オレンジとバザールの商人
突き抜けるような青空の下で、大きなバザールが開かれていました。まばゆい陽ざしをわずかにさえぎるテントが集まり、干し肉、果物、宝石、靴下にいたるまで、あらゆるものが売られています。行き交う人達の明るいさざめきが渇いた空気に重なり合い、バザールは大変賑わっておりました。
「いらっしゃい、いらっしゃい!今朝とれたばかりのオレンジだよ。オアシスのようなみずみずしさに、目の覚めるようなすっぱさだよ!」
ひときわ威勢の良い声が、テントの群れを見下ろす太陽に届きました。
声の主は、頭にターバンを巻いた若い商人です。その額には汗が光り、商人もまたとれたてのオレンジのようでありました。じっさい、その手には一口かじったオレンジが握られています。
「くそぅ、ちっとも売れやしない。オレンジなんて、ここらじゃありふれてるからな」
商人はそうつぶやくと、また一口オレンジをかじりました。
「うん、うまい。こんなにうまいのに、毎日のようにかじってたら、さすがに飽きるものなのかなぁ」
『そんなことはないさ。もしも私がいなくなったら、すべての人が悲しむだろう』
「でも、お前がいなくなっても、まだまだたくさんのオレンジがある。この袋いっぱいのオレンジを売らなけりゃ、また親方に怒られる」
『君はえらいね。こんな場所から逃げ出したっておかしくないのに、毎日変わらず働いている』
商人のテントには、商人よりも大きい麻の袋いっぱいにオレンジが入っていました。そのどれもが丸くまぶしく、たっぷりの水分を含んでいます。
通りの向こう側で、わぁっと歓声があがりました。踊り子がくるくると独楽のように回っている横で、太った宝石商はニコニコとお客と談笑しています。
「だいたい、この国は豊かすぎるんだ。オレンジだって、何もない荒野で育ったりしない。キャラバンの奴らだってこれがなけりゃ、あの太陽にやかれて旅の途中で干からびるだろうよ」
『その通りさ。そうならないようにオレンジがあって、君がいるんだ。さぁ、オレンジを売っておくれ』
商人ははっとして空を見上げました。太陽は相変わらずギラギラとまぶしく、手の中のオレンジは、まるで小さな太陽のようです。
バザールには、人々が生活するために必要なすべてのものがそろえられていました。
この世界は本当に、とてもすばらしく整えられているのです。
「いらっしゃい、いらっしゃい! 今朝とれたばかりのオレンジだよ。オアシスのようなみずみずしさに、目の覚めるようなすっぱさだよ!」
商人は額の汗を拭い、オレンジのすっぱさをかみしめながら、再び声を張り上げたのでした。




