第10話 帝国の内情
人間のみで形成し、大陸東部の高原地帯に樹立した『帝国 エンフィニア』。
4カ国のうち、2番目に広い領土を持ち、高原で訓練された帝国騎馬隊は大陸随一の強さを誇る。
一方で、農業や商業に適した環境とはいえず、国内の生産力においては王国に劣っている部分がある。
しかも、人間以外の種族に対する排他的な政策をとっているため、王国以外との国交を開いていない。
そのため、国内で必要となる物資が行き渡りきらないという問題を抱えていた。
この問題は、帝国民の貧富の差を広げる原因ともなっており、重要な課題であった。
帝国の為政者たちは、この問題の打開策として、王国との通商条約の見直しを模索していた。
王国から輸入する商品、特に鉄の国や風の国の出産品は、価格が高騰していた。
それは、出産国の利益が乗った商品に、さらに王国の利益が乗せられて販売されるためである。
この貿易体制は、帝国に財政の資金難という追い討ちをかける原因になっていた。
そこで、貿易品における王国の利益率を下げる形で、条約を改正することを帝国は望んでいた。
しかし、これは王国にとって利益となる条項を全く含まない改正案であった。
せめて何か帝国側が譲歩できる点はないのか。
その交渉を行うため、王女を団長とする使節団が帝国へ送られたのであった。
王女は国王の名代として随行しただけで、実際には経済政策を担当する文官が交渉にあたった。
この席においても、帝国側からの譲歩を一切得られず、交渉は難航した。
そして、結論が出せぬまま使節団は帰国したのだった。
帝国側としては、譲歩しないのではなく、譲歩できる余裕が一切ないというのが実情であった。
また、譲歩に変わる外交カードも持っていなかったのである。
交渉が決裂した帝国の為政者たちは、苦肉の策として、強行手段を取らざるをえなかった。
帝国との関係性が隠匿されている越境盗賊団を利用し、王国の王女を誘拐する。
帝国がこれを救出した形をとり、そのまま保護という名の人質にとろうとしたのである。
つまり、王女誘拐による外交カードを無理矢理作ることを図ったのだ。
しかし、この目論見も失敗してしまったため、帝国は窮地に立たされていた。
物資の国内流通も滞りを極め、国民の不満は高まっていた。
こうして、施政に追い詰められた帝国の為政者たちは、最後のカードを切ることにしたのであった。




