表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Black*Hero  作者: 沙槻
第2幕 第2章
57/58

*2.もう、お引き取り下さい ②


「ビックリするくらい物騒だな、お前。そういうこと笑って言うなよ」


 保健室で、涼都は舌打ちと共に文句を言った。それに藍田は不満そうに唇をとがらせる。


「えー……僕は昔見たホラー映画の話をしただけですよ。たまたま状況が似てたから、思い出しちゃって」


 ならばなおさら今、その似た状況下で言う必要はないだろう。


(逃げ切ったと思った小部屋で安心した瞬間、上からゾンビがぶら下がって出てくるとかさ)


 『その後、捕まって喰いちぎられるんですよね』なんて続けられたら、あり得そうで全く笑うに笑えないではないか。

 思わず天井を見てしまう涼都である。


 よし、異常なし。


 なんとなく安心して涼都は横並びのベットに近づいた。五つあるベットの内、膨らんでいるのは奥から二番目の一つだけである。


「おーい。速水、サッサと起きろって!」


 大声で呼びかけたのに、全く返事がない。この状況でこれだけ深く寝ていられるのだから、ある意味すごい。


「起きろって! 具合悪いのはわかるけど今はそういう場合じゃねぇから!」

「…………」


 はい、返事なし。完璧に無視。こうなったら、仕方ない。


「速水!」


 涼都は強行手段で、思いっきり布団をめくった。その途端、見えたのは──────まるで標本のような見事な、骨。


「うわぁぁああぁぁあぁあ!」


 その姿に、叫びながらタックルのように、勢いよく藍田が涼都に抱きついてくる。その衝撃によろめきつつ、涼都は唖然とした。


「速水、お前……いつの間に、こんな骨に」

「違いますよ! これアンデッ──とぉ!」


 藍田の語尾がはね上がった。涼都が藍田の頭を、無理やり下に押さえつけたからである。その、藍田の頭があった場所をアンデットの腕が通過した。


「速水じゃねぇじゃんか! 速水どこだよ、速水」


 言いながら、涼都は思いっきり頭部に踵落としをお見舞いする。鈍い音を立てて、アンデットの頭部が粉砕した。

 床に崩れた骨に、涼都はため息をつく。


「布団めくったら骨とか、まるっきりホラー映画じゃねぇか。お前のせいだぞ、藍……」


 振り返って、涼都は口を閉ざした。

 先ほど、アンデットの攻撃を避ける時に、藍田の頭をつかんで下に押し付けた、それがいけなかったんだろう。ベットサイドのどこかに頭をぶつけて、藍田は気絶していた。


「…………」


 とりあえず、だ。

 涼都は、藍田をさっきまでアンデットが寝ていたベットに運んで布団をかけると、何事もなかったような顔をした。


「まぁこれで……いや、何か足りないな」


 思いたって、涼都は保健室の鉛筆立てからマジックを取ると、藍田のまぶたに目を書く。


「何か違うな、こうか」


 ついでにヒゲも足して、その右頬に大きく『ごめんね。テヘッ』と書いておく。


「…………」


 杞憂に後でぶん殴られそうだな、これ。


 考えた末に、額に魔除けの魔方陣を書いておいた。これで文句は言われまい。

 大きく頷いて、涼都は一人嘆息した。


「つーか、速水はどこ行っちまったんだ?」


 唯一膨らんでいたベットにはアンデットが寝ていたし、保健室には他に人間が隠れられそうな場所はない。

 考えられるのは、アンデットに襲われて保健室を逃げ出したというのが妥当なところだろう。


(ここを出たんなら、もう見回りの教師に保護されてるよな)


 実際、涼都はここに来る途中で私服やスーツの教師らしき人間を、何人か見かけている。もし速水がノーマークだった保健室を出たのなら、高い可能性で教師に会って保護されているはずだ。


「完全に行き違いだな」


 舌打ちして涼都は近くのベットに腰かけた。さすがに、どうしたものかと思案顔で腕を組む。今さら教室に戻るつもりはないし、東の手伝いに戻るつもりもない。


(なら、騒ぎが収まるまでここで待つか?)


 ずっと? ここで?────────無理だ。ただでさえ今、ヒマを感じつつあるのに、そんなことをしたら、ヒマ過ぎて寝てしまう。

 さすがにこの騒ぎの中、保健室で寝るのはマズいだろう。いや、藍田はおいといて。


(ん? というか、藍田といえば)


 ふと思い出して、涼都は窓の外を見た。雨は相変わらず降り注いで、窓ガラスを休まず叩いている。その雨の中、アンデットに囲まれていたヤツの姿が脳裏に浮かんだ。


「杞憂、どうしたんだろうな」


 雨の中、杞憂はアンデット三体とにらみ合いをしていた。あれから魔術で攻撃を仕掛けたのは間違いない。

 だが、予想外にはね返ってきた魔術を、杞憂は上手く避けられたんだろうか?


(もし当たっていたとしたら)


 本来、負うはずのない怪我を負って戦う灰宮の背中を思い出す。


「…………」


 しばしの沈黙の後、舌打ちして涼都は立ち上がった。


「ま、ヒマだしな」


 仕方ないから、杞憂の様子でも見てこよう。行方知れずの速水も気になることだし。


「あくまでも速水を探すついでにチラッとな。見るだけだ。ちょっと、見るだけ」


 何故かそう自分に言い聞かせながら、テイクアウトした保健室のマジックで扉に魔除けの魔方陣を描く。よし、完璧な出来栄えだ。


(これならアンデットどころか、上級魔族でも保健室に入ることは出来ないな)


 さすが俺様。

 マジックを適当にポケットに突っ込んで、満足した涼都は廊下を歩き出す。遠くの方で悲鳴や破壊音が聞こえてくるが、近くにアンデットはいないようだ。


「外は相変わらず雨だな」


 一階の廊下、すぐ近くの窓を開けて涼都はふと思い出した。


『今日は、無闇に外へ出ない方がいい』


 そう言ったのは確かミッシェルだったか。


 カラン―…


「あ?」


 微かに響いた音に、涼都は眉を寄せて振り返る。


(何だ?)


 涼都は足を止めて、けげんな表情で耳を澄ませた。


 カラカラ、からん―…


 やはり、音がする。


「何の音だ?」


 重さはないが、硬質な印象の音である。涼都は雨のせいで薄暗くなった廊下の奥を、黙って凝視した。


 カラ からから カラン から


 不思議と、その音は外の雨音に消えることなく、むしろ響いている。廊下に反響しているのか、いや、それ以前に、だんだんと音がクリアに聞こえてきている気さえする。


 からからん カラカラ からからからからから……


「つか……この音、まるで」


 そう、まるで────────何かを、引きずっているような。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