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第二話 ④

「ここがワタシの部屋デス! どうぞ!」

 そう言って扉を開け放つ。そのまま俺たちは部屋へと入った。

「また……普通の部屋だな」

 いかにも女の子らしい可愛くて清潔な部屋だ。

「このクッションに座ってくだサイ!」

 そう言って二つのクッションを俺と君塚の足元に置いた。

「ありがと……」

 腰を掛けると柔らかくて暖かくて……なんとも言えない気持ちよさだった。

「いいクッションね……」

 君塚が感想を述べた。

「あっ! 気づきまシタ? これ前のカイで作ったんデスよ!」

「前のカイって何!?」

「言葉通りデス。前のカイはもう食べてしまったので、残った毛をクッションにしまシタ!」

「あれ一匹目じゃないのか!? つか、カイって名前、世襲制なの!?」

「須藤君。キングダム王国では羊の名前を世襲制にするのは一般的よ。ちなみに、さっき会ったカイは九代目ね」

「確かに九代目のカイデス!」

「なんでお前は人の家の羊事情まで把握してるんだよ……」

 キングダム王国の風習も意味不明だが、君塚もわからない。こいつの知識は謎だ。他人の家の羊が何代目かまでわかるっておかしいだろ!?

「あ! 飲み物をお持ちしマスね! 何か希望はありマスか!?」

「俺は普通にお茶か水でいいよ。ありがとう」

「ハイ! じゃあ、キングダム王国ティーをお出ししマスね!」

「私はオイスターソースでお願いするわ」

「キングダム王国オイスターソースをお出ししマスね!」

 そう言ってサンストーンさんは元気よく部屋を出て行った。

 なんでもキングダム王国つければいいってわけじゃないだろとか、オイスターソースネタまだ引きづってたのかとか、いろいろとツッコミたい所が多すぎてもやもやしていると、サンストーンさんはすぐに戻って来た。

「こちらがキングダ王国名物の、キングダム王国ティーとキングダム王国オイスターソースデス!」

「ありがとう……」

 俺と君塚は礼を言って受け取る。少し怖いのでほんの一口だけ口を付けてみる。

「うまい……!」

 甘さの中にほんのりとしたオレンジの香り、シュワっとした口触りに爽やかな飲み心地。

 そう、これはまるで……

「って! ただのファン○オレンジじゃねぇか!」

「スミマセン……実はキングダム王国ティーなんてないのデス……」

「やっぱり!」

 最初から怪しいと思ってた。キングダム王国ティーなんてネーミングな時点で気づくべきだった。

 キングダム王国への不信感を抱えながら、ふと君塚の方を見る。

「な、なにこれ……」

 君塚は目を見開いて手に持つグラスを見つめる。どうせ、ファン○グレープとかいうオチだろ……

「なんて美味しいオイスターソースなの!?」

「え?」

 戸惑う俺。本当にオイスターソースなのか?

「キングダム王国のオイスターソースは世界一デス!」

「噂には聞いていたけど、まさかこれほどとは……宮部先生に報告しないと……!」

「いやいやおかしいだろ! お茶はないのになんでオイスターソースならあるんだよ!」

 大声で騒ぐ俺をものともせず、君塚は携帯で写真を撮っている。

「これ、知り合いにメールで送ってもいいかしら!?」

「いいデスよ! お知り合いにも教えてあげてくだサイ!」

「あと、ツイッターにアップしてもいいかしら?」

「ツイッターは……ダメデス……」

 サンストーンさんは急に暗い表情になった。どうしたのだろうか。ツイッターに悪い思い出でもあるのだろうか。

「……気を悪くさせるつもりはなかったの。ごめんなさい」

 君塚が謝罪する。

「イイエ……ワタシが悪いのデス」

「何か……あったのか?」

 普段なら、他人ごとに踏み込んで追及することは避けるのだが、あまりに悲しそうだったから……話をすることで、少しはサンストーンさんを楽にしてあげられるのではないかと思ったのだ。

「そうデスね……同じキングダム王国民の皆サンには、話しておくべきデスね……」

 いつの間にか勝手に王国民認定されていることに強い違和感を抱くが、あえて追及しなかった。

「あれは、ワタシのパパが引きこもる前の話デス……」

 引きこもる前……おそらく、これから語られるツイッターがらみの事件が、サンストーンさんの父親を引きこもりにさせた原因となるのだろう。

「パパは、キングダム王国で羊肉料理店を経営していまシタ。店名を『可愛さ余って憎さ百倍』と言います」

 あの合言葉はここから来ていたのか。妙に納得した。

「あの頃は今よりいっぱい羊を飼っていまシタ。カイ以外にも……あいうえお、かきくけこ、さしすせそ……たくさんいまシタ」

 RPGとかで、名前付けるのめんどくさい時によくやるやつだな。

「すべては順風満帆でシタ。けれど、そんなある日、事件は起こりマス」

 話の雲行きが怪しくなってきた。隣の君塚も聞き入っているようだ。

「ツイッターにとある写真がアップされるのデス……男が店の羊肉を保存する冷蔵庫に入り込んで、そこに寝そべってアヘ顔ダブルピースしている写真が!」

 日本でもよく聞く話だ。他人の迷惑も考えずツイッターにバカな画像を投稿する。特に、衛生を重視する食品業界においては、こういった事件が起こると命取りだ。

「こうして、『可愛さ余って憎さ百倍』は大炎上デス」

「それで店を畳んで引きこもりに……?」

「ハイ……」

「おやじさん、災難だったな……」

「ええ。自分で蒔いた種とは言え、本当に災難でシタ」

「え……? 自分で蒔いた種?」

「ハイ。その写真はパパが自分で自分を撮ってアップしたものデスから……」

「それ完全に自業自得じゃねぇか! バイトが勝手にアップしたとかじゃねぇのかよ!? 同情して損したわ!!」

 身勝手なアルバイトとかがイタズラで投稿した写真かと思ってたわ! 店長自らかよ! これはどう考えても自己責任だわ。

「そして、今パパは失業者雇用で王国に雇われていマス。日本に出張して王国民を増やすことが仕事デス」

「そういうことだったのね」

 君塚が頷いた。

「でも、その勧誘活動はサンストーンさんに任せっきりなんだろ?」

「ハイ……」

 下を向くサンストーンさん。

 引きこもりの父親に代わって勧誘をしていたんだな……

 なんだか妙に可哀そうで、これまでサンストーンさんの話さえ聞こうとしなかった自分を少し後悔した。

「これまで大変だったな……話くらい聞くからさ……」

「ありがとうございマス……!」

 目じりに涙を潤ませて言う。

 少し心配に思ったが、サンストーンさんが涙を袖口で拭い、小さくほほ笑んだのを見て、俺は胸をなでおろした。


まだまだ頑張りますよー。


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