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異世界コンサルはじめました。~元ワーホリマーケター、商売知識で成り上がる~  作者: いたちのこてつ


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第18話 敵の懐

王都、王城の麓にある屋敷。シュンとティアが敵地ドールに囚われてから、すでに数週間が経過していた。


書斎の空気は、重く、淀んでいた。アルフォンスたち『チーム・アヴァロン』は、シュンからの指示通り、国王ライオネルと共に『第零段階(中立派貴族の切り崩し)』の準備を進めてはいたが、肝心の軍師からの連絡が途絶え、その士気は地の底に落ちていた。


「……シュン殿からの連絡は、まだないのか」


ライオネルは、焦りを隠しきれない声で呟いた。


「まさか、あの男……。ヴァロワの屋敷で、何かあったのでは……」


アルフォンスも、唇を噛み締めた。俊が命懸けで稼いだ「時間」を、無駄にしてしまうかもしれない。その焦りが、王と若き文官の心を、重く支配していた。


その時だった。屋敷の扉を叩く者がいた。


アルフォンスが慌てて扉を開けると、そこに立っていたのは、南の穀倉地帯から野菜を運んできたという、一人の薄汚れた身なりの男だった。ティアの協力者、アンナの兄だ。


「……これを」


男は、懐からボロボロになった一通の密書を取り出すと、アルフォンスに手渡し、そのまま闇の中へと消えていった。


書斎に戻ったアルフォンスは、ライオネルの目の前で、震える手でその密書の封を切った。しかし、そこに書かれていた内容は、彼らを安堵させるどころか、更なる絶望に叩き落とすものだった。


『砦の、見取り図を手に入れろ』


「……馬鹿な!」


ライオネルは、その羊皮紙を叩きつけた。


「今から見取り図を探したところで、それがドールにいるシュンの元に届くまでに、また数週間はかかるぞ! それに、ヴァロワ侯爵の秘密の砦の見取り図など、一体どうやって……!」


俊の要求は、物理的に不可能に思えた。アルフォンスは、シュンが敵地で判断を誤るほど、追い詰められているのではないかと戦慄した。


一方、その頃。アヴァロンのもう一つの戦場、ドールのヴァロワ侯爵邸。


俊とティアは、「客人」という名の、鳥籠の中での生活を続けていた。


俊は、侯爵の出す「テスト」をこなし、その信頼を少しずつ勝ち取り、「客人」としての行動の自由を、僅かながら広げていた。彼が提示する巧妙な『知恵』は、侯爵をすっかり夢中にさせ、彼が「影の軍師」であるという警戒心を、わずかずつ麻痺させていたのだ。


そして、ティアもまた、自らの戦場で、静かに戦果を上げていた。「雑用係の妹」として、侍女アンナとの信頼関係をさらに深めていた彼女は、ついに、あの『ヤバいもの』の正体を探り当てたのだ。


その夜、ティアは、俊の部屋を訪れると、人目を忍ぶように一枚の羊皮紙を差し出した。


「俊さん、これ……」


そこには、彼女の震える手で描かれた、奇妙なスケッチがあった。


「アンナに手伝ってもらって、砦の地下倉庫に一瞬だけ入れたの。そしたら、小麦袋の中に、こんな……鉄の筒みたいなものが、たくさん隠されていて……。あと、それにぴったりはまる、こんなに小さい、黒く輝く石も……。これ、アイゼンブルクで見た『魔石』と同じものだと思う」


ティアが描いたのは、手のひらサイズの、奇妙な筒状の金属部品。そして、彼女が『魔石』だと判断した、指先ほどの大きさの、黒く輝く小さな石だった。


「これが、あの『ヤバいもの』だと思う。一体、何なのかしら……」


その絵を見た俊は、戦慄した。


(……なんだ、これは。この形状……この魔石……。まさか、魔石のエネルギーを利用して、金属の弾を撃ち出すための『ガジェット』か!?しかも、これほどの小型兵器が量産されているだと……!)


俊の青ざめた顔を、ティアが不安気に見つめる。


(……マズい。俺の読みが外れた)


彼が王都のライオネルたちに「見取り図」の確保を命じたのは、あくまで砦の「経済活動」の全貌を掴むためだった。それは、一か月単位の時間をかけて、じっくりと攻略するはずの「長期戦」の計画だった。


しかし、敵の切り札は『経済』ではなかった。この国、いや、この世界の軍事バランスすら根底から覆しかねない、恐るべき『武力』だったのだ。


俊は、マーケターとしての思考を、恐るべき速度で回転させる。


(なぜ侯爵がこんな『武力』を必要とする? 彼は表向きは中立派を装い、国の『鎖国』を維持することで、『鉄の鎖』との密輸による莫大な『利益』を得ている。その彼が、なぜ、こんな危険な橋を渡る……?)


