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Black*Hero  作者: 沙槻
序幕 第2章
11/58

*2.桜華魔術学園 ③

 一番端の教室は思ったより広く、黒板に貼ってある座席表を見て、生徒達は席についていく。並びは出席順で、左端の列から男子が座っていった。涼都の出席番号は17だったので、だいぶ後の方に座われた、のはいいのだが。


(隣がこいつかよ)


 無言で微笑んでくる東を、涼都はガン無視した。出席順に座って隣になるなんて、天文学的数値に等しい。嫌な奇跡もあったものだ。

 そう涼都がうんざりしていると、後方の扉が開いた。端にある教室なので、ドアは後方に一つしかない。そのため、自然と首を後ろにひねる形になる。

 入ってきたの二人の教師で、壇上に上がった片方に、涼都は「あ」と小さく声を上げた。

 左隣の東に視線を向けると、彼も驚いたように涼都を見る。


 二人の内の片方。

 180cm後半程の長身に、ボサボサ頭で黒縁メガネをかけた青年は、まさしく先ほどの電車で杞憂の子分に携帯を投げつけた張本人だったのだ。

 あの時は制服を来て身長も低めで若かったが、間違いない。おそらく若返りの魔術でもしていたのだろう青年は、タバコ片手に黒板を書き始めた。


(この禁煙に厳しい世の中で、タバコを教室で吸うか。ある意味、勇者だな)


 しかし、もう片方もまたどうかと思う男子教師だった。

 背はボサボサ頭の方が異常に高いので並ぶと低く見えるが、おそらく170後半はあるのだろう。金髪にピアスがまぶしく輝いていて、ここの学園の魔術教師の規定について知りたくなった。


 教師二人とも『え、教師なの?』という大学生でも通じそうな青年だが、より金髪の方が若い。大学を出たばかりの新社会人なのではないだろうか。

 金髪が似合う目鼻立ちがはっきりした顔で、細めのダメージジーンズにシャツという、思いっきり私服でもおかしく見えないのが不思議な青年である。しかも、腰にはチェーンがぶら下がっている。

 服装に関しては、ボサボサ頭もスラックスにTシャツなので、規定はないのかもしれない――おかしな学校だ。


 担任  荻村おぎむら きょう

 副担任 鳴海なるみ 壱也いちや


 ボサボサ頭が、角張った文字で黒板のど真ん中に書き、タバコをくわえながら器用に話す。


「めんどくさいが、簡単に自己紹介したいと思う」


 今めんどくさいっつったぞ、こいつ。


「俺は、このクラスを担任する荻村京だ。教科は錬金と魔術。魔術は危険度が高いから、副担任の鳴海と担当する。色々めんどいから、魔術だけは暴走させるなよ」


 教科としては、魔術の仕組みを学ぶ魔学、魔法薬を調合する薬草学、魔術師の歴史を知る歴史、物体を精製する錬金術、魔術のこもった武器を使った武術、そして魔術だ。魔術は攻撃魔術や防御魔術、召喚魔術が主である。


 ざっくりと説明し終えると、荻村はもうこれでいいだろうと言わんばかりに、黒板脇のイスにどっかりと腰を下ろした。入れ替わりに、先ほどの金髪ピアス先生が、外見とは裏腹の爽やかな人なつっこい笑みを浮かべた。


「俺は副担任の鳴海なるみ 壱也いちやだ。担当する教科は武術と魔術。よろしくな」


 少し長めで、外ハネぎみの金髪が日の光を受けて輝く。荻村とは反対に、実に爽やかで頼りになる兄貴的オーラの先生である。自己紹介は極めて軽いけど。

 荻村はイスに座りながらタバコの煙を吐き出し、言った。


「そういや、もう1つ2つ言うことあったわ」


 適当だな、おい。


「この学園の生徒証と教員証はIDカードなんだが。多分お前らも知ってると思うけど、カードは表向きは生徒証だが本当は魔術師、魔術師見習いの証明書だ。カードには、魔術師のレベルが一発でわかるように色がつけられている」


 そういえば、そんな制度があったような気もする。ちゃんと学校などの機関に所属し、魔術を扱う者として魔術協会に登録しなければいけないとかなんとか。


「まぁだいたい1年は1番下のクリア、見習いの透明がほとんどだろうが、たまに魔術がそれなりに使えるやつもいるんでな」


 言って、荻村はチラリとこっちを見た。涼都を見たのか東を見たのか、または両方見たのかはわからないが知らん顔をしておく。あとの説明は鳴海が引き継いだ。


「いきなりだけど、明日はそのカードを授与する儀式があるから。詳しい説明は明日な」


 儀式という単語に、涼都は目を細める。意味がいまいちよくわからない生徒からは、ざわめきが起きた。それを非難と荻村は受け取ったのか、嫌そうに顔をしかめる。


「いちいち審査する俺たち教師だって面倒なんだよ。本当無くなんねぇかな」


 その教師らしからぬ発言に、鳴海はハハハと軽く笑い流すだけだ。流していいのだろうか?


