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第16話 包囲戦

鉄の国からの文書にあった指示通りに、ザイード砦から合図の狼煙が上げられる。


しばらくすると、これに呼応する形で、サイオン砦の向こう側からも狼煙が上がる。


軍議の間にも、鉄の国から狼煙が上がったことが伝えられる。



「お前たち、いよいよだ!


厚かましい帝国兵を蹴散らして来い!


出陣っ!」


「おうっ!」



一刻の後、3人の5千人長が率いる総勢1万2千の兵がザイード砦から出陣する。


ルンデール率いる3千の兵力は砦の守備に当たる。



サイオン砦に到着すると、これまでの鬱憤を晴らすかのように、突撃を開始する。


反対側の鉄の国の軍勢も呼応するように突撃を開始する。



サイオン砦にある兵力は5千。


連合軍の兵力は1万5千。


3倍の兵力差と2方向から突撃に、サイオン砦の制圧は容易であると考えられていた。



しかし、戦局は一向に変わらず、膠着状態となった。


小高い丘の上に建設されたサイオン砦は、細部に至るまでドワーフが精魂込めて造っている。


なぜ帝国が、この砦を落とさせたか理解できないほどの堅牢さであった。



夕刻を過ぎ、サイオン砦の西側で、王国軍と鉄の国の軍勢が合流する。


そのまま、野営の準備に取り掛かる中、大きなテントの中で軍議が行われていた。



「此度の助力、誠に感謝申す」



鉄の国を代表して、将軍であるギランというドワーフが感謝の意を表明する。


鉄の国から5千の兵を率いてきたギラン隊。


しかし、サイオン砦の攻略ができないまま、徐々に戦力を削がれていたという。


現在では3千にまで兵が減っているとのことだった。


長期にわたる戦を指揮してきたギランに対して、3人の5千人長たちから労いの言葉がかけられる。



「自分たちで造っておいて口惜しい限りなのだが、サイオン砦の守りは堅い」



ギランの無念の声を聞くまでもない。


今日の手応えから、短期決戦に持ち込むのは無理だというのが全員の見解であった。



『兵数は圧倒しており、補給路もお互い磐石である。


このまま砦を包囲し、帝国軍の補給路を断ち、持久戦に持ち込む』



全員一致で、この戦の方針が定められた。


他の国の兵同士が一緒になっても上手く機能しないであろう。


そのような意見が出たことから、ギラン隊3千は、そのまま砦の北側を包囲することになった。


王都守備隊のうち4千が砦の東側。

ザイード砦の兵のうち4千が南側。

サイード砦の兵3千と王都守備隊の兵1千が西側。


王国軍の布陣もこのように確認し、それぞれ5千人長が率いることを決め、この日の軍議は終わった。



挿絵(By みてみん)



翌日から、4方向の包囲陣を固める連合軍。


対して、帝国軍は何の動きも見せず、予想通りの持久戦となった。


砦の東側では、何度か帝国軍の補給部隊が突撃してきたが、王国軍はこれを全て退けていた。


そのため、今回の包囲戦は万全であると思われていた。



しかし、ある日を境に砦東側の戦局が大きく変わる。


帝国の補給部隊を援護する形で新たな軍勢が現れたのである。


その数2千兵。


寡兵であるが、その軍容が異常だった。


黒衣の騎士が率いるこの軍勢は、全ての兵士がゴブリンやオークを中心とした魔物だったのである。



東側を包囲していた王国軍は、この軍容に動揺した。


その隙を逃さず、黒衣の騎士は率いてきた魔物の軍勢を突撃させる。



動揺をつかれ、正面から突撃を受けた王国軍。


だが、なんとか指揮系統を立て直し、力押しのみの魔物たちを撃退し始めた。


魔物の出現によって下がった士気を鼓舞するため、王都守備隊の5千人長自らが最前線で剣を振るう。


そこへ魔物たちを率いていた黒衣の騎士が近づいていき、一騎打ちとなった。


数合切り結んだ黒衣の騎士は、薄く笑うと、5千人長を次の一撃で軽く切り伏せる。



隊長を失った王国軍は再び指揮系統が乱れ、魔物の軍勢と乱戦になる。


乱戦になっても黒衣の騎士は、平時に馬を進めるかの様子で、周りの王国軍の兵士を倒していく。


そして、兵の薄いところを狙い、補給部隊を守りながら砦まで突っ切るよう指示を出す。


補給部隊を守る帝国兵は少ない。


乱戦で混乱している王国軍の中でも兵も迎え撃つために動いた小隊があった。


しかし、その王国兵に対して、黒衣の騎士がファイアーボール《火球》を次々と撃ち込んでいく。



黒衣の騎士は、さらに追撃の魔法を詠唱しようとしていた。


その時、サブノックが黒衣の騎士に突っ込み、魔力の輝きを煌かせた魔剣を打ち込む。


サブノックの一撃を剣で打ち返すと、黒衣の騎士が「ほう」とつぶやき、口角をわずかに上げる。



黒衣の騎士が持つ剣は、刀身も全て黒く、禍々しい魔力を放っていた。


サブノックの魔剣を受けても、青白い火花を散らすだけで、折れる様子もない。



黒衣の騎士と数合切り結んだだけで、サブノックはかつてない緊張を味わっていた。


嫌な汗が背中から噴き出す。


サブノックにも分かっていた。


明らかに相手は本気を出していないのだ。


フェイントを織り交ぜながら、渾身の一撃を放ち続ける。


しかし、黒衣の騎士は口元に笑みを浮かべたまま、それを軽くいなす。



サブノックの決死の一騎打ちにより、王国軍は体勢を立て直しつつあった。


が、すでに補給部隊は砦の中に到達してしまっていた。


それを見届けると、黒衣の騎士は魔物たちに撤退を命じる。



「魔剣使いの若者よ、また会おう」



そう告げ、サブノックの剣を大きく上へと弾く。


サブノックが体勢を崩している間に、さっそうと身を翻して退却していった。


サブノックは、馬上から落ちそうになるほど疲弊しており、追撃することはできない。


なんとか生き延びたと、ただ安堵の息を漏らした。


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