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27,罠

 体を揺さぶられる感覚。意識が浮上する。


「おはようございますー。ずいぶん熟睡してましたけどー、頭はすっきりしてますかー?」

「ああ……はい。今なら空を飛べるくらいすっきりしてますね」

「そうですかー」


 くすくす、と笑うメリアさん。

 あー、よく寝た。変な夢を見た気がするけど多分気のせいだろう。


「さてさて、私の仕事が一段落しましたし、そろそろ日も暮れるので家に行きましょうかー」

「はい。……仕事って何してるんですか?」


 見た感じ、僕と年齢は同じくらいだ。異世界に労働基準法はないのだろうか。


「呪い屋ですよー。なかなか儲かるんですよねー、この商売」


 呪いができる人ってあまり居ませんからねー、とさらりと言っているが、結構物騒な内容だ。


「……のろい、呪い。呪い屋、か」


 なるほど。異世界は丑の刻参りではなく、呪い屋に頼むのか。


「あーば。あばばば……」

「え、何?」


 なにか変なことでも言っただろうか。


「……まあいいや」

「えーと、よく分かりませんけど、とりあえず行きましょうかー。着いてきてくださーい」


 そういうと森の方に歩き出した。あれ、村とは逆方向だけど、大丈夫なのだろうか。


「私の家、森の中なんですよー。こんな商売してると、逆恨みされることも多くってー。だから森に罠を張って自衛してるんですよー。村の人達に迷惑かけるわけにもいきませんからねー」


 なるほど。一応筋は通っている。


「……うふふー。獲物だ獲物だー。捕まえて殺しちゃおーっと」


 なにかおかしなことをメリアさんが小さな声で呟いているような気もするが……まあいいや。


「あーば! あばば! あばばば!」

「……でもね、シグ。もしかしたら聞き間違いとか勘違いかも知れないじゃないか」

「あばばば! あばば、ばあばば! あばー!」

「うーん、じゃあ今日は野宿にする?」

「あば! あばば、ばあー!」

「ん。分かった」


 以上、小声で交わされた僕とシグの会話でした。

 仕方ない。メリアさんには悪いけど、謹んでお断りしよう。

 横にいるシグから目線をはずし、メリアさんの方を見る。いつの間にか少し距離が開いてしまっていたので、駆け寄りながら口を開いた。


「あの、メリアさん。やっぱりここまでお世話になるのも悪いので、僕達は野宿で……っ」

「あばば!?」


 と、いきなり矢が飛んできて僕の後ろにある木の幹に突き刺さった。ダンッという音が反響する。その音の中に、シュウウと異音が混じる。見ると、矢の突き刺さった木の幹がどんどん腐り落ちていた。


「これは……」

「あらー、外しちゃいましたかー。それ、猛毒の呪いをかけた矢ですー」


 くすくす、とさっきまでと変わらない笑みを浮かべるメリアさん。どこから取り出したのか、その手には弓が。

 彼女の笑顔に戦慄を覚え……たりはしない。ただ、漫画みたいだな、と思うだけだ。平和ボケしてるなあ、僕。


「あーば! あばばーば!」

「うふふー。逃げないでくださいねー? どうせ無駄ですからー」

「……やってみないと分からないじゃないですか」

「やらなくても分かりますよー。言ったでしょう? 森に罠を張って自衛しているって。自衛のためですから、結構致死性の高いやつ、あるんですよー」


 くすくす、くすくす。

 前方にはメリアさん。後方、どころか全方位には張り巡らされた罠。

 対して、僕らはなんの装備もない。荷物はリュックサック一つだけである程度は身軽、というのがせめてもの救いか。


「うふふー」

「あばば……!」

「……はあ」


 本日二回目の絶体絶命。異世界は物騒だ。


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