50,相談と事情
冷え切った部屋の暖房を点け、絆をもてなした。この家に客が来るのは久しぶりだ。まあ絆は客と言っていいのか疑問だけど。
「で? 話って何?」
「……その前に、そのシグ? だっけ? にも聞かせるの?」
「あばば?」
「あれ、駄目だった? なら部屋の外に出ててもらうけど」
「別にいいわ。聞かれてもどうってことのない内容だし、その子にも無関係ではないから」
「え? シグにも関係あるの?」
「……その、えっと……私、今年中学三年生で、つまりは受験生なんだけど……」
「うん。それは知ってる。それで?」
「志望校には、このまま順調にいけば受かると思うの」
「良かったね」
「でも、叔母さん達の家からだと通うには遠くて、それで……」
「ああ、高校に受かったらここに住みたいってこと? たしかに、叔母さんの家からだと駅まで遠いもんね」
「ええ。……お願いできるかしら」
「もちろんいいよ。かわいい妹のためだからね、お安いご用さ」
「じゃあ……!」
「いつここを出ていけばいい? 三月には引っ越したほうがいいよね」
「……は?」
「……あば?」
「ん? そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して、どうかしたの?」
「あの、何の話? 引っ越しって?」
「だって、絆がここに住むなら僕は出て行った方がいいでしょ? 僕と一緒に住みたくなんてなくて、だから引越しのお願いをするために嫌々ながらも来たんだよね」
「……はあ!?」
「あーば! あばばば!?」
「あ、シグはここに住ませてあげてくれない? 僕らの問題でここから追い出すのは可哀想だし」
「私は! ここで、一緒に! 住ませてもらえないかを聞きに来たの!」
「え? そうなの? 僕はてっきり……」
「そんなわけないじゃない……。なんでそうなるのよ?」
「だって絆、僕のこと嫌いでしょ?」
「……っ。そんな、こと、ないわよ」
「無理しなくてもいいよ。嘘を吐くなら悟られないように、でしょ」
「……」
「……あ、あばば……?」
「シグは気にしなくてもいいよ。それで、出て行ったほうがいい?」
「……ちょっと、待って。一回この話はなかったことにしてくれる? もう一回考えた後で、改めて話をするから……」
「うん。分かった」
「……帰る」
「もう暗いから駅まで送って行くよ」
「いい。大丈夫よ」
「そう? なら気をつけてね」
「………………私、お兄ちゃんのこと、苦手よ」
「うん。だろうね」
「話してると、疲れるの。……不安になる」
「……うん。ごめんね」
「謝る必要はないわ、こっちの気持ちの問題だから」
「それでも、一応言っておくよ。ごめんね」
「一応ってところが本当にお兄ちゃんらしいわね。……じゃあ、ばいばい」
「うん。ばいばい」
「……あーば? あば、ばばば……?」
「ちょっと、複雑な事情があってね。それのせいで僕たち兄妹はこんな状態なんだよ」
「あばば……」
「言っちゃえば僕らは血が半分しか繋がってないってだけなんだけど、それを僕がちょっとこじらせちゃってね……。ま、機会があれば話すよ」
「あ、あば……?」
家庭の事情は面倒だ。




