産声(?)
ボロボロのローブを身にまといながら、
一人の男がゆったりとした足取りで町で一番安いと噂される店へと向かう。
いざ着いて店を見上げればなるほど、安いと噂されそうな
寂れた武器屋が目に入る。
男としては安い武器が手に入ればいいので、何の感情も抱かず多少錆が目立つ
扉を開け、中に入った。
「いらっしゃいませ。」
出迎えたのはきちっと白い布の服を着た、ピンクのエプロン姿のこれまた肌の白い人間だっ…
いや、竜人、か?
よくよく見ると、竜人にしかない特徴的な角が申し訳程度に頭から生えている。
竜人はその種族に恥じない身体能力、魔力がある。
その為か、騎士等の職業では見かけるのだが…武器屋で店員をしているとは。
男が目を見開いて店員の男を見ていると、店員はにこやかな笑顔で再度、
「いらっしゃいませ、お客様」
と言ってきた。
「あ、あぁ…早速で悪いんだが、この店で一番お勧めの長剣がほしい。」
高いですよ?などと笑いながら奥へと引っ込んでいった竜人を見送り、
男はふぅ、とため息を一つはいた。
(長年冒険者をしているが…初めてだな。こんな経験。)
騎士はその職業柄、城の警備に回され、その為か竜人もなかなかお目にかかれない。
冒険者にもいるにはいるが、皆AランクやBランクばかり。
最高ランクに近い彼ら彼女らは激戦区に行っているので、城周辺で細々と稼ぎ、
ようやくCランクになれた自分にはまず会えない話であった。
しかし、Cランクでも冒険者の中では一人前の部類に入る。
ギルドに入りたての最低ランクであるFランクの頃は、Cランクになるのを夢見たほどだ。
(まぁ…それでも20年かかったし、Cランクになっても結局奮発できるのは、
安い武器屋で一番良いものだし、な…)
男は竜人の店員を見てから、自分の過去を振り返り、どんどん思考がそれていくのだが、
この寂れた武器屋に訪れる者など居ないため、止める者などいなかった。
徐々に思考が自分のモテない理由にまで発展する間近まで来た頃、ようやく
あの店員が来た。
「お待たせしました。当店自慢の剣です。」
そう言いながら差し出された剣は、とてもじゃないがこんな店で手に入る様な物ではない、
素人目に見ても素晴らしい白く輝く長剣だった。
「……」
さぞ高いだろうと断りの一言を言う前に店員から、
「お値段は50万Gとなります。」
と言われた…は!?
「こんな素晴らしい剣がたった50万だと!?普通は安くても300万はするぞ!?」
「ええまぁ…これが私共の…いえ、300万でお売りいたしましょうか?」
「!?いや、50万で頼む…」
「あはは、冗談ですよ。はい、確かに50万いただきました。」
っく…恥じを晒した…
だが、その恥ずかしさをも一瞬にして吹き飛ばすほど、
やはり差し出された剣は美しく、力強く感じた。
「…」
「…お客様?」
「は!?…あ、あぁ、すまん。ついな。」
「そこまで魅入る程気に入って頂けて幸いです。」
「あぁ、気に入った。これは何の素材だ?」
ここまで白く透き通った刃にするのは、さぞ良い素材を使ったのだろう。
「いえいえ、全然大した物ではありませんよ。ですのでそのお値段ですし。」
「しかし…むぅ…」
納得がいかない。一般の剣よりは確かに10倍はするし高いんだが、
それでも安い。安すぎる…
…気になる!
「実はな…今後この店を贔屓にしようと思うのだが…」
「それはそれは。ありがとうございます。」
「うむ。ついてはだな…安い理由が…」
「知りたいと?」
「そうだ。」
「しかしですねぇ…」
店員も困り顔だ。やはり秘密か…仕方がない。
「…そうか。悪かった。無理に聞こうとは思わない。また来る。」
「あぁいえ。別段話しても困りませんよ?だって愛のこもった私の竜鱗が素材ですから。
ただ、ご贔屓にして下さる程の話ではないな、と…」
あぁなるほど。確かに彼の肌はとても白い。雪の様だ。そんな彼の鱗を使ったならば、
この剣の美しい白さがわかる…さらに安いのも…
「っておい!!これはお前の鱗が素材かよ!!てか愛がこもってるとかおいぃ!!!」
「あはは。結構素直な方なんですね。そんな照れないでくださいよー」
「照れるかあほー!!!!」
スランプ武器屋。寂れた見た目ではあるが、一か月と満たないまだまだ開店したばかりの武器屋。
そんな店で、初めて人の声が聞こえた瞬間だった
のんびりペースで投稿。