第15話 「シルヴィアと、薬草採集」
「お兄ちゃん! 今日はシルヴィアさんと一緒にギルドに行こうよ!」
朝、シェルターの中でリリアの元気な声が響いた。
リックが目を覚ますと、リリアはすでに焚き火のそばで小さく跳ねながら興奮気味に話していた。
隣ではエレノアが静かに微笑み、シルヴィアは毛布にくるまったまま、少し驚いたような顔でリリアを見ていた。
リックは体を起こしながら苦笑した。
「朝から元気だな、リリア」
シルヴィアはまだ体を起こすのが少しつらそうだったが、紫の瞳に昨日より明るい光が宿っていた。
「……おはようございます……
リリアさん、朝からそんなに張り切って……」
リリアは拳を握って目を輝かせた。
「だってシルヴィアさん、昨日より顔色いいよ!
リハビリがてらギルドに行って、簡単な依頼を受けようよ!
薬草採集とか、戦わなくていいやつがいいよね!」
エレノアが優しく頷きながら温かいスープをよそった。
「シルヴィアさんの体調を第一に考えましょう。
今日は無理のない範囲で、外に出てみるのも良いかもしれませんね」
シルヴィアは少し照れながらも、ゆっくりと体を起こした。
「……皆さんがそう言ってくださるなら……
私も、少し外に出てみたいです。
ここにいてばかりでは、皆さんにばかり負担をかけてしまいますから……」
朝食を終えた4人は、シルヴィアのリハビリを兼ねてギルドへ向かうことにした。
ギルドに到着すると、シルヴィアはまだ歩くのが少しつらそうだったが、エレノアとリリアに支えられながらゆっくりとカウンターまで進んだ。
職員はシルヴィアの姿を見て目を細め、優しく声をかけた。
「シルヴィアさん、だいぶ回復されたようですね。
Eランクの皆様にちょうどいい依頼がありますよ。
『近くの森で指定の薬草を一定量集めてくる』というものです。
戦闘はほとんどなく、採集がメインの安全な依頼です」
リックはシルヴィアの体力を考慮しながら頷いた。
「これならリハビリにちょうどいいな。
受けるよ」
依頼を受諾した4人は、すぐに森へと向かった。
森に入ると、エレノアの風の加護が柔らかく皆を包み、良質な薬草の場所を次々と見つけてくれた。
リックは大地同調を使って土を優しく掘り返し、根ごと丁寧に採取していく。
リリアは元気に籠を持って走り回りながら、
「ここにいいのが生えてるよ!」
と声を上げた。
シルヴィアは皆の少し後ろをゆっくりと歩きながら、時折立ち止まって薬草を眺めた。
ヴァンパイアの鋭い感覚が、微妙な違いを見分ける。
「……この草は、少し違うと思います。
葉の裏の脈が……もう少し細い方がいいはずです」
そのアドバイスのおかげで、質の高い薬草を効率的に集めることができた。
シルヴィアはまだ長時間歩けないため、途中で何度か休憩を挟んだが、そのたびに「皆さんと一緒に外に出られて……本当に嬉しいです」と小さな笑顔を見せた。
途中、小さな魔物が1回だけ現れたが、リリアの炎戦鎚とリックのゴーレムで簡単に撃退した。
シルヴィアは後ろから見守りながら、
「皆さんの連携……本当に素晴らしいです……
私も早く、皆さんの力になれるようになりたいです」
十分な量の薬草を集めた4人は、ギルドに戻って依頼を完了させた。
職員は薬草の質を褒めながら報酬を渡した。
「良い仕事でした。シルヴィアさんも無事に外に出られて何よりです」
拠点に戻った夜、焚き火を囲む頃。
シルヴィアは少し疲れた様子で焚き火のそばに座った。
リックが今日の成果を報告していると、シルヴィアがふと薬草の束を見て目を細めた。
「……あの薬草……組み合わせ次第で、簡単な回復薬や解毒薬が作れますよ。
私の血の魔力を少し加えると、効果が安定すると思います……」
リックは驚いてシルヴィアを見た。
「製薬ができるのか?」
シルヴィアは少し照れながら、しかしどこか誇らしげに、そして不安を少し隠すように小さく頷いた。
「……はい。
製薬はヴァンパイア特有の技術です。
血の魔力を細かく通訳するように制御して、薬草の成分と融合させる……
結社に捕らわれる前は、少しだけそういった仕事もしていました。
でも、これはヴァンパイアの血の魔力がないと安定しないので、私以外は作れません……
皆さんに使ってもらえるなら……とても嬉しいです。でも、まだ体力が戻っていないので、簡単なものしか作れませんが……」
その言葉には、喜びと照れ、そして「役に立ちたい」という強い想いと、少しの不安が混じっていた。
シルヴィアの指先がわずかに震え、紫の瞳が焚き火の光を映して揺れた。
エレノアが穏やかだが、感動を隠しきれない表情で言った。
「それは……本当に心強いですね。
シルヴィアさんの技術があれば、探索がどれだけ安心できるか……」
リリアは目を輝かせ、興奮で声が上ずりながらシルヴィアに近づいた。
「すごい! シルヴィアさんだけができるんだ……
教えて教えて! 私も一緒に作りたい! シルヴィアさんが作ってくれる薬、絶対にみんなを助けてくれるよね!」
シルヴィアは弱々しく、しかし心から嬉しそうに笑った。
頰がほんのり赤らみ、目尻にうっすらと涙のような光が浮かんだ。
「……はい。
体がもう少し回復したら……皆さんに教えますね。
私が作った薬を、皆さんに使ってもらえるなら……本当に嬉しいです」
その夜、焚き火を囲む頃。
シルヴィアは今日の薬草採集と、製薬の話を振り返りながら静かに、しかし胸の内を込めて言った。
「今日は……リハビリがてらとはいえ、外に出られて良かったです。
皆さんと一緒に薬草を集めて……そして、製薬の話までできて……本当に夢のようでした」
リックは優しく微笑んだ。
「今日はよく頑張ったな。
製薬ができるなら、これからとても助かるよ。
でも無理はするなよ」
エレノアが穏やかに頷いた。
「シルヴィアさんの知識がとても役に立ちそうです。
これからも4人で協力していきましょう」
リリアは元気よく拳を握った。
「うん! シルヴィアさん、次は一緒に製薬しようね!」
シルヴィアは焚き火の温かい光の中で、初めて心からの笑顔を見せた。
「……ありがとうございます。
皆さんと一緒にいられることが……本当に幸せです」
その夜、4人は焚き火のそばで静かに寄り添うように過ごした。
シルヴィアはまだ完全に回復していないが、今日の小さな一歩と、新たな能力の共有が、皆の絆をまた少し強くしたことを感じていた。
リックは一人で少し外に出て、星空を見上げた。
(シルヴィアがだいぶ回復してきた……
ヴァンパイア特有の製薬ができるなら、これからはもっと安心して探索ができるな)
遅咲きの物語は、ヴァンパイアの少女と共に、
静かに、しかし確実に新しいページをめくり始めていた。




