59,説得
さて、説得と言っても何をしたらいいのだろうか。今までの人生、誰かに何かを説得することなんてなかったからよく分からない。
「ねえシグ。今度からは仲間と一緒に」
「あばばば! あばばばー!」
「……シグ、もう僕と一緒に暮らすのは無」
「あばばばー! あーば、あばば!」
「……せめて最後まで言わせてよ」
聞く耳を持ってくれない。困ったな……。
「というか、何でそんなに嫌がってるの?」
「あば?」
「せっかく仲間が見つかったのに、そんなに拒否することないじゃないか。僕と一緒にいるよりかは良いと思うんだけど」
「あばばば……あばばば! あーば、あば、あばば! あばば!」
「えーと? ……ドランくん、翻訳してくれる?」
シグが何かを訴えているようだけど、肝心のその内容が分からなければどうしようもない。
「分かった。……『一緒にいたい。離れたくない』概ねこういうことを言っている」
「……へえ?」
ほうほう。なかなか面白いことを言うな。
僕はシグを抱き抱えて目線を合わせた。
「シグ。人を見る目を養った方がいいと思うよ」
「あば?」
「そのためにも仲間と一緒にここで生きた方がいいよ」
「あばばば!」
「……はあ。なんでそんなに頑ななのかな? 僕みたいなのと一緒にいても、何か得するわけでもないだろうに」
そう言うと、シグは否定するようにぶんぶんと体を揺らした。プルプルしててゼリーみたいだ、と場違いだけど思う。
「あーば、あば! あーばーば、あーば、あば! あばば!」
「ドランくん、翻訳」
「『パパといる。自分にとって大切な家族。一緒にいたい』」
「……パパ?」
誰のことだ? 首をかしげる。
「あーば!」
「君のことらしいな」
「……え、何で? 僕がシグのパパ、つまり父親? どういうこと?」
待った。これは本当に意味が分からない。どうしてそうなるんだ。
「あーば、あーばーば、ばあばば。あばば、あーば!」
「『自分を受け入れて、名前をつけてくれた。だからパパ』だそうだ。そうか、どうりで……」
「そんなことで? 普通のことじゃないの? 受け入れるって、特にそんなつもりもないし、名前もなんとなくつけただけだし」
「それでも、この子は嬉しいと思ったんだろう」
「あば!」
シグはドランくんの言葉に頷いた。
これは予想外だ。かなりの誤算である。まさかそんな風に思われていただなんて。
あれくらいのことで父と慕うだなんて、宇宙人は随分と感情が豊からしい。それともシグが特別なのか。
「うわー……え、どうしよう。僕はそれに対して何かコメントをした方がいいの?」
「しなくてもいいのでは?」
「あば」
「ああそう。なら別にいいか……」
良かった。父親として何か言えと言われたらどうしようかと思った。
「えーと、それで? だからシグは僕と離れたくないと、そういうこと?」
「あば!」
「……これは、うーん」
いよいよ本格的にどうしたらいいのか分からなくなってしまった。