答えは、一つしかない。


(……ライオネルだ。若きライオネルが推し進める『開国』。それが、侯爵の『利益の源泉』を根本から脅かしているんだ)


『開国』され、ヴェリディア王国と正規の貿易が始まれば、『鉄の鎖』との「密輸」は意味をなさなくなる。侯爵は、最大の権益けんえきを失う。


(だから、彼は『開国』を阻止するために、王を排除するつもりだ……! 『魔石銃』という、王都の近衛騎士団すら無力化できる『切り札』を使って……!)


それは、もはや「経済」の話ではない。国家転覆を狙う、全面戦争の「宣戦布告」だ。


(……一か月も待っていたら、この『魔石銃』で武装した宰相派が、クーデターを起こすかもしれない。見取り図はもともと無謀な依頼だったし、王都そとからの救援は、間に合わない!)


俊は、ライオネルたちを待つのではなく、このドールの街で、自分たちの手だけで、この状況を打開するという、あまりにも無謀な「賭け」に出ることを決意した。


「……ティア。状況が変わった。これより、我々は独自に、砦の制圧計画を実行する」


「王都の『影』は使えない。ならば、俺たちが、この街で『影』を作り出すんだ」


俊は、ティアがこの数週間で集めてきた、膨大な量の「定性情報」…御者たちの噂話、侍女たちの不満、衛兵の交代時間…それらの全てが書き込まれた羊皮紙を、書斎の床に広げた。彼は、その情報の海の中から、『国家の解剖図』を完成させた時と同じ、恐るべき集中力で、敵の「弱点」を探し始めた。


(……衛兵の交代時間は、夜明けと日没の二回。密会は、決まって深夜)

(……『黒い蛇』のヴェリデリア商人が来るのは、三日後)

(……衛兵の中には、侯爵の圧政に不満を持つ者も多い)


そして、ついに、一つの名前にたどり着いた。


「……見つけた。衛兵隊長の一人、バルツ。こいつは侯爵に内緒で、管轄下の酒場から、違法な魔石の横流しに手を染めている……!」


それは、ティアが侍女たちから聞き出した、ただの噂話の一つだった。だが、俊の分析によって、それは敵の砦を内部から切り崩す、最強の「鍵」へと変わったのだ。


俊は、その「弱み」が記された報告書を手に、冷徹な目でティアに告げた。


「ティア。この衛兵隊長バルツと、秘密裏に接触する必要がある。だが、俺たちは監視されていて、屋敷からは一歩も出られない。……何か、手はないか」


その問いに、ティアの顔が青ざめた。屋敷から出ずに、どうやって外の衛兵隊長と接触するというのか。


「……でも、どうやって? 私たち、ここから出られないよ。それに、アンナに頼むったって、そんな危険なこと……」


ティアは、アンナをこれ以上危険に晒すことに、強い躊い(ためらい)を見せた。


「いや、違う」俊は、ティアの言葉を遮った。


「お前の言う通りだ。俺たちが外に出るのも、アンナに外で接触させるのも、リスクが高すぎる」


俊は、思考を巡らせる。屋敷から出ずに、衛兵隊長バルツと接触する方法……。


「……ティア。アンナに、もう一つだけ、頼めるか」


「……うん」


「バルツ隊長は、砦の警備責任者の一人だ。当然、この屋敷の警備にも関わっているはず。アンナに、彼が次にこの屋敷を訪れる日時を、それとなく探ってもらうんだ」


屋敷ここで……接触するの!?」


ティアの顔がさらに青ざめる。監視のど真ん中で、敵の衛兵隊長と交渉するなど、正気の沙汰ではない。


「ああ」俊の目は、冷徹な光を宿していた。「敵の『なか』でこそ、敵は油断する。そして、その交渉の場に、俺は侯爵自身を立ち会わせる」


「こ、侯爵様を!?」


「そうだ。侯爵に、俺の『知恵』の本当の価値を見せつける、絶好の機会だ。……俺たちの、本当の戦いが始まるぞ」

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