「とにかく、魔術は最初が肝心だ。がんばれよ」


 鳴海は爽やかに笑い、担任の荻村はタバコを窓の外へ放り投げ、一言。


「そういうことで、今日は終わり。明日は出席順に始めるから9時には教室に集まれ――来なかったら退学だからな」


 入学式の日に退学なんて言葉を聞いたのは、初めてだ。釘を刺すように物騒な単語を残したまま、荻村は鳴海を連れて教室を去る。生徒のざわめきの中、涼都だけは黙ってカバンを持ち上げた。とりあえず。


「部屋に帰って寝よう」



*─────────────────*



 私立だし、敷地面積からしてだいたいの予想はついていた。ついてはいたが、やはり寮はすごかった。

 高級ホテルのような大理石の入口から入って、受付で鍵をもらう。円柱の建物から翼が生えたような形で左右に寮の部屋が各階に連なり、円柱部分は天井までの吹き抜けで大浴場や食堂、売店、ホールなどの施設がそろっている。

 涼都の部屋は男子寮――翼の左側面――7階の715号室だ。


「さすが桜華。すっげぇな」


 白い壁にフローリングの床、ベットに冷蔵庫、簡易キッチン、クーラー、テレビ、パソコン、バスルームなんだって有りだ。どさりと下ろした荷物の傍ら、ドアの前で涼都は部屋の中を見回した。確かに、部屋は文句無しにいいのだが、1つばかり問題があった。


「なんっで、てめぇが隣なんだよ!」


 隣部屋、716号室が東の部屋だったのだ。東はそれに、しれっとした顔で笑う。


「いや、ほんと奇遇だね。何か縁でもあるのかな」


 そんな呪われた縁などいらない。


「そんな縁があるんなら、今すぐ断ち切りたいんだがな。だいたいお前は、何かと俺の横にいたけど友達いないのか? それとも、何か用があって……って何してんの?」


 涼都は呆れたような、うんざりした顔で東を見た。


「何って、見ての通りだよ」


 そう言う彼はなぜか当たり前のように、涼都の横を通り過ぎて部屋に上がり、イスに座って茶を飲みながら、そう言った。何度もいうが、俺の部屋で、だ。

 涼都は舌打ちして自分の部屋に上がり込む。


「ここ俺の部屋なんだけど」


 横に立って睨みつけると、東は笑ったまま茶を差し出した。


「人間、喉が渇いたら、お茶が飲みたいものだろ?」

「用がないんなら、今すぐそこの窓からヒモなしバンジーしてもらうぞ」


 受け取る気配すらない涼都に、東は軽く息をついて差し出したコップをテーブルに置く。


「やだなぁ。ちょっとした冗談だよ」


 人の部屋で勝手に茶を飲む行為のどこに、冗談の要素があるのか教えてほしい。しかし、涼都は追求しなかった。東の顔がいきなり真剣になったからだ。


「気をつけてね」


 東は残りの茶を飲み干してそう言った。


「……あ?」


 涼都はどうにも要領得ない言葉に聞き返す。東は珍しく真剣な顔で淡々と続けた。


「俺の従兄弟いとこがこの学園にいるんだけど、いつもいい話を聞かないんだよ。特にテストや儀式なんかはね」

「あぁ」


 なるほど、と涼都はピンときた。四大一門となると、当然テストの成績はいいだろう。こういう群を抜いて実力のあるヤツというのは実に叩かれやすい。東はため息混じりに言った。


「出る杭は打たれる。先輩、同級生、場合によっては教師から嫉妬のあまり潰された設楽の者も俺はたくさん知っている。それに君はあの杞憂を魔術で圧倒した。つまり杞憂からも恨みを買っている――明日の儀式は、用心しておいた方がいい」


 やけに真剣な言葉に、涼都は最初無表情で聞いていた、が。ふっと口元をつり上げる。


「俺様が、嫉妬なんかで潰れるタマかよ」


 その言葉に、東はふと笑うと席を立って、言い残した。


「君のその自信、嫌いじゃないよ。せいぜい呪いでもかけられないように気をつけてね」


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