第5話 KPIツリーによる改善始動!
俊が提案した会員ランク制度は、店員たちにも驚きをもって受け入れられた。彼らは、客を『特別なお客様』として扱うという、この世界では画期的な発想に、戸惑いながらも興奮を隠せない。
「ポイントカードが2枚で銅ランク、5枚で銀ランク、10枚で金ランク、そして20枚で白銀ランク……。なるほど、これなら客も目標を持って買い物してくれる」
ブレンナーは、俊から渡された羊皮紙のカードと、金属製のカードを交互に見つめ、感心したように呟く。
「白銀ランクは、なかなかたどり着けない、超お得意様だけが手に入れられる特別なカードだ。だからこそ、それを持つお客様は、この上ない優越感を感じられる。他の店にはない特別感だ!」
俊は、ブレンナーの肩を叩き、笑顔でそう言った。
「よし、皆。今日からこの制度を導入する! 来店してくれたお客様には、必ずポイントカードを渡すんだ。そして、ランクアップしたお客様には、心を込めてカードを渡してくれ!」
店員たちは、一斉に「はい!」と返事をした。彼らの目には、新たな活気が宿っていた。
俊は、テーブルに並んだ様々なカードを片付けながら、ブレンナーと店員たちに言い含めた。
「さて、皆。リピーターを増やすための仕組みは分かったな。この制度が定着するまでは、徹底して顧客に説明してくれ」
「はい! 承知いたしました!」
ブレンナーと店員たちは、力強く返事をする。その目には、俊に教わった商売の楽しさ、そして自分たちの手で店を変えていくことへの熱意が宿っていた。
「そして、最後に紹介制度についてだ」
俊は、銀ランクのカードを手に取り、説明を続けた。
「銀ランクを達成したお客様には、ぜひ友人にこの店を紹介してほしい、と伝える。そして、紹介用の割引券を二枚渡すんだ。この割引券は、紹介された人が初めてこの店で買い物をする際に、金額から五パーセント割引する特典が付いている。そして、割引券を友人と一緒に持ってきたお客様は、紹介者と一緒に買い物をする。そうすれば、割引券の回収と、誰に紹介されたかの確認が同時にできる」
ラッドは、その言葉に深く頷いた。
「なるほど、それは面白いな。客が客を呼ぶ仕組み、か……」
「そうだ。そして、紹介が成功したら、紹介者にはポイントを十ポイントプレゼントする。こうすれば、紹介された人も、紹介した人も、お得な気持ちになる」
俊の言葉に、ラッドは感心したように頷く。
「よし、分かった。この仕組みを、すぐに導入しよう。俊、お前は本当に……。私の想像を遥かに超えている」
その日の夜、俊とラッドは荷物をまとめていた。
「ブレンナー、俺たちは明日、王都に帰る」
ブレンナーは、驚きの声を上げた。
「えっ!? ラッド商会長も、ですか!?」
「ああ。グランツ支店での改革は、一段落だ。ここからは、お前がリーダーとなって、この改革を継続していくんだ。そして、1か月後、俺が再視察に来る。それまでに、今日の話した施策を全て実行し、売上をさらに伸ばしておいてくれ」
俊は、ブレンナーの肩を力強く叩いた。
「はい! 必ず、期待に応えてみせます!」
ブレンナーの目に、力強い光が宿っていた。彼はもう、気弱な男ではなかった。俊に教わった、商売の面白さを知った、一人の立派なリーダーへと成長していた。
俊は、ラッドと目を合わせた。ラッドの目には、信頼と、確信の光が宿っていた。
翌朝、俊とラッドは、グランツ支店の皆に見送られながら、馬車に乗った。
「俊さん、またな!」
「頑張って店を盛り立てていくからな!」
店員たちの声が、俊の耳に届く。窓から見える彼らの笑顔に、俊は静かに頷いた。
馬車が走り出し、グランツの街が徐々に遠ざかっていく。
(よし。ここからが、本当の勝負だ……)
ラッドが、そんな俊の横顔をじっと見つめていた。
「お前は、この5日間で、何を考える?」
ラッドの問いかけに、俊は微笑んで答える。
「グランツ支店での成功事例を、どうすれば王都の本店や他の支店にも活かせるか……。各支店の特色や、街の規模を考慮し、施策をカスタマイズする必要があるな」
ラッドは、俊の言葉に深く頷く。
「そうだな。商会全体を立て直すという、この大きな仕事を任せたのは、他でもないお前だ。お前一人で全てを背負い込む必要はない。各支店のリーダーたちを育て、彼らが自律的に動けるようにする。それが、俺がもっともお前に期待していることだ」
俊は、静かに目を閉じた。馬車の揺れが心地よかった。彼の心の中には、この商会を年間売上4億リルにまで引き上げる、明確な道筋が見えていた。
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