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新たなる世界へ  作者: パルス
第1章

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第38話 「混戦の支配と、その先を見る者」


旧拠点は、すでに原形を留めていなかった。


崩れた外壁はさらに抉れ、地面は裂け、罠の構造は連鎖的に崩壊している。その中心で暴れ回るのは、カインによって呼び出された巨大な魔獣だった。


その咆哮は空気そのものを震わせ、踏みしめるたびに地面が波打つ。


そして、その周囲では結社の個体が散開しながら応戦していたが――明らかに統制を失っていた。


「ちょっと待って、これもうめちゃくちゃなんだけど!」


リリアが叫ぶ。


無理もない。罠として構築された戦場は、いまや制御不能の崩壊領域と化している。


 


だが。


 


リックだけは、状況を“崩壊”としてではなく、“構造”として見ていた。


 


「三つだ」


 


短く言う。


 


「敵は三つに分かれる」


 


エレノアがすぐに理解する。


「……結社、魔獣、そして地形ですね」


 


「そうだ」


 


リックは続ける。


 


「魔獣を軸にする」


 


その一言で、方針が決まる。


 


「直接ぶつからない。外側から制御する」


 


リリアが顔をしかめる。


「いやいや、あれ放置して大丈夫なの?」


 


「利用する」


 


即答だった。


 


ルナが静かに動く。


地面に槍を突き立てると、氷が広がり始める。崩壊した地形の隙間を縫うように氷の壁が形成され、逃げ道を限定していく。


「……閉じる」


 


エレノアが弓を構える。


風の流れを読み、魔獣と結社の動きを同時に捉える。


「動線、見えました。魔獣は直進傾向、結社は回避優先です」


 


「誘導できるか」


 


「可能です」


 


矢が放たれる。


風に乗った一撃が地面を掠め、結社の個体の進路をわずかにずらす。その“わずか”が積み重なり、動きが収束していく。


 


シルヴィアが前に出る。


二振りの剣を逆手に持ち、わずかに振る。


「……まとめて効かせます」


 


霧状の薬が空気に広がる。


だが、それは無秩序な拡散ではない。風の流れと合わせることで、濃度を維持したまま特定の範囲へと留まっていく。


 


「風、固定します」


 


エレノアが即座に合わせる。


 


魔獣の周囲に、見えない層が形成される。


 


結社の個体がその範囲に入り込んだ瞬間、動きが鈍る。


反応が遅れる。


判断が狂う。


 


セレスティアが両手を重ねる。


「耐性、維持します」


 


柔らかな光が広がり、仲間の体を包み込む。薬の影響を受けないように、状態異常への耐性が底上げされていく。


 


「よし、いけるね!」


 


リリアが笑う。


 


そのまま、踏み込む。


 


「まとめて――潰す!」


 


ハンマーが振り下ろされる。


炎が爆ぜる。


弱体化した個体が、まとめて吹き飛ぶ。


 


その間にも、リックは動いていた。


 


杖を振る。


 


石が浮かび上がる。


 


それを、魔獣の進路へと叩き込む。


 


――ドンッ!!


 


衝撃。


 


魔獣の巨体がわずかに方向を変える。


 


そのわずかなズレが、結社の集団へと直撃する形を作る。


 


「……いい流れだ」


 


リックは淡々と言う。


 


魔獣が突進する。


 


逃げ場を失った結社の個体が、まとめて巻き込まれる。


 


「……制御不能」


 


敵側の声が漏れる。


 


統率は崩れ、判断は遅れ、連携は機能していない。


 


完全な崩壊だった。


 


リックは一歩前に出る。


 


「押し込む」


 


その言葉と同時に、全員の動きが揃う。


 


ルナが封鎖を強める。


 


エレノアが逃げ道を潰す。


 


シルヴィアが弱体を重ねる。


 


セレスティアが支える。


 


リリアが叩き潰す。


 


そのすべてを、リックが“繋げている”。


 


やがて。


 


最後の抵抗が消える。


 


魔獣もまた、薬と連続攻撃によって動きが鈍っていた。


 


「今だ」


 


リックの声。


 


全員が集中する。


 


エレノアの矢が弱点を貫き。


 


シルヴィアの刃が深く入り。


 


ルナが動きを止め。


 


リリアが、全力で叩き込む。


 


衝撃。


 


魔獣が崩れ落ちる。


 


静寂が訪れる。


 


風だけが、瓦礫の間を抜けていく。


 


リリアがその場に座り込む。


「……終わった?」


 


セレスティアが周囲を確認する。


「大きな反応はありません……一応は」


 


だが、その“静けさ”は完全な終わりではなかった。


 


気配がある。


 


近い。


 


リックがゆっくりと振り返る。


 


そこに、立っていた。


 


「いやー、面白かった」


 


カイン。


 


その背後には、セシルが静かに控えている。


 


ルナがわずかに構える。


「……敵」


 


エレノアも弓を引く。


「警戒を」


 


だが。


 


「……いい」


 


リックが制する。


 


空気が止まる。


 


カインが笑う。


 


「いい動きしてたな」


 


軽い調子。


だが、その目は確かに“見ていた”。


 


リックが答える。


 


「お前のせいで崩れた」


 


「だから良かったんだろ?」


 


あっさりと言う。


 


価値観が違う。


 


セシルが一歩前に出る。


 


「……想定外の対応です」


 


静かな評価。


 


カインが続ける。


 


「お前ら、壊れねぇな」


 


その言葉は、軽いようでいて――重かった。


 


リックは視線を外さない。


 


「壊れる前に終わらせる」


 


短く返す。


 


カインが口元を歪める。


 


「へぇ」


 


興味。


 


確実に、“見られた”。


 


「次はもっとやれるだろ?」


 


その一言に、未来が含まれている。


 


セシルが静かに言う。


 


「……撤退を」


 


カインは肩をすくめる。


 


「じゃあな」


 


そのまま、気配が消える。


 


残されたのは、静寂と瓦礫だけだった。


 


リリアが息を吐く。


「……なにあれ」


 


エレノアが小さく言う。


「……危険です」


 


リックは崩れた旧拠点を一度だけ見渡す。


 


「次に備える」


 


その言葉は、すでに次の戦いへ向いていた。


 


戦いは、まだ終わっていない。

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