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第二話 ⑥

   6


「それでは君塚サン、須藤サン! お気をつけてお帰りくだサイ!」

 手を振るサンストーンさんに別れを告げ、君塚と共に家路を辿る。

「結局、王国民になっちゃったな……」

「ええ」

 君塚からの短い返事。

「でも、意外だったな」

「なにがかしら?」

 ちらりと一瞬俺の方を見る君塚。

「最初はサンストーンさんって底抜けに明るい人なんだと思ってたんだよ。でも、実は臆病なところもあるんだなって」

 サンストーンさんに初めて話しかけられた時、なんて押しが強くて図々しい人なんだと思った。こういう人は友達を作ったり、他人に話しかけたりすることに躊躇なんてないんだろうなって思った。

 けれどそれは違っていた。本当のサンストーンさんは、不安に思ったり、時には臆病になったりもする普通の女の子だったのだ。

「誰だって不安なものよ。きっと」

「……そうだな」

 でも、サンストーンさんには勇気があった。あんな状況でも進んで人と関わる勇気が。

 俺はどうだろうか。

用もないのに話しかけたら嫌われるのではないだろうかとか、自分にはコミュ力がないからとか……いつも言い訳ばかり並べているような気がする。

「はぁ」

「どうかしたの?」

「いや」

 俺は勇気がないなと思って、ついため息が出た。

 本当は君塚に話しかけたい。もっと仲良くなりたい。

 でも、もし嫌われたら? もし迷惑だったら?

「……」

 さっきの君塚の言葉を思い出した。

『迷惑だと思って遠慮されると、こちらも辛いわ』

 これはサンストーンさんへの言葉だけど、俺もその対象に当てはまるのだろうか。

 俺も遠慮せずに話しかけてもいいのだろうか。

 それとも、急に何の脈絡もなく話すとやはり迷惑だろうか。

 ……ぐるぐるぐるぐる。

頭の中で考えは堂々巡りするだけ。

「今日は楽しかったわね」

 君塚の言葉で俺の思考は途切れた。

 考え事をしていたところに急に話しかけられたので、少し動転してしまう。

「あ、あぁ……楽しかったな。サンストーンさんとキングダム王国、ツッコミ所多すぎだよな!」

 なんとか取り繕うように返事をする。

「それもだけれど……」

 君塚は少し伏し目がちに言う。

「須藤君と久しぶりに話せたから」

「……え?」

 反射的に聞き返す俺。けれど、その余りに弱々しい声は君塚に届かない。

 でも、聞き間違いなんかじゃないことは、ちゃんと分かっている。

「俺も、君塚と話せて楽しかったよ」

 そうだ。思い出したよ。

 君塚はこういうやつなんだ。

 近づきくい、冷徹、無愛想……そんなイメージがあるけれど、本当は誰よりも面白くて、素直で、優しいやつなんだ。

「あのさ」

 決意を固めて声を発する。

 軽く息を吸い込む。大丈夫。思ったよりも落ち着いている……はす。

「今度、一緒に映画にでも行かないか?」

 できるだけ滑舌よく言ったつもりだが、ちゃんと聞こえただろうか。そんな不安を抱きながら君塚の返答を待つ。その時間は一瞬のはずなのに、妙に長く感じられた。

「ええ。BLか百合がいいわね。もちろんアニメで」

「……そうだな」

 案外あっさりと了承をもらえたことに驚いてしまう。なんだ、やってみるとこんなにも簡単じゃないか。俺は何を不安がっていたんだ?

「楽しみにしているわ」

 笑顔の君塚。妙な昂揚感で少し身体が震えてしまう。

「ああ」

 大切なのは勇気、それと相手を信じることなんじゃないだろうか。

 嫌われるかも、迷惑かも……そんな不安はきっとお互いのもの。

 でも、その人ともっと仲良くなりたいと思うなら、まずはその人を信じないといけない。

 俺はこの時、初めて君塚を信じて心を許したのかもしれない。

 そんなことを考えながら、君塚の言葉に頷いた。


ギャグって難しいですね……


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