25,魔物
少女に連れられてきた村は、木造の家が主流のようだ。小さいが、のどかな雰囲気だ。
「はいはーい。到着でーす」
「へえ……ここが。……あ、動物がいる。なにあれ」
「ああ、ユーテルですかー? この村ではユーテルの毛織物が名産なんですよー。お一ついかがですかー?」
「いや、いりません」
「あらー、残念ですねー。欲しくなったらいつでも買ってくださいねー」
商魂たくましいな、この子。
ユーテル、というのは羊のようなモコモコで、鹿のような大きな角が生えた動物らしい。こういうのを見ると、異世界だなあという実感がわく。まあ、ぱっくり食べられたという右腕が元通りになっている時点で分かりきっていることなのだけど。
「……ところで、シグ? さっきから静かだけど、どうかした?」
「あ、あば!? あばば、あばばばば!」
「……んー、もしかして」
「あば……」
「京都観光を楽しみにしてたのに異世界に来ちゃったから、残念なの?」
「……あばば?」
うんうん、その気持ちは分かる。僕も残念だからね。まあ僕は異世界に行ってみたいという気持ちが少しばかりあったわけだからいいとしても、シグはそういうわけじゃないだろうし。
「僕が異世界に行ってみたいって言ったから、宇宙人パワーを使ったんだよね?」
「あ、あば。あばばー……あばばば!」
「ありがとうね、シグ。帰ったら今度はシグの行きたいところに行こうか」
「あーば!?」
「……うーん。なかなか愉快な会話ですねー。シグさんの言葉は私にも分かりませんけど、噛み合ってないことは分かりますよー」
何を言っているんだ。こんなに通じあっているというのに。
「あ、そういえば、お名前はなんて言うんですかー? 私はメリアといいますー。よろしくお願いしますねー」
「僕は渡邊です。こっちがシグ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「あば! あばばば!」
「ワタナベさんに、シグさんですねー。シグさんはワタナベさんのペットですかー? それとも使い魔?」
「使い魔?」
「あばば?」
これまたファンタジーな言葉が。メリアさんは少しきょとんとしながらも説明してくれた。
「知らないんですかー? 変わってますねー。使い魔っていうのは、言葉通り使役している魔物ですー。主人の命令は絶対服従! ペットとは違って、契約で縛り付けているんですよー」
「……縛り付ける」
魔物の人権……魔権? というのはないのだろうか。かわいそうに。どうでもいいけど。
「使い魔ではないですね。ペット……とも違うような……。うーん、居候?」
「居候? 本当に変わってますねー。ちなみに、私の使い魔はこの子ですよー。おいでー、ミュラ!」
メリアさんが声をあげると、どこからか一羽の鳥が飛んできた。鷹のような見た目だが、羽が異様に大きい。鋭い爪で傷つけないよう器用に伸ばされた腕にとまる。
「ゲンバルの亜種ですよー。普通のゲンバルと比べて羽が大きいでしょう?」
「そうですね」
普通のゲンバルとやらも知らないのだが、適当に答えておく。
「シグさんは何の魔物なんですかー? 見た目はスライムに似てますけど、ちょっと違いますよねー。色も銀色ですしー。スライムの亜種ですかー?」
「宇宙人です」
「あばば、あーばー」
「ウチュウジン? ……うーん、聞いたことないですねー」
「まあ、そうですよね」
「あばばー」
異世界には魔物はいても宇宙人はいないらしい。




