29,食費
結局、僕らはそのままメリアさんの家に泊まることになった。
「本当にいいんですかー? 不意をついてナイフでグサッ、とかあるかもしれませんよー?」
「するんですか?」
「しませんけどー……。なんでそんなにあっさりとしてるんですかねー?」
いやあ、だって。
「やっぱり、土の上よりもベッドの上で寝たいじゃないですか」
疲れたからというのもある。
メリアさんは口をポカンと開けたあと、呆れたようにため息をついた。
「……そうですかー。ところで貴方、図太すぎませんかー?」
「そうですね、よく言われます」
「あば、あばば……」
確かに繊細というわけではないけど、図太いわけでもないと思うんだけど。
「さてさて、着きましたよー。私の家でーす」
「……おお。魔女の家、って感じだな」
「あばば!」
家というより、小屋の方が正しい気がする。
少し拓けた場所には、玄関に何かの動物の骨が飾ってある小屋が建っていた。
「なんですか、あの骨」
「魔除けですよー。ほら、このネックレスも同じもので作られてるんですー」
「へえ」
「万が一にも呪いがこっちに返ってこないように頑張ってるんですー」
……さっきから思っていたのだが。そんな対策をしなければならないほど危険なのに、なぜ呪い屋なんていう仕事をしているのだろうか。
「みんな、ただいまー」
「グア! グア!」
「ミュー、ミュー?」
「この人たちはお客様ですよー。襲わないでくださいねー」
「クルルルル!」
「ギャース!」
騒々しい鳴き声。小屋の中には見たこともないたくさんの動物たちがいた。こんな小さな小屋に、こんな数がいたのか?
「……というか、広い?」
「あば?」
見た目より大分広い。何かの魔法を使っているのだろうか。
そしてあれらの動物たちは何なんだ?
「この子たちは私の使い魔ですー」
「え、全部? ……見たところ、十匹以上いる気がするんですけど」
「十二匹ですよー。ミュラを合わせて十三匹の使い魔がいるんですー」
なんとまあ。多すぎないか、これ。
「この子たちの食費を稼ぐためには、呪い屋が一番なんですよねー。野生の魔物とかを自分で狩ってる子はいいんですけど、そうじゃない子もいますからねー」
なるほど。そんな理由があったのか。
ということは、今でさえこんなに大変そうなのに、僕達を生け贄に更に新しい使い魔を契約しようとしていたのか。
「動物が好きなんですか?」
「動物というか、魔物というか……。使い魔が好きなんですよねー」
「使い魔、が?」
「だって、絶対服従ですよー? そういうのって心が踊りますよねー」
「あばっ!?」
いや、まったく踊らない。メリアさんはサディストなのだろうか。
「言っておきますけど、いじめるのが好きとか、そういう趣味ないですよー?」
「あ、そうなんですか。てっきり……」
「違いますよー。ただ、自分の思い通りに動いてくれるのが良いってだけですよー。痛いのは好きじゃないですしー」
最後におどけたように言って、メリアさんは台所に向かった。
「久しぶりのお客様なので、腕によりをかけて夕食を作っちゃいますねー」
そう言ってメリアさんは手を宙にかざしたかと思うと、どこからともなく肉が現れた。
「オークの肉が手に入ったので、今日はちょっぴり豪華ですよー」
「シャー!」
「ピーィ、ピーィ!」
「……お腹すいた」
「あーば、あばば。あばばーば」
シグは、仕方ないと言うように体をぷるぷると震わせた。
数十分後、夕食が出来上がった。新幹線で駅弁を食べてからなにも口にしていないので、いただきますと言ってがっつくように料理に手を伸ばした。
「このスープ美味しい。肉も意外とうまい。魔物の肉って食べれるんだね」
「あば! あばば!」
「……宇宙人の味はどうなんだろう」
「あ、あば!? あばばば!」
「冗談だよ」
「お口に合ったようで良かったですー」
メリアさんは、食べながら使い魔たちに生肉をあげている。
「ほーら、餌の時間ですよー。感謝しやがれー、この卑しい使い魔どもめー」
「……やっぱりサディスト?」
「あば?」
「冗談ですよー」
使い魔の食費は嵩む(場合による)。




