第2話 属性判定
平民出身の特待生3人組も、王城の外壁が見えるところまでやってきていた。
歩きながら交わされる彼らの話題も、これから判定される自分たちの属性について自然と移っていった。
「サブノックが戦士以外の属性判定されたら、びっくりよね」
と、笑いながらシャックスが言うと、サブノックも言い返す。
「それをいうなら、おまえだって諜報士確定だろ。
僧侶なんて判定が出たら、俺は神の存在なんて全否定するね」
サブノックは、最初から『戦士』になるつもりで王立学院へ入学していた。
正確には、『戦士』になることを前提に、である。
彼の野望は、その上位種である『重剣士』、さらにその上位種『侍』になることである。
シャックスも同様であった。
『諜報士』になることは、当然の前提であった。
その先にある上位種である『暗殺者』、さらにその上位種『忍者』になることを目指している。
通常、上位種に属性が上がること自体が大変なことである。
そこからさらに最高位の属性まで上げることは、歴史的にみても数少ない偉業である。
しかし、2人とも自身の才能を信じており、人の何倍も努力することを当然としている。
2人の目に映っているのは、ただの夢ではなく現実的な目標であった。
「まあ、お互い、そこを目指してステイタス伸ばしてきたんだし、当然ね。
ただ、ハルファスの判定は気になるわね」
「それは、俺も気になるところだな」
2人のやりとりを聞いて、ただ微笑んでいたハルファス。
だが、その矛先が自分に向かうと、2人に端然と答える。
「私の履修傾向からは、『魔法士』しか判定しようがないと思う」
「そうか。履修科目は一応『魔法士』寄りだったもんね」
「ハルファスは『魔法士』のスタートか。
じゃあ、俺が『侍』になるころには、お前たちも『忍者』と『魔道師』になってろよ」
いつのまにか自身のハードルも最高位の属性に上げられ、ハルファスは苦笑いを浮かべる。
王城への道を様々な話に花を咲かせて、にぎやかに歩いてきた3人。
だが、王城の門をくぐり判定会場に入ると、さすがに緊張のため誰もしゃべらなくなった。
無言のまま判定の順番を待っていると、どうしても万が一を考えてしまう。
3人にとっても、長い長い順番待ちの時間となった。
そんな中、いよいよサブノックの判定が行われることになった。
「判定者 サブノック。属性は『戦士』。
配属先は騎士団となる。詳細は騎士団の受付で聞くように」
「判定者 シャックス。属性は『諜報士』。
配属先は諜報部となる。詳細は諜報部の受付で聞くように」
サブノックとシャックスは、安堵のため息をつく。
一息つくと、2人は残るハルファスの判定を興味津々で眺めだす。
「次。判定者 ハルファス。属性は…。な、なんだこれは?」
突然、判定員が慌てだす。
「す、少し、ここで待っていなさい」
判定員はハルファスの仕官証をもって、どこかに駆け出していった。
想定外の事態に対して、3人はそれぞれの特徴的な態度をとっていた。
シャックスは、他人事ながら顔を青くしている。
サブノックは、期待を込めた目をした笑顔で事態を見守っている。
ハルファス本人は、特に動揺もなく、他人事のように飄々と事態を眺めていた。
しばらくすると、白髭の老人がハルファスの元にやってくる。
その身なりから、かなり高位の魔術師と見受けられる。
「お主が、ハルファスか?」
その問いに対して、ハルファスは無言で頷く。
「まず、判定結果から伝えよう。お主の属性は『策士』じゃ」
魔術師の言葉を聞いたシャックスが、ハルファスよりも先に思わず声を上げる。
「なにそれ?そんな属性聞いたことないんだけど?」
「どういうことか、ご説明いただけますでしょうか」
流石に、ハルファス自身も老人に問う。
「うむ、よかろう。
この判定の水晶球は、古代魔法時代の遺物を簡易版にしたものじゃ。
判定に使われている主要な魔術式は、現在では解読することができないものが組み込まれている。
いわゆる『失われた魔法』じゃな。
分かっているのは、判定者のステイタスに見合った属性を判定するということのみ。
つまり、現在知られている属性が全てというわけではないということじゃ。
ステイタス次第で、まだ見ぬ属性も現れる…
そんな予測を我々宮廷魔術団もしていたのじゃが…
まさか本当に現れるとは思ってなかったわい。」
そう言って、老人は白髭をしごきながら笑う。
「誰も知らない属性ってことは、配属はどうなるんだ?」
よく意外と思われるのだが、サブノックは身体能力だけでなく、柔軟な思考力を併せ持っていた。
ハルファスは、サブノックについて評価する際、いつもそれを口にしていた。
その類まれな身体能力よりも、柔軟な思考力を一番に評価すべきであると。
ハルファスは、自分のことで混乱が起きているにもかかわらず、サブノックを再評価していた。
やはり良い将校になる男だと。
一方で、ハルファスは自身の属性について、サブノックの思考の先をいっていた。
『策士』という属性とは、どうして発現したか。
それは、自身のステイタスの伸ばし方に起因しているだろうと。
『魔法士』になるよう伸ばしたステイタス…
それが『戦術』研究による影響を受けたものであるという推測を立てていた。
であるならば、現存する部署の中では宮廷魔術師団に配属されることになるであろうと。
案の定、老人は言った。
「ステイタスを見る限り、『魔法士』に近い属性だと我々は判断している。
よって、ハルファスの配属は宮廷魔術団とする」