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第18話 黒衣の騎士

禍々しい瘴気に溢れた中庭が、ゴブリンに埋め尽くされている。


一段と濃い瘴気を纏った黒衣の騎士が、ゴブリンたちからの隷属の意思表示にうなづく。



「…いかがでしょうか、ベリアル殿」



人間の兵士が問いかけてくる。



「数は揃った。いつでも出陣できる」



ベリアルが端的に応じると、怯えた様子を隠しきれない兵士が報告のために去っていく。



「なぜ我が、こんな下級どもをわざわざ召喚し、人間どもの餌を運ばねばならんのだ」



苛立たしげにつぶやくと瘴気が一段と立ち上る。



「我1人で、あの砦の中にいる人間ごと、全て皆殺しにするほうが余程楽やもしれん」



魔界騎士たるベリアルは、魔人といえども騎士としての特性のため、下級な魔物しか召喚できない。


しかし、その個たる武力は並みの魔人の比ではなかった。



「いっそ、盟約の隙をついて、あの老いぼれの首を刎ねるか」



実際、何度か試みているが、盟約による制約に阻まれ達成できずにいた。



「この鬱憤、戦場で少しでも晴らさせてもらおう」





翌日、魔道師バレットから出撃の命が下された。


魔物を従え、ベリアルはサイオン砦を目指す。


ふと、前回剣を交えた黒く日焼けした金髪の獣人の姿が思い浮かぶ。


荒削りながらも魔剣を使いこなし討ちかかってくる姿に、騎士としての欲が生まれたのを思い出した。


「あやつなら少しは楽しませてくれるだろうか。


まだまだ力不足だが、鍛えれば面白いかもしれん。


まあ、再び我の目の前に現れる勇気があればの話だがな」



本来の任務よりも才ある武人と切り結ぶことのほうが、ベリアルとしては優先すべきものであった。




サイオン砦へ近づくと、前回と同じようにゴブリンとオークを突撃させる。


しばらくすると、魔物たちが一気に討ち取られていく。


おもむろに戦場に目をやると、人間たちが柵を作り、押しかけた魔物を長槍で葬っている姿に気づいた。



「小賢しい」



そうつぶやくと、前線へと馬を走らせる。


柵が近づいてきたところで、付近の魔物ごと焼き払うつもりでファイアー・ボールを放つ。


しかし、目的の場所で爆ぜる前に、柵の左右から飛んできた氷のつぶてに迎撃される。



「魔法使いもつれてきたか」



特に興味もなさそうにつぶやくと、自軍が左右から包囲されていることに気がつく。



「こんな策で我を抑え込めるとでも思うのか」



薄く笑うと、包囲陣を崩そうと動き出す。


その時、向こうから見覚えのある若者が、気合の雄たけびとともに駆けてくるのが見えた。


迎え撃つためにベリアルが立ち止まると問答無用で若者が切りかかってくる。


馬の加速を上手く乗せた重い斬撃が、ベリアルの胴を狙って放たれる。


ベリアルは、この初撃を黒剣で受け止めると口角を上げる。



「ほう…また我の前に立つとは、見上げた勇気だ。


我は魔界騎士ベリアル。


そなたの名は、なんという」


「王国騎士 サブノックだ」


先日、圧倒的な力の差を知らされたが、臆することなくサブノックは正面から打ち合っていく。


魔剣同士の放つ火花が散る。



「やはり、面白いやつよ」



ベリアルは機嫌を良くする。



ベリアルがサブノックと一騎打ちを始める。


すると、柵に押し寄せて過度に密集している魔物たちに、左右から火球が飛び交い甚大な被害を出す。


しかし、ベリアルの興味は、もはやそちらにはなかった。


目の前のサブノックの剣技を確かめようと、あえて受けに回り、打ち合いを楽しんでいた。


補給部隊も攻撃を受けていたが、それも全く意に介さない。


自軍が全滅しようと武人としての本能がベリアルを突き動かす。



「そなたの剣は、なかなかのものよ。


だが、まだ踏み込んでおらぬ。


刺し違えても構わぬというような必殺の間合いに踏み込めておらぬよ」



機嫌を良くしているベリアルは、いつになく饒舌だった。


サブノックが、その言葉を聞き、悔しそうな表情を滲ませた。


その時、魔物たちの屍を囲うように青白い魔方陣が浮かんだ。

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