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第一話 ④

   4


 遂に来ました日曜日。

 昨日は良い意味でも悪い意味でも緊張して眠れなかった。眠さで若干朦朧とする頭に栄養を与えるため、食欲はないが朝食を多めに食べた。

 洗顔、歯磨き、髪の手入れを念入りに済ませ、できるだけ清楚な服を選ぶ。

 しゃれた服とか持ってないけど……これでいいのか?

 ヤ○ー知恵袋で質問してみるべきだろうか?

 などとあれこれ考えているうちに、出発の時間がやってきた。よくデートで男は女より早く到着するべきだと言うから、だいぶ早目の出発だ。

 いや。これは別にデートではないのだが……

「確か待ち合わせ場所は……駅前の大型本屋の児童書コーナーだな」

 これは君塚に指定された待ち合わせ場所だ。本屋での待ち合わせはかまわないのだが、どうして児童書コーナーなどと具体的な指定があるのだろうか?

「まぁ、広い本屋だし迷わないようにかな」

 少し不自然だと感じつつも勝手に正当化し、本屋への道を歩き始めた。


   5


「君塚……」

 児童書コーナーに着くと、君塚は既に来ていた。

 幼児用の椅子に腰を掛け、プリ○ュアの絵本を読んでいる。それも異常に堂々と。

 ちょっとは遠慮しろよ……

「あ、須藤君。おはよう。今日はプリ○ュアの絵本の発売日なのよ。どうしても朝のうちに読みたくてね」

「だから待ち合わせ場所がここなのか……?」

「そうよ。誰よりも早く読みたかったの」

「凄い情熱だな」

「この絵本、きっとまだ誰も読んでないわ。この子の初めては私が貰ったのよ……」

 なんか知らんがやたらと光悦とした表情で言う君塚。

 そこまでこだわりがあるのなら買えばいいだろ……

「本当は買いたいのだけれど、少しお財布事情が芳しくなくいのよ。今日はファンの集いもあるし」

「ふーん……」

 ちらりとその絵本の価格を盗み見る。

 800円か。そんなに高価ではないし……

「良かったら、それ俺にプレゼントさせてくれないか?」

「え……」

「ほら、『スウィートワルツ~春風に乗せて~』の布教用を俺にくれただろ? そのお返し」

「……いいの?」

「おう!」

 君塚の手から絵本を少し強引に受け取り、レジで会計を済ませる。

「はい。どうぞ」

 君塚に絵本を渡す。

「……あ、ありがとう」

 君塚は嬉しさからか少し頬を火照らせているように見える。こんなに感情を表に出しているところ、初めて見た。

 喜んでもらえたのなら良かった。


   6


「ところで、ファンの集いってどこであるんだ?」

「そうね。ここから電車で15分、と言ったところかしら」

 ということで、俺達は現在市内を走る電車に揺られ、目的地へと向かっている。

 隣の君塚は集いのための復習なのか、『スウィートワルツ~春風に乗せて~』を熱心に読みふけっている。

 というか、電車でもカバーかけないんだな……

「……」

 君塚とは反対側の窓を見つめる。景色がゆっくりと過ぎて行く。

 そういえば、さっきの俺の行動。普段なら絶対あんなことしないよな。

 他人の本とは言え、どこで知り合いが見てるとも分からない状況で女児向けアニメの絵本を購入するなんて。

 バレたらオタバレどころか女児向けアニメ好きのロリコン疑惑までかけられてしまうのだ(実際プリ○ュアは全シリーズ見ているが)。

「……」

 今度は熱心にラノベを読む君塚の横顔を盗み見る。

 ……楽しそうだな。

「須藤君、もうすぐ着くわよ」

「お、そうか」

 君塚に声をかけられ、はっと我に帰った。

 到着を知らせる運転手の鼻声アナウンスが車内に響き渡る。

 君塚はラノベを鞄にしまい立ちあがる。隣の俺も席を立ち、出口へと向かった。


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