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第3話 コンサル稼業、始動。最初のクライアントは“氷の店”

数日が経ち、徐々にではあるが、氷の店を訪れる人がぽつぽつと増えてきた。


新しもの好きそうな若者、近所の子ども連れ、そしてどこかで噂を聞いたらしい女性客。通りがかりに足を止め、「冷たい甘味って何?」と中をのぞき込んでいく。


だが、思ったような手応えはまだない。


「興味を持ってはくれるんですけど、買わずに帰っちゃう人も多いですね……」


そう言って肩を落とすアランに、俊はうなずいた。


「この世界にない商品なんだ。よほど魅力を感じないと、わざわざお金は出さない」


「でも、味は美味しいって皆さん言ってくれますよね」


「そう。それがチャンスなんだ」


俊は腕を組んで、しばらく黙考した。


「……アラン。ちょっと()()()を広めさせてみよう」


「くちこみ……ですか?」


「誰かが人に紹介してくれて、興味を持った人が店に来る。それが何度も繰り返されれば、店の評判も広がっていく」


「でも、それって……どうやってやるんですか?」


俊は少し考え、こう提案した。


「店に来た人に『誰に紹介されたか』を聞くようにしてくれ」


「え?」


俊の提案に、アランとニコラは目を見合わせた。


「紹介してくれた人の名前を伝えてくれれば、紹介された側は――たとえば、アイスをいつもの1.5倍盛る。で、紹介してくれた人には、後日こっちからおまけを渡す。たとえば、次に来たときに同じように1.5倍にして渡す、とかね」


俊は、少し考えるように視線を上げる。


(紹介施策としては、正直かなり仕組みが曖昧だ。非紹介者の確認が難しいし、悪用される可能性もゼロじゃない。でも、この世界ではそれを言っても仕方ない)


「とにかく、誰かが他の人に“あのお店の冷たい甘味、おいしかったよ”って伝えたくなるような仕組みを作ることが大事なんだよ。実際に来て食べた人が、“あれ、いいかも”って思って、さらに自分にも得があったら、すすんで紹介したくなる。人って、自分のことだけじゃなく、ちょっとしたお得を誰かと共有したくなる生き物だからさ」


アランは小さく頷いた。「なるほど……そうやって、広めてもらうんですね」


ニコラも「わたし……紹介された方が来たら、ちゃんと確認して、1.5倍すくいます!」と、力強く言った。


俊はにっこりと笑い、「よし、それでいこう」と頷いた。


その日の営業終了後、俊は看板の横に設置した小さな黒板に新たな告知を書き加えた。


「紹介してくれた方にもおまけをプレゼント!くわしくは店員まで!」


文字の横には、ニコラが描いたニコニコ笑顔のアイスの絵が添えられていた。


「こんな感じでどうですか……?」


ニコラが少し不安げに言う。


「うん、わかりやすくていいよ。親しみやすさも出ているし」


俊は満足げに頷いた。


そこから数日は、大きな変化こそなかったが、じわりと効果は出始めていた。


「えっと、妹のエレナが『あのお店の甘味、すごく冷たいのに美味しい』って言っていたから……来てみました」


「昨日アイスを買ったミーナさんから聞いてきました!」


そう言って入ってくる客が、少しずつ増えていく。


ニコラは、その都度にこやかに対応し、紹介者の名前を確認してから、少し多めにアイスを盛った。最初は緊張していたものの、客の喜ぶ顔を見ていくうちに、自然と表情にも余裕が生まれてきた。


「この前の方、紹介者でしたっけ?」


「うん、ちゃんと記録しいてるから安心して」


アランが帳面を手にしながら、少し誇らしげに答える。俊はその様子を見て、口元を緩めた。


(仕組みは完璧じゃない。でも“気持ち”がちゃんと届いている。今はそれでいい)


リピーターも少しずつ現れ始めた。


「ニコラちゃん!また来ちゃった。あの冷たいの、クセになるね」


「食べると涼しくなって、暑い日も元気になっちゃう」


店の前に漂う、甘くミルキーな香りと、ニコラの柔らかい声が、確実に“この店”の空気をつくり始めていた。


俊は立て看板を整えながら、ふと空を見上げた。まだ夏の陽射しは強いが、遠くの空に、少しだけ秋の気配が混じり始めていた。


(次は……新商品だな)

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