74,妹と話し合い
二月三日、節分。絆もそろそろ入試だなとか考えていたら本人がやって来た。
「この前の話について、話したいことがあるんだけど」
「ああ……家がどうとかっていう?」
「とりあえず家の中、入っていい?」
「もちろんだよ」
「あーば、ばあばば?」
「シグ、絆が来たからご挨拶して」
「あば!」
「……宇宙人も相変わらずなのね。こんにちは」
「あばば、あば!」
「さ、そこのソファにでも座ってて。寒かったよね、温かいココアでも持ってくるよ」
「え」
「それともコーヒーがよかった?」
「いやそうじゃなくて、大丈夫。いらない」
「あ、そう? じゃあ話そうか」
「……十二月頃に話した一緒に住む、ってやつ。あれ、やっぱりお願いしてもいい?」
「いいよ、もちろん。それなら僕はいつ出ていこうか? 高校入試の合格発表の後でいい?」
「出ていかなくってもいいから」
「え、でも嫌でしょ? 僕はどうせ高校卒業したらここを出ていくつもりなんだしさ。それに、一年間も絆に嫌な思いをさせるわけにはいかないよ」
「っだから……!」
「あ、でもそうしたら絆が一人暮らしをすることになるのか。うーん、それはちょっとなぁ……あ、なら叔母さんたちもここで暮らせば……」
「……自分が一緒に住むっていう選択肢はないの?」
「絆の不快感と天秤にかけると……まあ、最後の手段かな」
「……ほんっと、お兄ちゃんの考えることが分からない」
「僕なんて単純だよ。絆が幸せならそれでいいんだから。……で、どうしよっか? 叔母さんたちとも話し合った方がいいよね」
「それなら必要ない。もう話してきた」
「え?」
「あの人たちはお兄ちゃんを追い出そうとしてたけど、私が説得した。『高校の間くらいは一緒に住まわせて』って」
「……それは予想外だね。どういうこと?」
「そのままよ。まだ高校生なのに一人暮しをしているこの状況もおかしいのに、追い出すなんてできないわよ」
「絆はそれでいいの?」
「私が説得したって言ってるじゃない」
「んーまあ、絆がいいって言うなら。僕が高校卒業したらどうする?」
「その時は……お兄ちゃんの好きなようにして」
「じゃあ、絆がいいならそのまま住まわせてもらって良い? 絆に一人暮しなんてさせられないからね」
「……うん、いいよ」
「……ダメ元だったんだけど、いいんだ。優しいね」
「優しくない」
「優しいよ。少なくとも僕よりは優しい」
「……はあ。お兄ちゃんって、本っ当に馬鹿よね……」
「え?」
「なんでもない。じゃあ、また連絡する。今日は帰るわ」
「駅まで送るよ」
「いらない」
「大丈夫?」
「大丈夫」
「それなら……じゃあ、ばいばい」
「……ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「私、お兄ちゃんのことが苦手よ。怖い」
「うん」
「でも、嘘を吐いたことを恨んではいないから。まあ、私がお兄ちゃんを恨めるようなことじゃないし、むしろお兄ちゃんが私を恨んでいてもおかしくないんだけど……」
「僕は絆のことが大切だよ。恨むわけがない」
「……」
「絆、言ったよね? 僕は絆が幸せならそれでいいんだってさ。だから、いいんだよ」
「……ごめんなさい」
「どうして絆が謝る必要があるの?」
「甘えてばかりでごめんなさい。逆恨みできつく当たってしまってごめんなさい。お兄ちゃんを辛い目に会わせてしまってごめんなさい。それから……」
「……今の状況を気にしてるの? 僕が好きでやってることなんだから、気にしなくてもいいのに」
「でも、本当なら私がお兄ちゃんの立場に」
「絆」
「っ、」
「いいんだよ、これで上手くいってるんだから。僕は絆のお兄ちゃんなんだから、かわいい妹を守らせてよ」
「……ごめんね。帰る」
「うん」
「……あーば、あばば……」
「シグ。静かにしてて偉かったね」
「あばばば、ばあばば? あば……」
「ん? えっと、何?」
「あーば、ばあばば?」
「……絆とのことについて話してほしい、のかな? この流れは」
「あば」
「そうだね……今度から一緒に住むわけだし、いい機会だから話そうかな? といってもそんなに複雑な話では……ああ、やっぱりちょっと複雑かも。原因は僕、自業自得か」
「あーば?」
「うん、話すよ」
そんなに昔ではないけど昔々、あるところに兄妹がいましたとさ。




