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60,別れ

 僕はいつの間にかシグの父親(偽)になっていたらしい。


「うわー、どうしよう。……シグ、王様は君の親戚らしいから、今度から王様を父親として」

「あばばば!」

「駄目か……」


 ただの同居人ならまだしも、父親か……。

 個人的に、家族っていうのは結構特別なものだと思っている。世界は家族とその他(自分を含む)に分けられるとも思う。僕の場合で言えば、妹である絆と僕を含むその他大勢、みたいに。

 え、父親と母親? あれはどうでもいい。あの人達が僕のことを自分達の子供だと思っていなかったから、僕もあの人達のことを親だとは思っていない。


「……変なこと思い出しちゃった」

「あば? あばば?」

「なんでもないよ」


 うーん、シグの説得なんて僕には無理な気がしてきた。


「ねえドランくん。悪いけど僕には無理っぽい」

「む、何故だ」

「シグ、僕が言っても聞く気ないっぽいからさ。誰が言っても同じじゃないかな」

「……しかし、それでは……」

「だからさ、君達で頑張ってよ。一年くらい言い続けたら説得できるんじゃない?」


 洗脳とも言うけど。


「……仕方ない、か。出来れば穏便に済ませたかったのだが、少し強引な手段に出るとしよう。ワタナベ、協力ありがとう。無理なことを言って悪かった」

「いや、別にいいよ」

「あ、あーば!? あばば、あばばば!」

「シグ、別に悪いことばかりじゃないから、安心しなさい。死ぬわけでもないし」

「あーば……」

「たまに僕のところに遊びに来てもいいから」

「あば……あばばば……」


 シグがそのつぶらな瞳をぎゅっと閉じたかと思うと、ポロポロと何かがこぼれ落ちてきた。

 ……涙?


「宇宙人って泣けるんだ。そういえば、夏休みに異世界に行って僕が死にそうになったときも泣いてたっけ? あの時は気にしてなかったけど」

「あーば、あばばー……!」

「……」


 泣き顔はあまり見たくない。過去の嫌な記憶が思い浮かぶ。

 無味無臭な人生を送ってきた僕の中で、唯一色がついている記憶。後悔という色だけど。……なんちゃって。


「シグ、泣かないで。お願いだから」

「あばばばー!」

「あー……ドランくん、パス。後はお願い」

「あ、ああ。……良いのか?」

「何が?」


 何のことだろうか。


「……いや、良いならいいんだが」

「じゃあそろそろ、僕を元の場所に帰してくれる?」

「ああ、分かった」

「シグ、ばいばい」

「あーば……あーば……あばばば……」


 引き留めている気がするけど、無視。僕、シグの言葉なんか分かりませーん。


「では、いくぞ」

「うん。……あ、待って。最後に質問」

「ん、なんだ?」

「シグって何で僕のところに来たわけ? いや僕のところにというか、地球にというか」


 探しだして連れ戻すくらいなら、最初からちゃんと手元に置いておけば良いのに。


「……」


 ドランくんは黙った。心なしか剣呑な雰囲気になった気がする。あれ、聞いちゃまずいことだっただろうか。


「まあいいや。どうでも」

「……そうか」

「じゃあ、もう一個だけ質問」

「……」

「さっき、強引な手段に出るとかなんとか言ってたけど、具体的にはどうするのかな?」


 そう聞いた瞬間、ドランくんの体が光りだした。もうすっかりお馴染みになってしまった、宇宙人パワーの前兆だ。

 言えないほどの手段である、ということか。

 ……ふむ。


「……忠告です。もしかしたら勇者が君達を倒しにやって来るかもしれません。その時は無駄な抵抗はせず、しかしそれなりに派手に散っていってください。あ、シグは保護を求めてね」


 もしかしたら、相澤くんがもう一度召喚されてしまうかもしれない。その場合、相澤くんはお人好しなので、きっと断りきれずに勇者として戦うことを決意するだろう。昼間も流されかけていたし。

 出来ることなら、そうなってほしい。なんとなくだけど。


「あーば、あーば!」

「ばいばい。縁があったらまた会おうね」


 目の前が真っ白に染まる。世界を渡る感覚。浮遊感。

 ……シグ、結局泣き止まなかったな。




 帰ってきた。暖房と照明がついたままの見慣れた部屋が視界に映った。


「ただいま。…………あ、そうだ。相澤くんに電話しよう。……もしもし、相澤くん? 僕だけど」

「渡邊? 電話なんて珍しいな。どうかしたか」

「ちょっと頼みごと。良いかな?」

「へえ、こりゃまた珍しい。いいぜ、言ってみろよ」

「もしも勇者になるんだったら、シグのことをお願いね。他は倒してもいいけど」

「……は? 勇者って、昼間のことか? おい、何言って……え、うわっ、なんでまた……っ!?」

「相澤くん?」

「う、うわぁああああ!」

「もしもーし。相澤くーん」

「……」

「駄目だ、返事がない。もしかして、本当に召喚されたのかな。だったら、ちゃんと僕の頼みを聞いてくれたらいいな」


 僕は相澤くんに頼った。シグのことは、僕に出来ることはない。勇者の相澤くんにお任せしよう。


「……」 


 僕は、僕の問題をどうにか切り抜けよう。


 僕とシグは同居を解消した。


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