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天神様の子供  作者: 馨
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八分咲き

 本殿に真子を送り届けると光高は道真に詫びて神社を後にした。

 考えこんでしまった所為かひどい頭痛がしてきて、挙げ句の果てには熱を出してしまって真子は寝込んでしまった。

 「真子、調子はどうだ?」

 心配そうに道真が真子の部屋へ入ってくる。

 頭痛はひどくなる一方で、熱も相まって世界が揺れている様な気さえした。

 「……とうさま」

 「うん?」

 道真の節くれ立った大きな手が真子の額にかかった髪を丁寧によけてくれる。その拍子に道真がまとう梅の香りがふわりと香って来て少しほっとした。

 「わたし、むかしはなんで、みつたかさまがこわくなかったのでしょうか……」

 道真なら何か知っているだろうと思い、真子は質問を投げかけた。

 しかし、道真は悲しそうな表情を浮かべただけで、明確な答えを返してはくれなかった。

 「なぜだろうな……とりあえず今は眠った方が良い」

 道真は昔から真子の問いに答えなかったことは真子が覚えている限りは無かった。

 だからこそ違和感を感じた。

 だが、更に疑問を重ねられる程今の真子には体力は無く、本能に逆らえずに真子は静かに瞼を閉じた。


 一晩眠れば頭痛も熱もおさまったが、光高や道真の言葉が気になってすっきりしない。

 あれから昔のことは雷以外思い出すことが出来ず、道真に何度聞いても明確な答えが返ってこない。あとは光高に聞くしかないのだがこんな時に限って神社に来ない。

 今までは一週間と空けずに道真を訪ねてきていたのに、ここ二、三週間は姿を見ていない。

 最初の方は真実が気になる気持ちはあれど色々気を揉まずに済むとほっとしていた気持ちもあったのだが、道真から答えを聞けない今、日を追うごとにもやもやが増す。

 「うじうじ悩まずに会いに行けば良いじゃないの」

 決死の思いで雪に相談するもすげなくそう返された。

 「真子」

 雷の来そうな気配はないかと無意識に空を眺めていると道真に名を呼ばれた。

 「すまんが、これを八坂の須佐之男すさのお様に届けてもらえんか」

 差し出されたのは招待状だった。上質な和紙に朱色の梅紋の印が捺されている。

 「来月の梅花の宴の招待状だ」

 道真に言われ、そういえばもう今年もそんな季節だと気付かされる。

 毎年梅の季節になると道真は近隣の神々を正体して宴を開く。

 真子もいつもなら宴の日を指折り数えて楽しみにしているのだが、今年はいろいろあってすっかり失念していた。

 「分かりました。行って参ります」

 「気をつけて行くんだよ」

 招待状を受け取ると防寒用の肩掛けを羽織って須佐之男命の社を目指した。


 人の身とはいえ神に育てられた真子は半神半人だ。

 人には認識されにくいので街中で緋袴に白衣という目立つ服装でも全く注目されない。

 寒さから逃れる様に足早に人波を縫う様に歩く。

 目的の須佐之男命の社の門前に着くと肩掛けを畳んで服装や髪の乱れを正じ、深呼吸をして門前で一礼して境内に足を踏み出した。

 境内は参拝者で賑わい、人の中には狐面を被った者、純白の毛並みを持つ鹿など神の眷属と思われる者達も混じっていた。

 「おやまぁ、天神様の所の娘さんやないの」

 自分のことを指しているであろう言葉に、歩みを止める。

 声の主には心当たりがあり、嫌な予感しかしなかったが無視するわけにもいかず、渋々声の主の方へ振り返った。


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