第5話 KPIツリーによる改善始動!
俊とラッドを乗せた馬車は、五日間の道のりを経て、ついに王都へとたどり着いた。王都はグランツとは比べ物にならないほど巨大で、人々は落ち着いた雰囲気がありつつ、活気に満ちている。
「王都本店に到着したな」
「ああ、グランツでの成功、見事だったぞ。この馬車での五日間、お前が考えていた計画を、今から皆に話してくれ」
ラッドの言葉に、俊は静かに頷く。二人が向かった先は、商会の本店だった。本店は、グランツ支店とは異なり、重厚で格式高い雰囲気に満ちている。
俊とラッドが会議室に入ると、そこにはすでに本店の店長と、二つの支店の店長が集まっていた。
「全員揃ったな。早速だが、グランツ支店での改革について、俊から話してもらおう」
ラッドの言葉に、俊は前に出た。
「まずは、今回のグランツ支店での改革について、俺が何を考え、何をしてきたのかを話させてくれ。俺がやってきたことは、特別な魔法でも、奇跡でもない。現代の商売の知識と、客目線で考えるという、ごく当たり前のことを徹底しただけだ」
俊は、グランツ支店の売上が三倍近くにまで伸びたこと、そして、その要因となった施策を一つ一つ説明していく。
「まずは、在庫の見える化と、商品の導線。そして、接客の型化と、実演販売だ。これらの施策によって、グランツ支店は活気を取り戻し、お客様が買い物を楽しんでくれるようになったんだ」
俊の説明に、本店と支店の店長たちは、驚きと戸惑いの表情を浮かべている。特に、落ち着いた雰囲気を重視する本店の店長は、「実演販売」という聞き慣れない言葉に眉をひそめていた。
「実演販売、ですか……。この王都で、そのような活気ある商売が通用するとは思えませんが……」
「その通りだ。王都の落ち着いた雰囲気と、グランツの活気では、同じ手法は通用しない。だからこそ、カスタマイズするんだ」
俊は、そう言って、王都本店での施策について説明を始めた。
「王都では、『対話型接客』を徹底する。商品の良さを、大きな声でアピールするのではなく、お客様一人一人に寄り添うように、落ち着いた口調で、丁寧に説明するんだ。そうすることで、お客様は『特別扱いされている』と感じ、この店に信頼を寄せてくれる」
俊の言葉に、本店の店長は、納得したように頷いた。
「なるほど……。同じ『実演販売』でも、やり方を変えればいいのか……」
「そうだ。そして、接客の型も同様だ。グランツでは、活気を重視したが、王都では、丁寧さや上品さを重視する。お客様一人一人に心を込めて接客することで、この商会のブランドイメージを向上させ、他店との差別化を図るんだ」
俊は、さらに続けた。
「そして、リピーターを増やすための仕組みだ。王都のお客様は、ただ安いものを求めているわけじゃない。この店に通うことで得られる『特別感』と『優越感』を求めている。だからこそ、会員ランク制度がグランツ以上に有効なんだ。そして、王都では新商品の調達や開発に向けて、幅広いお客様にアンケートを行う。顧客の生の声は、売上を上げるために非常に貴重なものになるからだ」
俊の言葉に、ラッドは深く頷いた。
「俊の言う通りだ。グランツ支店での成功は、あくまで始まりに過ぎない。この成功を、全店舗で共有し、それぞれの街に合ったやり方で、この商会を立て直していく。それが、俺の使命だ」
俊は、ラッドの言葉に満足げに微笑んだ。
(ここからが、本当の勝負だ。まずは、この王都本店を、この街で一番の商会に変えてやる……!)
