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第一話 ③

   3


 オタバレの件を聞くの忘れてた。

 家に帰って本来の目的をやっと思い出した。まぁでも、忘れてしまうのも無理はないだろう。まさか、あの君塚から遊びの誘いがあるなんて思いもしなかったから。

「……」

 日曜のことで頭がいっぱいになる。

 今からできることをしておかねば。

 まずはこれ『スウィートワルツ ~春風に乗せて~』を読むことからだ。

 学習机に腰を据え、しっかりと本を読む体制を整えてページを開いた。

 最初のシーンはアラフォーヒロインとの会話のようだ。


「ウチ、隠しとったことがあんねん……」

 いつものヒョウ柄のシャツをなびかせ、花子は言った。

「どうしたんだよ、花子。妙に深刻な顔してさ」

 健太は好物のオイスターソースを舐めながら言う。

「ウチ……実は36歳やないねん!」

「な、なんだってぇ!」

 健太はあまりの驚きにオイスターソースを窓の外にぶん投げてしまった。

「ホンマは37歳やねん……サバ読んでてん……」

「なんやて……」

 健太は絶望の表情を浮かべる。

 あまりの絶望に、一瞬、マヨネーズを食べたくなったほどだ。

「せやけど、ウチ、健太への愛は他の子に負けてへんよ!」

「じゃあ、なんで嘘ついとってん……!」

 健太と花子の愛の行方はいかに……


 ……わからん。このラノベの良さがわからん!

 まず、整理しよう。

 会話相手はアラフォーヒロイン花子。ツンデレだと聞いていたが、もう既にデレ期に入っているようだ。

 意外なのは関西人だったということ。そして関西と言っても恐らく大阪だろう。ヒョウ柄のシャツが全てを物語っている。

 そして、花子は年齢を偽っている。まぁ、若く見られたいという気持ちは分からなくもないが、37と36ってそんなに違うか!? たいした差はないと思うが主人公の健太はオイスターソースを窓の外に投げるレベルで驚いている。

 オイスターソースが好物なのも意味不明だし、驚いたからって外に投げるのも理解に苦しむ。

 そして、健太は花子に裏切られたショックからか、マヨネーズを食べたくなる。これも意味不明。

 しかも、これまで標準語だった健太が花子の影響なのか関西弁が伝染しているし。

 君塚はこのラノベのどこが好きなんだろうか?

まぁ、これから面白くなるかもだし、続き読んでみるか。

次のシーンは電波ヒロインとの会話のようだ。


「ジェニファー! 俺、お前を愛してるよ! お前のためならマヨネーズ側に寝返ることもいとわない!!」

 健太はオイスターソースを地面に投げつけて言い放った。

「それ、本当? そんな甘い言葉、他の女にも言ってるんじゃないの?」

 ジェニファーは疑いの眼差しを向ける。

「そんなことない! ほら! 見てくれ、この二の腕を!」

 健太は袖をまくり上げ、二の腕を露出させる。

「これが嘘を吐いている人間の二の腕か!?」

 健太は自身の潔白を必死にアピールした。

「健ぴょん……私、知ってるんだよ……あの大阪ババアにも同じこと言ってるってこと!」

「そんな証拠ないはずだ!」

「証拠ならあるよ! 私は電波のスペシャリスト……健ぴょんの部屋を盗聴することくらい、楽勝なんだよ!」

「な、なんだってぇぇぇぇ!」

 この後、健太はジェニファーにぼこぼこにされた。


 電波ヒロイン、ジェニファーとの会話だ。外国人であったことは予想外だが。

 まず、最初のセリフ。健太はマヨネーズ側に寝返ると言い、オイスターソースを投げる。多分、この世界ではマヨネーズとオイスターソースの争いが勃発しているんだ。でも、調味料戦争とか意味わからなすぎる。

 あと、嘘を吐いてないアピールの二の腕も意味不明。健ぴょんとか言うニックネームも意味不明。

 そして最後雑すぎるだろ! 何が「この後、健太はジェニファーにぼこぼこにされた」だよ!

 こんなのが作品と呼べるのか!?

 まぁでも……もしかしたら大どんでん返しの神作ラノベかもしれないし、最後まで読むか。

 どうやらラストシーンのようだ。艦隊ヒロイン、智子との会話から始まる。


 健太はジェニファーにぼこぼこにされたショックから、部屋に閉じこもる生活を送っていた。

「あ~、智子ちゃんだけが俺の癒しだよ~」

 健太はパソコンのディスプレイに話しかける。

『提督! そんなとこ触っちゃダメ!』

 健太は構わず駆逐艦、智子の身体をタッチしまくる。

「智子ちゃん、智子ちゃん……でゅふふふふ」

 オイスターソース臭い唾液をすする。

 その時! 健太の家のドアが開かれた!

「健太! マヨネーズ大魔王が復活しおったで!」

「健ぴょん! 大変! マヨネーズ大魔王がよみがえったわ!」

 なんと、花子とジェニファーだった。

「でも俺、もう外に出たくないし……」

 完全に自信を失い、引きニートとなった健太にマヨネーズ大魔王に立ち向かう気力はなかった。

「健太……ウチな、もう47歳や。けどな、健太とまた一緒に戦いたいねん!」

「花子……」

 花子の言葉に健太は心動かされる。

「健ぴょん! 殴ったことはごめん謝る。でも、それは健ぴょんへの愛から来る行動なんだよ? 健ぴょん、もう一回、やり直そう?」

「ジェニファー……」

 ジェニファーの愛に健太は気付かされた。

『提督……提督にしか、できないことがあるんじゃない?』

「智子ちゃん……」

 智子の言葉で健太の決意は固まった。

 健太は力強く立ち上がる。

「さぁ、行こう! 敵の本拠地、マヨネーズ工場へ!」

 そう言った目に、もう迷いはなかった。

「響かせてやるんだ! 俺達のスウィートワルツを! 春風に乗せて!!」

 健太の冒険はまだ始まったばかりだ……!


 終わった。なんとか一冊読み終えた。とりあえず情報を整理してみるか。

 ジェニファーにぼこぼこにされて健太は引きこもる。ここまでは百歩譲って良いとしよう。そこでネットゲームにはまるのもまぁいい。問題なのはこのゲームがパクリなことと、三人目のヒロイン智子が二次元なこと!!

 そして、マヨネーズ大魔王の復活を伝えに来るヒロイン勢。マヨネーズ大魔王とかいうネーミングセンスはもうツッコむ気にもなれない。

 そして、健太を励ますヒロイン勢。ここで衝撃の事実。花子がもう47歳になっているのだ。前の会話では37歳だったから、あれから10年も経過しているのだ。健太の引きこもり期間、流石に長くね!?

 そしてこの励まし合戦の中にしれっと混ざる智子凄いわ。作中のこのゲームはこちらの会話を理解して言葉をくれるのか?

 さらに最後。『スウィートワルツ~春風に乗せて~』という無駄におしゃれなタイトルがかなり強引に回収されて終わり。しかも打ち切りエンド感が拭えない。

「はぁ……」

 自然とため息が出た。これまで史上最悪のラノベだった。君塚はこの作品のどこにファンの集いに参加しようと思うほどの魅力を感じているのか全く理解できない。

 これは日曜が不安だな……


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