第四話 ④
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あれから数日、今日は月の初めということでグラウンドにて全校集会が行われている。
『あー、ゆみみち部? の諸君、団体戦優勝おめでとう。今後も励むように』
『会長。弓道部です』
『む。そう読むのか』
朝礼台の上で会長と副会長が部活の表彰をしている。
相変わらずのぽんこつキャラで、生徒たちから笑いが沸き起こる。
『連絡事項は以上だ。先生方、何かありますか?』
会長が問う。
教師陣からも連絡事項もないようだ。
『うむ。本来であれば、ここで全校集会は終了となるのだが、今日は特別に『どきどき☆生徒会長のお悩み相談室出張版イン朝礼台』を行う!』
会長が声高らかに宣言すると、生徒や教師陣からざわめきが起こる。
『今日の相談者には個人的に恩義があってな。彼もまた、私ほどではないにしろ一流の男だ』
得意げに言う会長に対し、副会長はにこにこと視線を送っている。
『では、来てもらおうか。本日の相談者、須藤解君!』
打ち合わせ通り、俺の名を呼ぶ会長。
周辺の生徒たちが、一斉に俺の方を見る。
「……よし」
小さな声で気合を入れる。
ざわめく生徒たちの群れを抜け、朝礼台にたどり着く。
朝礼台の階段を上った時、そこからはこの学園のすべての人間が一望でき、その圧倒的な風景に、なんだか押しつぶされそうな気持になってしまう。
「大丈夫だ。お前ならやれるさ」
緊張で頭が真っ白になりかけた時、となりで会長が俺にだけ聞こえる小さな声で言った。
「……はい」
俺も小さく頷き返す。
今から始まる。
君塚を守るための、俺の戦いが。
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『さて、本日の相談者は須藤解君だ。実は先日、彼からとある件に関して相談を受けてな。そこで、この場を使ってその話を皆に聞いてもらおうと判断したのだ』
そう。
俺は事前に会長と打ち合わせをし、今日のことを綿密に計画していた。
『では、須藤君に変わろうと思う』
そう言ってマイクを渡される。
全校生徒の前で話したいこと。それはもちろん君塚のこと。
『みなさん。こんにちは。二年D組の須藤解です。今日はみなさんに――』
「こらーー!」
これから話そうという時に、朝礼台の下から声が聞こえた。
見ると、校長だった。
「勝手に何をやっとるんだ!」
ここちらに向かってズカズカと歩いてくる。
まずい。このままだと止められてしまう。
「校長先生」
「なんだね?」
怒りながら朝礼台へ上がって来ようとする校長に副会長が声をかけた。
「この写真……ご存じですか?」
「!?!?」
何やら、副会長は制服のポケットから取り出した写真のようなものを校長に見せているようだ。
「奥さんと娘さんに……この写真お見せしても……?」
「や、やめてくれぇ! それだけは勘弁してくれぇ!」
懇願するようにむせび泣く校長。
「ふふ。でしたら、邪魔しないでくださいね」
「……わ、わかった」
ニコリとほほ笑んで副会長が言うと、校長は渋々引き下がった。
「とんだ邪魔が入りましたね。もう心配いりません。お話しの続きをどうぞ」
「は、はい!」
副会長に言われて思い出す。今は大切な話の途中。
つか、副課長の持ってた写真……なんなんだよ……
でも、助けてくれたことには変わりない。後でお礼を言っておかないと。
『今日は、みなさんに、少し話したいことがあって来ました』
話を再開する。
『俺は少し前まで、実は隠れオタクでした。オタクだってばれたら嫌われるんじゃないだろうか、人に変な目で見られるんじゃないろうか……周りの目ばかり気にしていました。だけど、ある人に出会って少し考えが変わりました。好きな物は好き。誰がなんと言おうと。その時、空気とか周りの目とか、そんなんじゃなくて、自分で考えて、自分で感じて、自分が正しいと思ったことをする。それが大切なんだと気が付きました』
そう。
君塚との出会いがなかったら、今の俺はない。
以前の俺なら、朝礼台の上で演説なんて目立つマネは絶対にしなかっただろう。
『……今、俺の友人が苦しめられています。みんなの敵だって言われています』
父親の仕事のせいで、クラスメイトに留まらず、全校生徒から敵として認知された君塚。
『でも、それって本当に正しいんですか!? 君塚は敵なんですか!? 誰も本当のあいつの事なんて知らないのに、勝手に敵だとか言って! 先輩が言うから? 友達が言うから? 彼氏が言うから? なんとなく? この中で本当に自分で考えて、君塚のことを敵だって判断したヤツなんていやしない! みんなが言うから、そういう空気だから、そんな曖昧すぎる理由で敵対してるに過ぎない! 周りの目とかって確かに大事だよ。でもな! だからっていつまでも本質から目を背けて、皆で一人を攻撃するようなこと、あっちゃいけない! みんなだって本当はわかってるだろ!?』
怒りとか悲しみとか絶望とか……溢れる出る感情のままに声を発する。
『今必要なのは、ほんの少しの勇気だよ。本当に自分が正しいと思うことを、例えそれが誰かに否定されたとしても実行する勇気!』
『だから……』
今度は心を落ち着け、静かに言う。
『だから、みんなもう一度考えてみて欲しい。今度は、自分の心で』
そう言って、息を整え、大きく頭を下げる。
『どうか、どうかお願いしますっ……!』
深々と下げた頭を起こし、俺は生徒たちの方を見下ろす。
「……」
しーーん。
反応がない。
やはり、だめだったか……?
「ぴーーっ! ぴーーっ!」
見ると、サンストーンさんが手を使って大きな口笛を吹いていた。
「素晴らしい演説でシタ!」
そう言って一人で拍手を始める。
ぱちぱちぱち。
「こりゃ負けたわ……」
サンストーンさんの近くに立っている三谷も拍手を始めた。
「ふ。やはりお前は一流だよ」
「ええ。会長の次に」
そう言って、会長と副会長も拍手をしてくれる。
パチパチパチパチパチパチパチ……
パチパチパチパチパチパチパチ……
「みんな……」
次第に拍手は大きくなり、最後にはほぼ全ての生徒が拍手をしてくれていた。
次回、最終話!
ここまでありがとうございました!




