表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新たなる世界へ  作者: パルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/51

第24話 「静かな畑と、凍てつく噂」


朝の光が、拠点の畑をやわらかく照らしていた。


湿った土の匂いと、整えられた畝。

その間を抜ける風は、どこか穏やかで、ここが戦いの拠点であることを忘れさせるほどだった。


リックはしゃがみ込み、手のひらを土に当てる。


「……少し固いな」


小さく呟き、大地同調を発動する。

地面が微かに震え、内側からほどけるように土が緩む。水分が均一に広がり、空気が通る層が整えられていく。


「これでいい」


その様子を見ながら、エレノアが静かに頷いた。


「昨日の雨で締まっていた部分ですね。今の調整で安定しました」


彼女は風の流れを読み、畝の配置と水の流れを確認している。目に見えない流れを組み立てるように、拠点そのものを設計していた。


少し離れた場所では、リリアが工具を手にしていた。


「よし、これで水やり楽になるよ!」


鍛冶の技術を応用した簡易の散水器を掲げる。粗削りながらも、確かな形をしている。


「……すごいですね」


シルヴィアが素直に感心する。


「でしょ? こういうの作るの、結構好きなんだよね」


リリアは照れくさそうに笑った。


シルヴィアはそのまま薬草の葉に触れる。

指先でそっと撫で、魔力の流れを確かめていく。


「……順調です」


だが、その指が一瞬だけ止まった。


「……?」


(……少しだけ、魔力が薄い……?)


ごくわずかな違和感。

しかし、それは確信に変わるほどではなかった。


「どうした?」


リックが声をかける。


「……いえ、大丈夫です。気のせいかもしれません」


シルヴィアはそう言って手を離した。


その時、拠点の中から柔らかな声が響いた。


「朝食、できました」


セレスティアだった。


「やったー!」


リリアが真っ先に反応し、工具を置いて走り出す。


リックも立ち上がり、軽く土を払った。


「行くか」


――


テーブルには、湯気の立つスープと焼きたてのパンが並んでいた。


「まだ練習中ですが……」


セレスティアが少し遠慮がちに言う。


リックは一口食べて、すぐに頷いた。


「うまい」


「ほんと!?」


リリアも勢いよく口に運ぶ。


「ほんとだ! 前より美味しくなってる!」


エレノアも静かに言った。


「味付けが安定しています。とても良いです」


セレスティアはほっとしたように微笑んだ。


その穏やかな空気の中で、シルヴィアが口を開く。


「……薬草の一部ですが、少しだけ魔力が薄い気がしました」


エレノアが視線を上げる。


「一部だけ、ですか?」


「はい。全体ではありませんが……」


リックは腕を組む。


「すぐに問題になるか?」


「……いえ、まだ影響はありません」


「なら様子見だな」


短く判断する。


「今日は予定通り動く。ヴェルグラードだ」


「鉱石だね!」


リリアが元気よく言う。


「ああ。装備強化にも必要だ」


――


転移の光が消え、

五人はヴェルグラードに立っていた。


町は活気に満ちている――はずだった。

だが、どこか落ち着かない。


荷車の数が多く、商人たちの動きも慌ただしい。


「……少し、騒がしいですね」


エレノアが静かに言う。


リックは短く頷き、そのままザクトの店へ向かった。


扉を開けると、ザクトがすぐに気づいた。


「……これはまた、いいタイミングで」


意味深に目を細める。


「何かあったのか」


リックが問う。


ザクトはカウンターに寄りかかり、声を落とした。


「ええ、少し妙でしてね」


「鉱石の流れが減っています」


「採掘量の低下か?」


「いえ――“消えている”」


空気がわずかに変わる。


エレノアが冷静に聞く。


「盗掘ではない、と?」


「ええ。狙われているのは、魔力を含んだ鉱石だけです」


シルヴィアの瞳がわずかに揺れた。


ザクトはそれを見逃さない。


「裏の連中が動いていますよ。ああいうのは“集める側”がいる」


リックの声が低くなる。


「秘密結社か」


ザクトは肩をすくめた。


「さて……どうでしょうね」


だが否定はしない。


少し間を置き、ザクトは続けた。


「それと、もう一つ」


「妙な“商品”がありまして」


リリアが首を傾げる。


「商品?」


「奴隷です」


その言葉に、空気がわずかに重くなる。


シルヴィアは何も言わない。


ザクトは淡々と続ける。


「元は没落した貴族の娘」


「ですが――売れない」


リックが問う。


「理由は」


「強すぎる。そして、扱えない」


リリアが目を輝かせる。


「強いの!?」


「ええ。氷を使うそうです」


だがザクトは首を振る。


「問題はそこじゃない」


「戦場を“分ける”」


リックの目が細くなる。


「……分断か」


「ええ。近づけば隔てられ、逃げれば遮られる」


ザクトは静かに言う。


「商品としては失敗作ですが……戦力としては上等」


そして一言。


「……あれは商品というより、“災害”に近い」


「場所は?」


「ヴェルグラード外れの取引場です」


――


店を出た後、リックは短く言った。


「まずは鉱石だ」


――


採掘場は荒れていた。


岩肌が削られ、不自然な痕が残っている。


「……静かすぎる」


リリアが呟く。


エレノアも頷く。


「魔力の流れが乱れています」


さらに進むと、それは見つかった。


魔法陣の跡。

黒く変質した地面。

そして魔力を失った鉱石。


シルヴィアが静かに言う。


「……間違いありません」


「秘密結社です」


――


直後、魔獣が飛び出した。


動きが歪で、不安定。


「来るぞ!」


リックが前に出る。


戦闘は短かった。


リリアの一撃、エレノアの制御、シルヴィアの補助。

そしてセレスティアの光が、傷を即座に癒していく。


「大丈夫ですか?」


「問題ない」


リックが頷く。


――


戦闘後。


エレノアが言う。


「魔力の抽出です」


シルヴィアも続ける。


「……薬草も、鉱石も同じです」


リックが静かに結論を出す。


「結社は魔力を集めている」


――


帰り際。


一瞬だけ、地面が凍った。


「……え?」


リリアが足を止める。


シルヴィアの瞳が揺れる。


「……今のは……」


だが、すぐに消えた。


――


夜。


拠点に戻ると、セレスティアが食事を並べていた。


「お疲れ様です」


その声はいつもと変わらず優しい。


だが、外の畑は――


朝よりわずかに元気を失っていた。


シルヴィアが静かに言う。


「……影響が出ています」


リックは空を見上げる。


「原因を断つ」


遠くで、氷が軋むような気配がした。


どこかで、誰かが呟く。


「……また来た」


「……どっちを選ぶの」


静かな夜に、その声だけが溶けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