第6話 コルネ亭の再調査
数日後、コルネ亭のテーブルには、ロランが焼き上げた数種類のパンが並んでいた。ふっくらとしたミルクパン、バターの香りが豊かなブリオッシュ、そして少し茶色がかった香ばしい全粒粉パン。
店のドアが開き、アランとニコラが大きな氷の入った箱を抱えてやってきた。
「こんにちは! 約束のアイス、持ってきました!」
「わあ、いらっしゃい! 準備はできているよ!」
ティアが二人を笑顔で迎え入れる。テーブルには、パンの他にティアが用意した数種類のジャムも並び、壮観な光景だ。
こうして、四人による試食会が始まった。
「まずは、このミルクパンから試してみようか」
俊の言葉を合図に、それぞれが温められたパンを手に取る。アランが濃厚なミルクアイスを乗せ、ティアがクランダの実のジャムをそっとかけた。
「……おいしい! パンがふわふわだから、アイスがじゅわーって染み込んで……!」
ニコラが目を輝かせながら声を上げる。
「うん、これは王道で間違いない味だな。次に、ブリオッシュを試そう」
バターの風味が強いブリオッシュは、濃厚なミルクアイスに負けない存在感がある。
「ポポンの実の、少し苦いジャムが合いますね! 大人の味です!」
アランが興奮気味に言う。
最後に試したのは、全粒粉のパンだった。素朴なパンの風味は、アイスやジャムの味を邪魔せず、むしろそれぞれの個性を引き立てる。
「私は、これが一番好きかもしれない……! リンゴのジャムをかけると、パンの香ばしさとすごく合うわ」
ティアがうっとりとした表情で呟いた。
さまざまな意見が出たが、全員の評価が最も高かったのは、意外にも最初のミルクパンだった。
「パン自体がシンプルだからこそ、アイスとジャムの味を最大限に引き出してくれる。何より、この『染み込む感じ』が、新しい体験として一番面白い」
俊がそう結論づけると、全員が深く頷いた。
「決まりだな。商品は、このミルクパンの組み合わせでいこう。名前は……そうだな、『とろけるアイスサンド』がいい!」
その分かりやすく、魅力的な名前に、ティアとニコラは「素敵!」と声を弾ませた。
「さて、と。アラン、ニコラ。実はもう一つ、試してほしいものがあるんだ」
俊がそう言うと、厨房からロランが大きな皿を二つ、誇らしげな顔で運んできた。一つは鮮やかなオレンジ色の、もう一つはこっくりとした黄色い生地の、素朴な焼き菓子だ。
「わあ、きれい……!」
ティアが歓声を上げる。
「俊に教わってな、試作してみたんだ。こっちがキャロットケーキで、こっちがパンプキンケーキだ」
ロランが少し照れくさそうに説明する。切り分けられたケーキが、アランとニコラの前に置かれた。
「これが、にんじんのケーキ……?」
アランは恐る恐るフォークを入れ、一口運ぶ。次の瞬間、その目は驚きに見開かれた。
「……甘い! にんじんの味はするのに、ちゃんとケーキになってる……! 生地がしっとりしていて、すごく美味しいです!」
「本当だ……! パンプキンケーキも、優しい甘さ……。なんだか、心がほっとしますね」
ニコラも、うっとりと目を細めて感想を述べた。野菜がこんなに美味しいお菓子になるなんて、二人にとっては初めての体験だった。
「これなら、手土産にぴったりだ。日持ちもするし、見た目も可愛い。何より『野菜でできたケーキ』という意外性が、人の心を掴むはずだ」
俊は、満足げに頷いた。
とろけるアイスサンドと、二種類の野菜ケーキ。コルネ亭の新たな武器は、こうして整ったのだった。
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