会議が終わると、俊はすぐに王都本店の店員たちを集めた。
「皆。今日から、この王都本店も変わる。まずは、グランツ支店でやったように、在庫の見える化と、商品の導線を変える。そして、接客の型と、対話型接客を導入する!」
俊の言葉に、店員たちは戸惑いを隠せない。しかし、俊の熱意と、ラッド商会長の信頼を目の当たりにした彼らは、少しずつその改革を受け入れていく。
その日のうちに、王都本店は様変わりした。
商品の陳列は、客の購買意欲を掻き立てるように工夫され、今まで見向きもされなかった商品が、光を浴び始める。そして、俊の指導のもと、店員たちは落ち着いた口調で、丁寧に客に語りかけるようになった。
客一人ひとりに寄り添い、商品の魅力を伝える。その丁寧な接客は、王都のお客様に大きな安心感と満足感を与えた。
「あら、このお店、なんだか居心地が良いわね」
「そうね、店員さんがとても親切だわ。また来たいわね」
来店した客は、口々にそう言いながら、買い物を楽しんでいく。
そして、その日の夕方には、本店でも会員ランク制度が導入された。お客様は、初めて手にするポイントカードに、次々とポイントを貯め始める。ランクアップを目指すという新しい体験に、彼らは興味津々だった。
俊の改革は、グランツ支店から、王都本店、王都支店へと、確実に広がり始めていた。
王都本店での改革は、初日から大きな反響を呼んだ。落ち着いた口調で、丁寧に商品の魅力を伝える『対話型接客』は、王都のお客様に大きな安心感と満足感を与えた。
そして、会員ランク制度の導入は、お客様の購買意欲を大きく刺激した。
「まぁ、このカード、素敵だわ。早く銀ランクになりたいわね」
来店した客は、初めて手にするポイントカードに、次々とポイントを貯め始める。ランクアップを目指すという新しい体験に、彼らは興味津々だった。
俊は、本店だけでなく、もう一つの支店の店長にも、同様の指導を行っていた。
「グランツ支店は、街全体が活気がある。だから、活気ある実演販売が効果的だった。それに比べて王都は落ち着いた雰囲気があり、そのなかでも支店は平民が多い区画に位置する。だから、本店のように丁寧すぎるよりも、親しみやすい接客を徹底すべきだ」
俊の言葉に、支店の店長は、感銘を受けたように頷く。
「なるほど……。街の雰囲気に合わせて、やり方を変えればいいのか……」
「そうだ。そして、在庫の見える化と、商品の導線も変える。お客様が、買い物を楽しめるように、工夫するんだ」
俊は、その日のうちに、支店でも商品の陳列を変え、店員たちに親しみやすさが伝わるような『対話型接客』のトレーニングを行った。
そして、その日の夜。俊はラッドと酒を酌み交わしていた。
「見事だった、俊。お前は本当に、俺の想像を遥かに超えた改革をしてくれた」
ラッドが、心から感嘆したように言った。
「ありがとう。でも、これは、まだ始まりに過ぎない」
俊は、そう言って微笑む。
「そうだな。お前の言う『KPIツリー』を元に、全店舗のさらなる改革を徹底すれば、年間売上4億リルも夢ではないだろう」
ラッドの目に、大きな希望が宿っていた。
「……ところで、お前がグランツで手伝っていたパン屋だが、最近売上が落ちているらしい」
ラッドの言葉に、俊の顔から笑顔が消えた。
「パン屋、ですか?」
「ああ。お前の性格なら、自分が関わった店の状況が悪化していたら気になるところだろう。それに、俺も世話になりっぱなしだしな。グランツの店は、しばらくは教えたことをやってもらって、成果を待つ期間が必要だ。その間に、王都からグランツに行って、パン屋の様子を見てきてはどうだ?」
ラッドの言葉に、俊は驚きと感謝の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、ラッドさん。そうさせてもらいます」
俊は、ラッドの心遣いに感謝し、グランツへ向かう決意を固める。
「それに、俺も知りたいんだ。お前が考案した施策に、何らかの欠陥があったとでもいうのか……?」
ラッドの言葉に、俊は焦りを覚える。彼の心に、不穏な影が差し込んでいた。
ラッドとの会話を終えた俊は、焦燥感を胸にコルネ亭への再調査に向かう準備を整えた。
「グランツ支店は、一か月後に再視察だ。それまでは、お前に教えたことを徹底してやってもらう。その間に、パン屋の問題を解決してきてくれ」
「ありがとう。助かるよ」
俊は、ラッドの心遣いに感謝した。
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