曇り空
「ごめんなさい」
いったい何度口にした言葉だろう。
アルコールを飲んでも素面のままでまるで酔えない、いつだったか缶チューハイごときに負けて大失態を犯した事だってあるいうのに、アルコールになれてしまった頭は冴え切ってなんて、ここまでくるとつまらない。
親友を好きになってしまった、よく聞くフレーズでよくあるシチュエーション、そしてテンプレートだと幸せになれる。
でも、そういうオーソドックスな展開に登場する人物は決まって、天然で清廉潔白で自分の幸せより相手の幸せを願うような、砂糖菓子のようなカワイイ女の子と決まっていて、自分のようなひねくれた人間はせいぜい当て馬キャラがお似合いだろう。
「あーくそっ」
また酒を取り出す、ひとりで飲むのは虚しくて空しくて、頭は冴えてくる。
気分転換にと、室外機置き場となっているベランダに出て外を見る、住宅街から少し離れた我が家は車通りも少なく、静かすぎる空気が少し痛かった。でも、冷たい風が頬をなでる感覚は心地よく少し酔いが回りそうだった。
「あ、タバコ切れてる」
ポケットの中にある箱は空っぽで舌打ちをしながらゴミ箱に投げる。思いのほか綺麗に入って乾いた笑みが落ちてきた。
仕方なく、少しぬるくなったアルコールを一気に喉に流し込む。こぼれそうになった泣き言を見なかった事にするように、涙も見なかったことにするように。
「しかも曇りかよ…ついてねーな」
ため息を出して上を見る。
田舎の特権である満点の星空も雲があったら見えないのは当たり前で、わけもなく切なくなった。
恋なんてするもんじゃない、それは学生の頃から自分に言い聞かせてきた言葉だった。初恋は実らず、初めての彼氏とは半年も経たず別れセックスもキスもしなかった。その次の彼は全身で愛を囁くこともなく、今思えばどこかお互い一方通行の恋のようなきがする。キスもセックスもこの時に学んだがなんだか儀式のような、通過儀礼のような気がして楽しくなかった。
「セックスは楽しむものよ」なんて人は言うが、私は一度も楽しくなかった。
何の因果か夜の仕事を選びそこで数年働き、数え切れないくらいキスをした。が、どれもつまらない、少女漫画ような痺れるキスも腰が砕けるような甘いキスも知らない。
セックスだって気持ちいいものではあるが、楽しくはなかった。満たさせることは一度も無く、給料を受け取る度に虚しはさは増えていくようだった。
「えっち、したいなあ」
仕事でやるような相手重視の義務的なセックスではなく、思い思われお互いに求め合うようなセックスがしたい。
気持ちよくなるためだけではなく、満たされるような下手くそなキスが欲しい。
儀式的な業務的な人肌なんてもうたくさんだった、寒いからなんていう理由で抱きつかれたかった。
空っぽの自分に向けられる愛の言葉より、貶されながらも愛されたい。
その相手は全て親友で、私の唯一汚い部分を知っている人。あの人に抱かれて愛されて一緒に朝を迎えたい。
それがたとえ叶わぬ願いだとしても、馬鹿げた夢だとしても、縋らずにはいられないのだ。
ああ、もしかしたら本当に夢なのかもしれない。
だって夢は、儚いものだから。
褪めてしまうものだから。
頬を伝う微温い感覚に目をそらしてまたアルコールをあおるのだった。
願わくばこの思いが
なくなりますように。
END
こんちには。幸花です。
むかしむかし、好きだった人は喫煙者でした。
近所のかっこいいお兄さん。
でも今思えば、あれはあこがれが強かった気がします。
いつだって人は自分に無い物に惹かれるものですね。