師どもに捕まり、誓約をかけられた。


その代わり、魔道師どもから色々な知識を得た」


「いろいろと言いますと?」


「政治・経済・魔法…


我に関係ないことも教える変わり者がおったのよ」



その言葉にハルファスの目が爛々と輝き始める。



「あぁ、何から聞いたらよいのだろうか。


あなたとこうして会話できるのは大変な僥倖です!」


「汝も本当に変わった人間よの」



初めて水竜は、目を細めた。


笑っているようだ。



「魔法とおっしゃいましたが、あなたも魔法を使うのですか?」


「うむ。我の属性に合うものだけだがな」


「それは現在使われている魔法と同じなのでしょうか?」


「それはどうだろうか。今を生きる人間たちのことがわかるぬからな」


「では、あなたの属性に合う魔法というと…


例えば水の柱を出現させる魔法は使えますか?」


「うむ。その程度は当然使える」



だったらと、ハルファスはしゃがむ。


そして、砂浜に自らが使用する『ウォーター・ピラー《水柱》』の魔法式を書いていく。



「どうでしょうか?内容的に同じでしょうか?」


「うむ。大体同じようだが、汝はそれの意味が分かって使っておるか?」


「ええ。一応、そのつもりです」



そういうと、水柱の魔法式を4行に分けて書き直す。



「1行目が、魔法の種類を指定する術式です。


この場合は、水魔法を指定しています。


2行目が、魔力の出力形式を選択する術式です。


この場合は、水柱を指定しています。


3行目が、魔力を出力する方向を指定する術式です。


この場合は、前方を指定しています。


そして、4行目で発動を宣言しています」


「なるほど。汝の理解の仕方は、そうか。


では、その4行の魔法式を我の言うところで、改行して隣に書いてみよ」


「わかりました」



ハルファスは、水竜の指示通りに魔法式を書いていく。


魔法式は全部で9行となった。



「よいか。この魔法は、この9つの意味から成り立っている。


1行目で、魔力の発動を宣言しておる。


2行目で、魔法の種類を指定しておる。


汝の言うとおり、水魔法を指定しておるな。


3行目は、魔法の属性を指定しておる。


この場合は、水じゃな。


ここを水魔法の系統に直すことも可能じゃ。例えば氷じゃな。


4行目で、魔力の形状を指定しておる。


この場合は、柱型じゃ。


5行目は、魔力の出量を指定しておる。


汝が書いた式では、変数を入れておる。


6行目は、魔力を出力する方向を指定しておる。


汝の言うとおり、前方を指定しておる。


7行目は、魔力を出力する範囲を指定しておる。


ここも、変数を入れておるの。


8行目は、魔力の出力時間を指定しておる。


ここも、変数を入れておる。


最後に、9行目で魔法の発動を宣言しておる」



ハルファスは、固まった。


この数十秒で、これまでの魔法に関する研究が何十年分進んだことになるのか。


畏敬の念を込めて、ハルファスは言う。



「ブライト!あなたのような賢者に出会えて、私は本当に幸運だ!」



水竜も、まんざらでもない様子である。



「変数の部分は、おそらく魔法を使用する者のイメージで補っているのであろう。


その辺りは、古代魔法王国から進歩したのか退化したのか、判断しずらい点じゃな。


変数の部分にもっと具体的なイメージを構築してみたら、どうだろうか?


もしかしたら、変数が入っている行を省略しても魔法を発動させることができるかものう」



ハルファスは、宝箱を頭の上でひっくり返され、金貨の上で泳いでいるような気分であった。



「すばらしい…。すばらしい…。すばらしい!」



小躍りしているハルファスを水竜は、楽しそうに見ていた。



「ブライト!もう少し他の質問もしてよろしいでしょうか?」


「構わん。我には悠久の時が存在する。いくらでも付き合ってやろう」



魔法王国滅亡から現在まで、気の遠くなるような長い時間を孤独に過ごしてきた。


水竜は、ハルファスとの会話が楽しくなってきたようだった。


ハルファスは、不謹慎な考えを起こしていた。


シャックスとアルケニーの探索の時間がかかり、できるだけ遅く帰ってくれば良いと…

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