第17話 魔人
『東側を包囲していた王国軍について報告します。
指揮をとっていた5千人長は討ち死。
約1千兵を失ったうえ、砦への補給も行われました』
早馬にて戦況報告を受けたルンデールは、すぐさま包囲陣形の変更と人事について指示を出した。
北側の鉄の国は、そのまま陣形を維持。
東側の王都守備隊3千も、そのまま陣形を維持。
南側に配置されていたザイード兵1千を北東に遊撃隊として配備。
西側の王都守備隊1千を南東に遊撃隊として配備。
戦死した王都守備隊の千人長の代わりにサブノックを新たな千人長とし、この遊撃隊を率いさせる。
両遊撃隊は、東から侵攻してくる魔物の軍勢に対する手である。
北側もしくは南側を攻められた場合には、それぞれが友軍として対応。
本命の東側を攻められた場合は、両遊撃隊が包囲殲滅する形をとった。
現在、帝国は王国と鉄の国と交戦状態に入っている。
帝国中のどの場所であろうと、両国の侵攻を受けてもおかしくない状況である。
そのため、ルンデールは、帝国軍がサイオン砦に応援を出す余裕はないものと踏んでいた。
その油断も敗因の1つかもしれない。
しかし、この大敗は黒衣の騎士の影響が大きいというのも事実であった。
サイオン砦は、予想以上の堅牢さを見せていた。
それに加え、黒衣の騎士と魔物の軍勢という問題を抱え、ルンデールは思い悩んでいた。
そこへ執務室の扉がノックされる。
「お呼びでしょうか、将軍」
「呼び立てて、すまない。
ハルファス、お前にも相談したいと思ってな」
「ご相談というのは?」
ルンデールは現在の戦況と新たな敵について伝える。
「お前なら、どうする?」
ハルファスは端的な問いに、しばし瞑目し、思案する。
陽光が執務室に差し込み、ハルファスの影が濃くなる。
「まず思い当たった点からで、よろしいでしょうか?」
「かまわん。続けてくれ」
「鉄の国の使者を奪還したときから不思議に思っていたのですが…
なぜ、わざわざ帝都まで捕虜を連れて行っていたのでしょうか?
そして、その後、現れた魔物たちも不可解です。
しかし、帝都には『大陸の三賢者』の1人、喚起の魔道師バレットがおります。
バレットは、魔道師であるとともに、召喚士の属性を併せ持つ…
それがゆえに、『喚起』の二つ名が与えられていると聞き及んでおります。
これらのことから導き出されることは、捕虜を生贄に魔人を召喚したのではないかという推測です。
召喚の中でも、魔人召喚は禁忌とされております。
が、かのバレットの人物評を聞くと、やりかねないとしか言えません。
情報が限られておりますので、短絡的な推測になってしまいますが…
その黒衣の騎士が、バレットの呼び出した魔人だと仮定します。
その場合、黒衣の騎士が魔物を統率していることと人外の強さを持っていることにも納得がいきます。
魔人は、下級の魔物を召喚し使役することができると言われておりますので」
「その推測が当たっているとしたら、許しがたい所業だ。
妖精族といえども、ともに大陸に共存する者。
それを生贄にして魔人を呼び出すなど、正気の沙汰ではない」
「しかし、筋は通ります」
「うむ、確かにそうであるな。信じたくない話であるが…」
「魔人がどこまで召喚の制約を受けているのか…
それは分かりかねます。
しかし、魔人の襲撃を受けながら、堅牢なサイオン砦を奪還することは、まず無理でしょう」
「ハルファス、お前は早期の撤退を献策するというのか?」
「いえ、そうではありません。
このまま鉄の国との連合が失われてしまえば、我が王国もジリ貧です。
前線の兵士には負担を強いてしまいますが、長期戦に持ち込むことを提案致します」
「長期戦に持ち込むことで、なにかメリットはあるのか?」
「ええ、鉄の国とのつながりを失わないというメリットがあります。
ただ、それだけではありません。
それに加えて、空城の計を献策致します」