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第3話 恵まれた職場

配属から1年経った。


今でも、ハルファスは、自分の配属先と担当業務に大変満足していた。



「好きなだけ古文書を解読して論文を書ける。


そのうえ給与まで支払われるなんて、ここは天国であろうか」



ハルファスは、与えられた官舎にも帰らず、ほとんどの時間を書物庫の中で生活していた。

 

変わり者の多い宮廷魔術団の中でも、『変人』と呼ばれるまでに時間はかからなかった。



「ベルル閣下に感謝するほかあるまい」



と、いつもの独り言をつぶやきながら、入団式の様子を思い返していた。


 

判定の儀で多少バタつきはあったものの、希望通り宮廷魔術団の入団式に参加することができた。


入団式が始まると、壇上には判定の儀で会った白髭の魔術師が立っていた。



「諸君、我が誉れある宮廷魔術団への入団、おめでとう。


私が、団長を勤めるベルル・アルバスじゃ。諸君にはベルル団長と呼んでほしい」


「あの方が、かの『大陸の三賢者』の1人、白髭の賢者ベルル様か」


初見から高位の魔術師であると思っていた。


が、この大陸に3人しかいないといわれる魔道師の1人だとまでは思っていなかった。


伝説の魔道師の下で研究ができるとわかり、ハルファスは「ついてるな」とつぶやいた。



「諸君は既に知っているかもしれんが、宮廷魔術団の仕事について説明しよう。


我が宮廷魔術団は4つの部署に分かれている。


古文書の内容を調査・報告する『解読部』


解読された内容を分類・管理する『管理部』


現在知られている魔法の魔術式を解析する『解析部』


解読部・解析部の報告を元に、新たな魔術式の構築を試みる『開発部』


この4つの部によって、我が団は成り立っておる。


そして、有事の際は、団員すべてが魔術師団として戦に臨むことになる。」



ベルルは、ここで一息つくと、新入団員の顔を見渡す。



「若者たちよ、我がコンコード王国の発展のため、一人一人が賢者たれ」



団長の挨拶が終わると、配属先の辞令が発せられた。



「ハルファス。汝、これより宮廷魔術団 解読部の任を与える」


 

そもそも魔法の才を伸ばしてきた士官たちである。


配属先としては、『解析部』または『開発部』を希望する者が多い。


そんな中、一人だけ『解読部』への希望を出していたのだから、当然の辞令であった。

 

このときから、『変わり者』という評価がなされたハルファスであった。


が、その働きぶりから『変人』と呼び名が変わるまでに時間はかからなかった。



入団式の様子を思い出し、少し微笑んだハルファス。


これは非常に珍しいことであるが、それには理由があった。


この日は、先日より読み解いていた古文書の全体像が判明してきたところだったのだ。


そのため、普段では見られないほど、ハルファスは上機嫌であった。


そんな時に同僚から、その至福の時間を邪魔する輩の来訪を告げられる。



「ひさしぶりね、ハル」



そう言いいながら部屋に入ってきて、笑顔を見せたのはシャックスであった。

 


「学生時代の呼び名に戻っていますぞ、シャックス殿」



反論するハルファスの肩に、もう一人の来訪者が腕を回す。



「元気にやっているか、ハル」



反論を諦めたハルファスは、サブノックに顔を向ける。



「まったくもって至福の時を過ごしていたのだ。


それを妨げるとは一体、何の用だ。サブノック百人長殿」


「まあ、そういうなよハル。


お前が兵舎にも戻らず、飯も食わずに仕事しているって、うちの団まで聞こえてきているぞ」



宮廷魔術団と諜報部は、王城に配置されている。


それと違い、騎士団はいくつかの隊に分かれて組織され、各地に派遣されている。


戦において主力となる騎士団は、数がものをいう。

 

王立学院卒業生だけでは、とてもまかなえない。


卒業生だけで結成されている王の近衛隊。


これを除いて、他の隊は平民から徴兵された兵士を卒業生が指揮するという形をとっていた。


そのため、3人の中でサブノックだけはしばらく会えないものと思っていたハルファスであった。


が、サブノックの配属先が王都守備隊になったため、3人とも王城に勤めることになっていた。



ハルファスは、『変人』であるが『馬鹿』ではない。


2人が自分を本気で心配して、忙しい中、来訪してくれていることには察しがついている。


2人からの「食堂で飯でも食おう」という誘いには素直に従うことにした。

 


食堂へ赴くと、普段と違って殺伐とした空気であることにハルファスは気づく。



「なぜ、こんなにもピリピリとした雰囲気なのだろうか」



思わず、口にした言葉にサブノックが答える。



「昨日、帝国から帰国した使節団が、王城近くで襲われたらしいぞ。


現場は、王都守備隊の警護区域の少し外だったらしいんだが…


隊長が真っ青な顔してたから、相当上から怒られたんだろうな」



どうやら、サブノックも見回りから帰ってきたところらしい。


シャックスも答える。



「任務のことは、あまり詳しく話せないんだけど…


どうやらかなりのお偉いさんが連れ去られちゃったみたい。

  

諜報部は、昨日から各街道はもちろん、国境近くまで捜索に出ているわ。


まあ、私も詳しいことはわからないけどね」



そう言う、シャックスも捜索から帰ってきたばかりのようだった。


どうやら、2人とも物々しい事態に陥っているようだ。


にもかかわらず、わざわざ食事に連れ出してくれたらしいことを改めて知ったハルファス。


声に出すのは照れくさくてできなかったが、2人に深い感謝を胸の中で伝える。



「私の部署には、そういった物々しい情報は降りてこないな。


団長あたりは、対応に当たっているのだろうが」


「物々しいことなんて無い方が良いじゃないか。


で、その仕事は順調なのか?


…って、さっきの様子を見ると楽しんでやってるようで安心したけどな」


「私も無理矢理やらされているのかと思って心配して損しちゃった。


本当、楽しそうにしてたわね」


「楽しくないと言ったら、うそになるな。ただ、さっきは特に良いタイミングだったのだよ。


先日から解読していた古文書の内容が、だいたい分かったところだったんのだ」


「へー、どんな内容だったの?」



あまりに嬉しそうに語るハルファスの様子に、シャックスが問いかける。



「古代魔法王国というのは、2人とも知っているだろう。


その宝物庫の隠し場所を何箇所か書き記したもののようなのだ」


「宝物庫かー。夢があるなあ。一度は、拝んでみたいもんだな」



サブノックが無邪気に話しにのってくる。



「もし2人に時間がつくれるなら、今度一緒に行ってみないか?」



ハルファスの言葉に2人は驚く。



「そんな大事なこと、上に報告もせずにできないでしょ」


「確かに、行って見たいけどなあ…」


「もちろん、解読した内容については報告書をきちんとあげる。それが私の仕事だからだ。


ただ、記述にあった隠し場所の1つが我々の思い出の場所に良く似ていたのだ。


懐かしさも手伝って、3人でまた訪れるのも一興かと思ったのだ」


「え、どこどこ?」


「我らが学び舎の裏にある山の中にいくつか洞窟があったろう。


我々3人が野営の訓練に使用した洞窟だ。

 

記述を読み込んでいるうちに、該当する場所があの洞窟に似ているような気がしてきたのだ」


「おお、野営訓練ね。懐かしいな。シャックスが夜、震えてたのが懐かしい」


「失礼ね。ただ寒かっただけよ」



2人にとっても学生時代の懐かしい思い出になっているようだ。



「まだ着任してから1年しか経っていない。


が、学生時代の思い出というものは、どこか眩しく、懐かしいものであるな。

  

実際に宝物庫がある可能性は低いが、時間があるときにでも行ってみないかね」


 

2人とも賛成したのはいいが、どうやらみんなの次の休みを合わせるのは難しいことに気づいた。



「どうせなら、今から行ってしまわないか?


俺もシャックスも、これから明日の朝までは非番だしな」


「それは名案ね。そうしましょうよ」



仕事明けにもかかわらず、休息の時間はいらないとばかりの態度である。


実際、この2人の体力は並外れていた。


ハルファスに関しては、休みを取るといえば周りが是非そうしろというに決まっている。


夕食を食べ終わった3人は、早速思い出の洞窟に赴くことにした。

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