第14話 軍議
軍議では諜報士の報告の後、将校たちから各自の意見が出される。
通常、軍議または指揮に関しては将校が作戦を立案・実行するのが、この大陸の慣わしである。
諜報士が同席するのは情報報告のため、魔術師はその後の指示を受けるのに2度手間になるからである。
『鉄の国には事後承諾してもらうことで討って出るべき』
将校たちの献策は、これまでの意見と全く変わらなかった。
ルンデールの眉間の皺が深くなる。
しばしの沈黙の後、ルンデールからサブノックにも意見を求められる。
「私は、現段階で出陣するのは早計だと考えております。
なぜなら、とりつけられるかわからない承諾を元に動くのは危険だからです。
後になって、『王国も鉄の国に侵攻した』との謗りを受けかねません」
サブノックの意見は正論であったが、それは現状を打開するには至らないものでもあった。
「お前は、どう思う?」
ルンデールはハルファスにも問う。
これには、これまで黙っていた王都守備隊の5千人長が声を上げる。
「閣下、軍議の場で魔法士などに意見を出させるなど、聞いたことがありません。
戦を一番分かっているのは戦士であります。
しかも、そんな若造に何が分かるというのです」
「我がザイード砦は実力主義を徹底しておる。
若造だろうと力があれば、その力を借りるまでだ」
「閣下、お言葉を返すようで申し訳ありません。
が、同じ若造であっても魔法士風情に戦のことなどわかりますまい」
「まあ、そういうな。
昨日、こやつらの模擬戦を見させてもらったが、なかなか見事な采配であった。
それに今は打開策が全く見つかっておらん。
ザイードを預かる者として、少しの可能性でも失いたくないのだ」
王国兵士の憧れの1人であるルンデールである。
彼に、ここまで言われてしまうと、王都守備隊の5千人長も黙らざるを得ない。
ハルファスは気まずい思いを抱えながらも、ルンデールの視線に促されて、献策を行うのであった。
「私もサブノック百人長と基本的には同じ意見です。
ただし、このまま手を出さずにいることには反対です。
このままでは、サイオン付近における帝国の実行支配が既成事実としてできあがってしまう。
今後の国策上、そんな好ましくない事態に陥ってしまいます。
ここまでは、皆様と意見の異なる点はないかと存じます。
そこで、鉄の国の承諾を得る方法に考えを絞ることが必要だと考えております。
先ほどの報告では、サイオン砦と帝都を補給部隊が往復しているとのこと。
報告を元に鑑みれば、補給部隊だとしても帝都に戻る進軍速度は明らかに遅いように感じます。
これはサイオン付近の特産品などを運搬しているからとも考えられます。
が、このような状況で大量の物資を運んでいるとは思えません。
では、なにが進軍速度を落としているのか。
考えられる可能性として、鉄の国の捕虜を帝都に運んでいるのではないかということです。
捕虜をわざわざ帝都に運ぶ理由はわかりませんが、可能性は非常に高いと考えております。
他部署の管轄になり大変申し上げにくいのですが…
帝都へ戻る補給部隊の中に捕虜が含まれていないか、諜報士の方に至急ご確認いただければと思います。
捕虜が補給部隊に確認できた場合なのですが…
その中には、素性を隠して捕まっている鉄の国からの使者がいると考えております。
そこで、少々荒事になりますが、鉄の国からの使者を発見するという策を献じたいと思います。
具体的には、帝国軍の補給部隊の移動ルートの中で、王国の国境に一番近い場所において急襲します。
万が一、使者がいなかったとしても、補給部隊を殲滅してしまえば、王国の介入の痕跡は残りません」
軍議の場に、しばらくの間、静寂が訪れる。
献策の内容を検討する者…
新たな献策がなされるとは思っておらず、ただ驚いている者…
魔法士風情が献策したことを苦々しく思う者…
それぞれの思いが交錯するなか、ふいに静寂が破られる。
「素晴らしい献策である。良くやったハルファス」
ルンデールは喜色を浮かべ、大声で宣言する。
「これより、補給部隊急襲に関する具体的な軍議に移る」