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第3話 コンサル稼業、始動。最初のクライアントは“氷の店”

数ヶ月が経った。


王都の端、コルネ亭はすっかり賑わいを取り戻していた。朝の開店前から並ぶ常連もいれば、王都中心から噂を聞きつけて訪れる者もいる。


看板商品の《スイートクッキーブレッド》はもちろん、新たに開発された季節限定パンや、手土産用に並べた可愛らしいクッキーたちも好評だった。


俺はというと、日々の仕事を手伝いながら賃金を得て、ロランの紹介で近所にある小さな借家を借りた。ささやかではあるが、自分の寝床と机がある空間は、久しぶりに「生活している」実感を与えてくれた。


……そして、ここに来てようやく、本気で考えるべき時が来たと思った。


俺は、これからどう生きていくのか。


ティアたちには本当に世話になったし、ここで働きながら日々の改善に取り組むのも楽しかった。でも、このままパン屋の一従業員として暮らすのは、俺の性に合わない。


もっといろんな可能性を試してみたい。もっと多くの事業を見てみたい。そう考えたとき、ふと思い浮かんだのが――「経営コンサル」だった。


この世界にその言葉が通じるかはわからないが、現代の知識と考え方が役立つことは、コルネ亭で証明された。


だから、俺は決めた。俺はこの世界で、経営のアドバイスをする仕事――すなわち「経営アドバイザー」を始めてみようと。


問題は、どうやって仕事を取るか、だ。


そんな折、思いがけない形で、最初の依頼がやってきた。


ある昼下がり。俺がティアに言われてパンの焼き上がりを確認していたとき、一人の年配の女性客が店を訪れた。


彼女はスイートクッキーブレッドと森の恵みパンを手に取り、レジに並ぶ前に、ふとティアに声をかけた。


「ねえ、このパン屋さん……なんだか、前よりずっと賑やかになったわよね。何か、特別なことでもしたの?」


ティアは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに小さく笑った。


「えっと……ちょっと変わった考え方をする人が手伝ってくれて……その人がいろいろ教えてくれたんです」


「変わった考え方?」


「はい。あの黒板やポイントカードもそうですし、パンの名前を工夫したのも……全部、その人のアドバイスなんです」


「へぇ……」


女性はしげしげと黒板を見て、もう一度ティアの顔に視線を戻す。


「その人、今もここに?」


「あ、今、奥にいますよ。呼びましょうか?」


「いえ、いいの。あのね……その人に、ちょっとお願いがあって」


女性は周囲を見回し、小声になった。


「うちの甥が、店をやってるの。でも、最近ちょっと客足が落ちててね。身内の贔屓目を抜きにしても、彼は腕のいい職人なんだけど……経営となると、どうも……」


ティアは静かに頷いた。


「その方のお店、見てほしいってことですか?」


「そうなの。もちろん、報酬は出すわ。無理にとは言わないけれど、話を聞いてもらえると嬉しいの」


俺は奥で会話を聞きつつ、手を拭いて出てきた。


「どうも、俺がその“変わった考え方の人”です」


「あら……若い方なのね。でも、なんだか“できる男”って感じ」


軽く笑った女性は、手にしていた包みを抱え直した。


「私の甥ね、氷屋をやってるの。氷属性の魔法を使えるのよ」


「氷魔法……!」


俺は思わず前のめりになった。


魔法自体があることはさすがにもう知っていたが、今まで目にする機会がなかった。


この世界の魔法は、基本的には貴族の血筋に使えるものが多く産まれるらしく、平民で使えることはまれだからだ。


「その魔法、どんな風に使っているんですか?」


「食品とかの保存用に氷を売っているの。珍しいでしょ?でも、それだけに客層が限られていて……最近はどうにも苦戦しているのよ」


「……面白そうですね。もしよければ、詳しく話を聞かせてください」


「ほんとに?助かるわ。じゃあ、明日でもお店に来てくださらない?」


「承知しました。場所は……」


「ここからそう遠くないわ。地図を描いておきますね」


そう言って、彼女は小さな紙に簡単な地図を描き始めた。ティアがそれを覗き込んで、心配そうに俺の顔を見る。


「俊さん、気をつけてくださいね。氷屋さんって……たぶん、魔法で冷やすってことですよね?ちょっと寒いかもしれません」


「たぶん……凍え死ぬほどじゃないさ」


思わず笑って返すと、ティアも安心したように微笑んだ。


氷属性魔法の店。想像するだけで、胸が高鳴る。


未知の領域に足を踏み入れる――それが俺にとって、何よりも刺激的だった。

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